現場に着いて風速計を出し、3m/sと出た。今日は飛ばせる。この判断は、半分は正しく、半分は危うさを含んでいます。
危ういのは、その3m/sが自分の立っている場所の、その瞬間の値でしかないからです。機体はこれから高度を上げ、桁の下に入り、橋台の脇を抜けていきます。そこに吹いている風は、手元の数値とは別のものです。風を読むという作業は、風速計の数字を読むこととは違います。
風はドローンに何をしているのか
風の中でホバリングしている機体は、静止しているように見えます。しかし内部では、まったく静止していません。
マルチコプターが水平方向に移動するには、機体を傾けて推力の一部を横向きに使います。風に流されまいとするときも同じで、風上に向かって機体を傾け、流される分を打ち消しています。つまり風の中で位置を保つとは、常に風上へ向かって進み続けながら、進んだ分だけ流されている状態です。地面に対して止まって見えるだけで、空気に対しては動き続けています。
ここに落とし穴があります。位置の保持は自動で行われるため、風が強くなっても操縦者の手元には何の抵抗も返ってきません。映像も安定して見えます。異変が現れるのは、飛行時間が想定より短いという形か、風上に戻ろうとして機体が思うように進まないという形か、そのどちらかで、いずれも余力を使い切ったあとに気づく順序になっています。
風の中で電力がどう消費されるかについては、次の記事で扱っています。
【ドローンのバッテリーとは?|リチウムポリマー電池の仕組みと安全な取り扱い】 https://hashiwatashi.com/drone-battery/
機体に書かれた耐風の数値
カタログには最大風圧抵抗という項目があります。機体が姿勢を保っていられる風速の上限で、機種によってかなり違います。
| 機体 | 最大風圧抵抗 |
|---|---|
| DJI Mini 4 Pro | 10.7m/s |
| DJI Mavic 3 Pro | 12m/s |
| DJI Air 3 | 12m/s |
この数値の読み方には注意が必要です。示しているのは、その風速でも制御を失わずに姿勢を維持できるという意味であって、その風速で仕事ができるという意味ではありません。
橋梁の撮影では、部材の一点に機体を寄せ、同じ位置と角度を保ったまま複数枚を撮ります。機体が姿勢を保っていても、位置が数十センチ揺れれば構図は変わり、カメラの向きが微妙に振れれば画像はぶれます。ジンバルが吸収できるのは一定の範囲までで、それを超えると記録として使えないものが残ります。飛べる風速と、撮れる風速は別の値です。
一般に、重い機体ほど風に強くなります。慣性が大きく、同じ風の力で加速しにくいためです。ただし重い機体は落ちたときの被害も大きいので、風に強いから安全という単純な関係にはなりません。
5m/sという数字は、どこから来たのか
ドローンの風速の話には、必ず5m/sという数字が出てきます。これを航空法の規定だと理解している人が少なくありませんが、正確ではありません。
この数字が書かれているのは、飛行の許可や承認を受けるときに提出する飛行マニュアルです。国土交通省航空局が用意した標準マニュアルを使って許可を得た場合、そこに書かれた条件が自分を縛ります。機体の性能上は10m/sで飛べたとしても、標準マニュアルで許可を取っている以上、5m/s以上では飛ばせないという構図でした。
なお、ここでいう風速は地上10mの高さにおける10分間の平均風速を指します。時速に直せばおよそ18kmです。瞬間の値ではなく平均値であり、かつ足元の値でもないという点に、この数字の性格が表れています。
平均値であるという点は、実務ではもう少し重く受け止めたほうがよい部分です。10分間の平均が5m/sであれば、その10分の中には5m/sを下回る時間と、大きく上回る瞬間の両方が含まれています。瞬間的な最大の風速は、一般に平均風速の1.5倍から2倍程度に達するとされ、地形や構造物によって流れが乱される場所ではさらに大きくなります。平均で4m/sという数字を見て安心していても、機体は8m/s近い突風を何度か受けている可能性があるということです。
標準マニュアルが平均風速の条項とは別に、5m/s以上の突風が発生した場合には即時に飛行を中止するという条項を置いているのは、この差を織り込んだものと読めます。
そして令和7年3月31日、この標準マニュアルが改訂されました。風速5m/s以上では飛行させないという条項に、製造者等が定める取扱説明書等で5m/s以上の飛行が可能と確認している場合はその条件による、というただし書きが加わっています。5m/s以上の突風についての条項にも、同じ形の例外が付きました。
つまり現在は、機体の取扱説明書に書かれた耐風性能の範囲であれば、標準マニュアルのままでも飛行できる形に整理されています。以前は独自のマニュアルを作成して申請する必要があったことを考えると、実務上は大きな変化です。
ただ、この改訂を「上限が緩んだ」とだけ受け取るのは危険です。一律の数値による線引きがなくなったということは、どこで止めるかの判断が操縦者に移ったということでもあります。書類が決めてくれていた基準を、これからは自分で決めなければなりません。
風速計が測っているのは、足元の風
