ドローンはなぜ飛ぶのか|揚力とプロペラの回転差で動くしくみを解説

ドローンはなぜ飛ぶのか ドローン

空中でぴたりと静止するドローンを見ていると、不思議な気分になります。翼を動かすわけでもなく、複雑な機構が動いているようにも見えない。ただプロペラが回っているだけなのに、機体は空に張り付いたように止まり、次の瞬間には滑らかに前へ進んでいきます。

その動きの正体は、実にシンプルです。4つのプロペラの回転数を、わずかに変えているだけ。ここでは、そもそも翼が揚力を生むしくみから、プロペラが「回る翼」である理由、半分のプロペラが逆に回っている理由、上昇・前進・旋回という4つの動きの作り方、そしてなぜ訓練を積んでいない人でも飛ばせるのかまでを、順に解き明かしていきます。

空を飛ぶ原理は、二つしかない

まず、大きな見取り図から。空を飛ぶ航空機は、重量に打ち勝つ力をどう得るかによって、二つに大別されます。

一つが、浮力で上昇力を得るもの。飛行船がこれにあたります。もう一つが、翼の揚力で上昇力を得るもの。固定翼機と回転翼機が、ここに入ります。鳥のように羽ばたいて飛ぶ機体も理屈のうえではこちらですが、実用にはなっていません。

そして回転翼機は、さらに二つに分かれます。2セット以下のローターを使うヘリコプターと、3セット以上のローターを使うマルチコプターです。私たちが「ドローン」と呼んでいる機体の多くは、後者にあたります。

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翼はどうやって揚力を生むのか

固定翼機も回転翼機も、翼に働く揚力を利用しています。では、翼はどうやって揚力を生むのでしょうか。

翼には、翼型(よくがた)と呼ばれる独特の断面形があります。この翼型が、適切な角度——迎角(げいかく)で空気の中を進むと、進行方向に垂直な揚力と、進行方向に逆らう空気抵抗が発生します。

しくみは、二つの言い方で説明できます。一つは、翼の上面を流れる空気が加速され、圧力が下がるという説明。上面が低圧、下面が高圧になり、その差が翼を上へ押し上げます。もう一つは、翼が空気を下向きに押し曲げ、その反作用で翼が持ち上げられるという説明。この二つは対立するものではなく、同じ現象を別の角度から見たものです。

揚力の大きさは、翼の面積に比例し、飛行速度の2乗に比例して大きくなります。速く飛ぶほど、揚力は急激に増えるわけです。とっさに揚力を増やしたいときは、迎角を大きくするという手もあります。

ただし、これには限界があります。迎角がおおむね10度を超えると、翼の表面から空気の流れが剥がれる剥離(はくり)という現象が起き、揚力はかえって減少してしまうのです。これが失速です。姿勢を崩し、高度を失う——飛行にとって、最も危険な状態の一つです。

プロペラは「回る翼」——ねじれている理由

ここからが本題です。ヘリコプターのローターも、ドローンのプロペラも、断面は翼型をしています。つまりプロペラとは、回る翼にほかなりません。

前へ進むことで揚力を得る飛行機の翼に対して、プロペラは、自ら回転することで空気の中を進みます。だから機体が止まっていても、揚力(この場合は推力)を生み出せる。ホバリングができる理由は、ここにあります。

面白いのが、プロペラがねじれた形をしていることです。あれは意匠ではありません。プロペラが回転するとき、根元に近い部分はゆっくり動き、先端に近い部分は速く動きます。回転中心からの距離によって、翼としての条件が変わってしまうのです。そこで、根元から先端まで効率よく揚力を作れるよう、場所ごとに角度を変えてある。あのねじれは、回転する翼が抱える宿命への、設計上の答えなのです。

