ドローンで撮った何百枚もの写真が、ソフトウェアに読み込まれ、しばらくすると立体の点群やオルソ画像になって出てくる——。点群やオルソ画像の記事で触れてきた、あの変換の正体が、SfM(エスエフエム)です。
ただの平面の写真の束が、なぜ3次元の形に化けるのか。魔法のようですが、その原理は、実は私たち人間が毎日やっていることの応用です。ここでは、SfMとは何かという定義から、人間の目にも通じる原理、処理のステップ、きれいに仕上げる撮り方のコツ、苦手なもの、そして測量としての精度の担保までを、基礎から整理します。
SfMとは——「動き」から「構造」を復元する
SfMとは、Structure from Motion(ストラクチャー・フロム・モーション)の略で、直訳すれば「動きからの構造復元」。視点を変えながら撮影した多数の写真から、被写体の3次元形状(Structure)と、それぞれの写真を撮ったカメラの位置・姿勢(Motion)を、同時に推定する技術です。コンピュータビジョン(コンピュータに画像を理解させる研究分野)から生まれ、いまでは写真から点群を作る手法の主役になっています。
ここで、言葉の関係を整理しておきましょう。写真から地形や物の寸法・形状を測る技術の総称を、写真測量(フォトグラメトリ)といいます。航空写真から地図を作る技術として古くから発展してきた、歴史ある分野です。SfMは、その写真測量の現代版の中核エンジンにあたります。従来の写真測量が専門家による厳密な手順を要したのに対し、SfMは大量のデジタル写真から自動で3次元を復元できる。この「自動で」が革命でした。ドローンの普及と組み合わさって、写真測量は一気に身近な技術になったのです。
原理は、人間の目と同じ
SfMの原理は、突きつめれば私たちの両目と同じです。
人間は、左右に少し離れた二つの目で世界を見ています。右目と左目では、同じものが少しずれた位置に見える。このずれ(視差)の大きさから、脳は対象までの距離を計算し、世界を立体として知覚しています。近くのものほどずれが大きく、遠くのものほど小さい——このしくみを、幾何学の言葉でいえば三角測量です。
SfMは、これを「二つの目」ではなく「何百もの目」でやります。ドローンが動きながら撮った写真の一枚一枚が、それぞれ別の位置に置かれた目です。同じ地点が、たくさんの写真に、少しずつ違う角度から写っている。そのずれ方を手がかりに、逆算すれば、その地点の3次元の位置が割り出せる。カメラが「動く(Motion)」からこそ視差が生まれ、視差があるからこそ「構造(Structure)」が復元できる——名前のとおりの原理です。
SfMの処理ステップ——写真の束が点群になるまで
では、ソフトウェアの中では何が起きているのか。処理の流れを順に追ってみます。
第一に、特徴点の抽出。各写真の中から、模様の角や輝きの変化など、「他と見分けがつく目印」となる点を、コンピュータが自動で拾い出します。一枚の写真から数千〜数万の特徴点が見つかります。
第二に、マッチング。写真どうしを突き合わせ、「この写真のこの点と、あの写真のあの点は、同じ場所だ」という対応付けをしていきます。人間なら気の遠くなる照合作業を、機械は淡々とこなします。
第三に、カメラ位置の推定と三角測量。対応付けられた点のずれ方から、「それぞれの写真は、どこから、どんな向きで撮られたのか」を逆算します。カメラの位置と向きが分かれば、あとは三角測量で、各特徴点の3次元座標が計算できます。
第四に、バンドル調整。ここまでの計算には、写真ごとの小さな誤差が積もっています。そこで、すべてのカメラ位置とすべての点の座標を、全体の食い違いが最小になるように一斉に微調整します。この段階で得られるのが、特徴点だけからなる、まばらな点群(スパース点群)です。骨格はできましたが、まだ点はまばらです。
第五に、高密度化。MVS(Multi-View Stereo:多視点ステレオ)と呼ばれる処理で、特徴点だけでなく写真のほぼすべての画素について3次元座標を計算し、密度の高い点群(デンス点群)に育て上げます。SfMとMVSはセットで使われることが多く、あわせてSfM/MVS、日本の測量の世界では三次元形状復元計算とも呼ばれます。
こうして生まれた高密度点群から、面を張った3次元モデルや、地形の高さデータ(DSM)、そして正しい位置に並べ直したオルソ画像が作られていきます。点群とオルソ画像が「同じ処理から生まれる兄弟」だというのは、こういうことだったのです。
【点群データとは?|現実を数億の点で写し取る3次元計測のしくみと活用を解説】 https://hashiwatashi.com/point-cloud/
【オルソ画像とは?|空中写真を「測れる地図」に変える正射変換のしくみを解説】 https://hashiwatashi.com/ortho-image/
一つ、大切な性質があります。SfMは写真から復元する技術なので、写真に写らなかった場所は、決して復元できません。橋桁の裏、庇の下、木の陰。撮り漏らした場所は、3次元の世界でも穴になります。だからこそ、次に述べる「撮り方」が勝負を分けるのです。
きれいに仕上げる撮り方——重複・模様・光