地表の近くでは、地面との摩擦によって風が弱められています。建物や樹木、地形の凹凸が大きいほどこの効果は強く、これを粗度(そど)と呼びます。高度が上がるにつれて摩擦の影響は薄れ、風は強くなります。
したがって、地上で測った風速と、高度30mや50mを飛ぶ機体が受ける風速は、同じ値になりません。市街地のように地表が粗い場所ほど、この差は大きくなります。離陸地点で穏やかだったのに、高度を上げた途端に機体が流されはじめるという経験は、多くの操縦者が持っているはずです。
時間帯による変化も無視できません。晴れた日は、日射で地表が暖まるにつれて大気がかき混ぜられ、上空の強い風が地表付近まで下りてきます。朝のうちは穏やかで、昼前から午後にかけて風が強まり、日没前後にまた収まるという流れは、多くの地域で共通して見られます。撮影の時間帯を選べる現場であれば、午前中の早い時間に組むだけで条件がかなり変わります。
事前の予測には、上空の風を高度別に表示する気象アプリが役に立ちます。ただしそれらが示すのも、その地点の一般的な風であって、構造物の周りで実際に起きることまでは含んでいません。
橋の周りで起きること
橋梁の点検撮影は、風という観点では特殊な現場です。理由は、橋そのものが気流を変える大きな物体だからです。
風が桁に当たると、流れは桁の上下に分かれ、角を回り込むときに壁面から離れます。この剥離(はくり)が起きると、桁の風下側には渦を含んだ乱れた流れができます。桁下は風がさえぎられて穏やかだろうという直感は、平均的な風速については当たっていても、風の乱れについては逆です。穏やかな場所ではなく、向きと強さが短い周期で変わる場所だと考えるべきです。
同じ橋でも、桁の形式によって流れの乱れ方は変わります。箱桁のように連続した面を持つ形式では、桁の縁で流れがはっきりと剥がれ、風下側に大きな渦の領域ができます。トラス橋のように部材の隙間を風が通り抜ける形式では、大きな渦にはなりにくい代わりに、細かい乱れが桁の内側にも生じます。斜張橋や吊橋では、ケーブルが多数並んでいること自体が流れを乱します。撮影の対象がどの形式かによって、機体を寄せたときの挙動は変わると考えておくべきです。
地形も効きます。谷を渡る橋であれば、谷筋は風の通り道になっていて、周囲より局所的に強い流れができます。川沿いの橋も同様で、水面の上は摩擦が小さいため、両岸より風が強く抜けます。橋脚と橋脚の間、橋台と地山との隙間のように、流れが狭められる場所では風速が増します。
さらに、晴天の日中には路面からの上昇気流が加わります。舗装は日射を受けて周囲より高温になり、その上には熱による上向きの流れができます。桁の側面に沿って機体を上下させるとき、この流れを横切ることになります。
これらは風速計の数字には現れません。現れるのは機体の挙動のほうです。同じ場所でホバリングしているのに機体が細かく振れ続ける、桁の下に入った瞬間に高度が持っていかれる、といった形で観察されます。
いつ引き返すかを、先に決めておく
以上を踏まえると、中止の判断を数値だけに預けるのは無理があります。判断の材料を、数値と現象の両方から持つべきです。
| 見るもの | 判断の材料 |
|---|---|
| 事前の予報 | 高度別の風速。時間帯による変化。前線や海陸風の影響 |
| 現地の風速計 | 足元の値。時間をおいて複数回測り、振れ幅を見る |
| 機体の挙動 | 姿勢の振れ、高度の保持、風上へ進むときの速度 |
| 映像 | ぶれの有無。撮った画像が記録として使えるか |
| 電力の減り方 | 想定より速いなら、それだけ風に逆らっている |
そのうえで、飛ばす前に決めておくべきことがあります。どの条件になったら引き返すか、です。飛行中の判断は、撮影を完了させたいという気持ちに引きずられます。あと1枚、あと1か所という判断が積み重なった先で、電力と風の余裕が同時に尽きます。
とくに重要なのが、帰りが風上になる経路を避けることです。風下に向かって進む往路は速く、楽に感じます。同じ距離を戻るときに向かい風になり、進まず、電力だけが減っていきます。橋の一方の端から入って対岸まで飛ばすような経路では、往路と復路で条件が違うことを前提に組むべきです。
そして、飛ばさないという判断そのものを、選択肢として持っておくこと。日程を組み直す手間と、機体を失う、あるいは第三者に被害を出すことを比べれば、答えは明らかです。橋梁点検におけるドローンの活用については、次の記事でも扱っています。
【ドローンによる橋梁点検のメリットと課題|現状とこれからを解説】 https://hashiwatashi.com/drone-bridge-inspection/
まとめ
この記事では、ドローンと風の関係について、風の中で機体が何をしているのかという原理から、最大風圧抵抗という数値の意味、5m/sという基準の出どころと令和7年3月31日の改訂、地上と上空の風の違い、そして橋梁という現場に固有の気流までを整理しました。
風速計は便利な道具ですが、示しているのは自分が立っている場所の値です。機体が飛ぶのは別の場所であり、そこには橋そのものが作り出した流れがあります。数値を出発点にしつつ、最後は機体の挙動と、その日の余力から判断する。飛ばせるかどうかを決めているのは、風速計ではなく操縦者のほうです。

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