ホバリングという贅沢——飛行機の3倍以上

ローターやプロペラの推力は、空気を下向きに加速させたときの反力として得られます。ここで、少し残酷な事実があります。

同じ重量、同じ面積(ローターやプロペラの場合は回転面積)で比べたとき、ヘリコプターやマルチコプターは、飛行機よりも3倍以上のエンジン出力を必要とします。純粋に「飛ぶ」という意味では、回転翼機は飛行機より効率が悪いのです。

それでも回転翼機が存在するのは、飛行機には絶対にできないことができるからです。空中停止——ホバリングです。前へ進み続けなければ落ちてしまう飛行機に対し、その場に留まって対象をじっくり見られる。点検という仕事にとって、この能力は決定的です。効率という代償を払って、静止する自由を買っている。それがドローンという機体の立ち位置です。

なぜ半分のプロペラは逆に回るのか

ドローンをよく見ると、隣り合うプロペラが互いに逆向きに回っています。これには明確な理由があります。

プロペラが回ると、その反作用として、機体には逆向きに回ろうとする力が働きます。反トルクと呼ばれる力です。すべてのプロペラが同じ向きに回っていたら、機体は反対向きにくるくると回り続けてしまいます。

そこで、半分のプロペラを逆方向に回します。すると反トルクどうしが打ち消し合い、機体は向きを保てるようになる。空中で安定して飛ぶには、上下左右の力のつり合いだけでなく、こうした回転させる力——モーメントのつり合いも必要なのです。

ちなみに、ヘリコプターはこの問題を別の方法で解いています。メインローターの反トルクを、機体後部のテールローターが横向きの推力で打ち消す。あの尾部の小さなプロペラは、飾りでも補助でもなく、機体が回ってしまうのを防ぐ必需品なのです。

4つの動きは、こうして作られる

さて、いよいよ操縦の核心です。マルチコプターは、プロペラの回転数を変えるだけで、すべての動きを作り出します。

動きプロペラの操作起きること
上昇・降下すべての回転数を上げる/下げるトルクのつり合いは崩れないので、姿勢を保ったまま上下する
前進・後退前側を下げ、後ろ側を上げる(逆も同様)機体が前に傾き、推力の一部が前向きの力になる
左右移動右側を上げ、左側を下げる(逆も同様)機体が横に傾き、その方向へ移動する
旋回同じ向きに回る対角のペアを上げ、逆向きのペアを下げる反トルクのつり合いだけが崩れ、機体の向きが変わる

前進の作り方が、少し意外かもしれません。ドローンは前を向いて押し出されるのではなく、機体ごと前に傾くことで進みます。前へ傾けば、真上を向いていた推力がわずかに前向きの成分を持ち、その分だけ前へ進む。前後の回転数を上げ下げで相殺しているので、全体の揚力はほぼ変わらず、高度は保たれたまま前進できる、という仕組みです。

そして最も巧妙なのが、旋回です。上昇や前進では「崩さないように」していた反トルクのつり合いを、旋回では逆に、意図的に崩します。右回りのプロペラの回転数を下げ、左回りを上げれば、打ち消し合っていた反トルクに偏りが生まれ、機体はゆっくりと向きを変える。邪魔者だった反トルクを、そのまま操縦手段に転用しているわけです。

上下、前後、左右、向きの変更。この4つの自由度を制御するために、最低4つのプロペラが必要になります。機体を大型化したり、モーターやプロペラが故障したときの信頼性を高めたりするために、6つ搭載したヘキサコプター、8つ搭載したオクトコプターもあります。

ヘリコプターとの決定的な違い

この「回転数を変えるだけ」という単純さが、どれほど画期的か。ヘリコプターの操縦機構と比べると、よく分かります。

ヘリコプターは、ローターの回転数ではなく、羽根の角度(ピッチ角)を変えて揚力を操作します。しかも、回転している最中の羽根の角度を変えなければなりません。そのためにスワッシュプレートという特殊な機構が使われ、ローターの付け根には、上下の動きを許すフラッピングヒンジ、水平面内の動きを許すリードラグヒンジ、角度を変えるフェザーヒンジという3種類のヒンジが組み込まれています。加えて、機体を傾けるにはこの円盤を傾け、向きを変えるにはテールローターの角度も変える。精密な機械部品の塊です。