SfMの成否は、処理ソフトの性能もさることながら、写真の撮り方でほぼ決まります。ポイントを整理します。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 大きく重複させる | 隣り合う写真どうしを大きく重ねて撮る。三次元点群測量では、進行方向の重なり(オーバーラップ)90%以上、隣のコースとの重なり(サイドラップ)60%以上が基準。一つの地点が4枚以上の写真に写るように |
| 模様を写す | 特徴点の手がかりになる模様(テクスチャ)が必要。真っ白な壁や一面の新雪のような単調な面は苦手 |
| 反射・透明を避ける | ガラス・水面・鏡面は、写真ごとに違う姿で写るため、誤った形に復元されやすい |
| 動くものを入れない | 車や人が動くと、写真間の対応付けが破綻し、ノイズの原因になる |
| 光を安定させる | 写真ごとに明るさが大きく変わると、同じ場所でも別物に見えてしまう |
とくに重要なのが、重複度です。SfMの原理は「同じ場所が複数の写真に写っていること」が大前提。重なりが足りなければ、対応付けそのものができません。国のマニュアルが「一つの点が4枚以上の写真に写るように」と定めているのは、原理からの当然の要請なのです。ドローンの飛行計画アプリでは、ラップ率を指定すれば自動でコースを組んでくれるので、実務ではこの基準を計画段階で織り込みます。
測量としての精度——基準点が「ものさし」になる
写真から形は復元できました。しかし、測量として使うには、もう一歩が要ります。復元された3次元モデルは、そのままでは「形は合っているが、大きさと位置が確定していない」状態だからです。
そこで登場するのが、標定点(ひょうていてん)です。あらかじめ地上に、座標を正確に測った目印——ドローンから見えるよう対空標識と呼ばれる標識板を置いた点——を配置しておき、写真に写り込んだその目印を手がかりに、モデル全体を現実の座標系へぴたりと固定します。さらに、精度を確かめるための検証点を別に設け、復元結果の誤差を点検します。
日本では、国土地理院が2016年に「UAVを用いた公共測量マニュアル(案)」を定め、i-Constructionの測量に対応する形で、ラップ率や標定点の配置、求める精度といった基準を整えました。写真から作った点群が、公共工事の出来形管理にも使える「測量成果」として通用するのは、こうしたルールの裏づけがあってこそです。
【i-Constructionとは?|建設現場の生産性革命、ICT施工からオートメーション化までを解説】 https://hashiwatashi.com/i-construction/
なお、近年はドローン自身が高精度な衛星測位で自分の位置を記録する方式も広がっており、標定点の設置を減らす工夫も進んでいます。それでも、精度を第三者に示すための検証という考え方は変わりません。
SfMの得意と不得意——レーザーとの使い分け
SfMの強みは、なんといっても手軽さです。必要なのはカメラと計算力だけ。ドローンに限らず、手持ちのカメラでもスマートフォンでも、原理は同じように働きます。写真由来なので、色の情報が自然に手に入るのも利点です。
一方で、弱みも原理に根ざしています。写らないものは復元できない。模様のない面、反射する面、動くものが苦手。そして、光がなければ写真は撮れないので、暗所では無力です。こうした場面では、自らレーザーを発して距離を測るレーザースキャナー(LiDAR)に軍配が上がります。写真測量とレーザー計測は、競合ではなく補完の関係。対象と条件に応じて使い分け、ときに組み合わせるのが実務の知恵です。
橋の世界でも、SfMは活躍しています。ドローンで橋を多方向から撮影し、SfMで3次元化すれば、図面のない古い橋の現況モデルが手に入ります。点検写真から部材の形を復元し、変状の位置を立体の上に記録していく——傷む前の姿を記録しておくという予防保全の発想とも、まっすぐつながる技術です。
【橋の維持管理と想像力|前兆を読み、リスクを見すえる予防保全の考え方】 https://hashiwatashi.com/bridge-maintenance-imagination/
まとめ
この記事では、SfMの基礎を整理しました。
SfMとは、視点を変えながら撮った多数の写真から、被写体の3次元形状とカメラの位置・姿勢を同時に復元する技術です。原理は人間の両眼視差と同じ三角測量。特徴点の抽出とマッチング、カメラ位置の推定、バンドル調整を経てまばらな点群が生まれ、MVSによる高密度化で、点群やオルソ画像の母体が育ちます。成否を分けるのは撮り方——大きな重複、豊かな模様、安定した光。そして標定点と検証点が、写真から生まれた形に「測量」としての裏づけを与えます。
写真は、誰もが毎日撮っているもっとも身近な記録です。その写真が、撮り方ひとつで橋を測るデータになる。SfMは、カメラという日常の道具と、測量という専門の世界とをつないだ技術だといえるでしょう。ドローンを飛ばす者にとっては、シャッターボタンの一押し一押しが、3次元の世界の一点一点を作っている——そう思うと、撮影計画にも自然と力が入るのです。


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