対してマルチコプターは、モーターにプロペラを直結し、その回転数を電子的に変えるだけ。可動部は、回っているプロペラだけです。この機構の単純さこそが、ドローンを小型化・低価格化し、これほど普及させた原動力でした。

なぜ、訓練を積んでいなくても飛ばせるのか

ここまで読んで、疑問が湧いたかもしれません。4つのプロペラの回転数を、そんなに細かく調整できるものだろうかと。

答えは、「していない」です。少なくとも、人間はしていません。

その仕事を担っているのが、フライトコントローラーです。操縦者に代わって機体の姿勢を常に安定に保ち続ける、いわば自動操縦の頭脳。ジャイロセンサや加速度センサが機体の傾きを検知し、フライトコントローラーが即座に各モーターの回転数を修正します。小型のドローンは大気の乱れで簡単に傾いてしまうため、この修正は数ミリ秒という間隔で繰り返されています。人が「前へ」とスティックを倒したとき、実際に4つのプロペラをどう調整するかは、機械が決めているのです。

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しかし、姿勢が安定しているだけでは足りません。空中というのは、いわばツルツルのスケートリンクのようなもので、少しでも力が加われば、機体は氷の上を滑るようにどこまでも流れていってしまいます。かつては、この流れを操縦者が巧みなスティック操作で押さえ込んでいました。

これを解決したのが、衛星測位です。機体が自分の位置を知り、流された分を自動で戻す。この位置制御があるからこそ、スティックから手を離してもその場に静止し続けるという、あの安定したホバリングが実現しています。電波が切れたら離陸地点へ帰る自動帰還機能も、位置が分かるからこそ成り立つ機能です。

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橋の下で、何が起きるか

そして、ここからが点検の現場に直結する話です。

衛星測位が使えない場所では、何が起きるのでしょうか。近年の機体は、機体下部のカメラで地面の模様を見て位置を保つ、ビジョンポジショニングと呼ばれるしくみを備えています。衛星の電波が届かない場所でも、これがあれば位置を保持できます。

ただし、これにも弱点があります。暗い場所では地面が見えません。単色の床や、同じ模様が延々と続く面では、位置の手がかりがつかめません。水面の上も苦手です。

そして、衛星測位もビジョンも効かなくなったとき、機体は姿勢制御だけを行うモードへ切り替わります。高度は気圧センサーで保たれますが、水平方向の位置は保持されません。つまり、風が吹けば、そのまま流されていく。障害物検知も働かなくなることがあります。あの「手を離せば止まる」機体が、突然、氷の上に戻るのです。

橋の下は、まさにこの状態に陥りやすい環境です。桁が頭上をふさいで衛星の電波を遮り、日陰で暗く、水面が近い。点検で桁下にもぐるという行為は、機体の助けが最も薄くなる場所へ、あえて入っていくことにほかなりません。

原理を知っていれば、この意味が分かります。飛ばす前に、その場所で何が使えなくなるかを予測できる。そして、それが起きたときに何が必要かも。ドローンの飛行原理を学ぶことは、単なる知識ではなく、現場での安全に直結する備えなのです。

【ドローンによる橋梁点検のメリットと課題|現状とこれからを解説】 https://hashiwatashi.com/drone-bridge-inspection/

まとめ

この記事では、ドローンが飛ぶしくみを解説しました。

ドローンは、翼型をしたプロペラ——回る翼が生む揚力で浮かびます。飛行機の3倍以上の出力を要する非効率と引き換えに、空中停止という自由を手に入れた機体です。半分のプロペラが逆回転しているのは反トルクを打ち消すためで、上昇・前進・左右移動・旋回という4つの動きは、すべてプロペラの回転数の差だけで作り出されます。ヘリコプターが必要とした複雑な機構を持たないその単純さが、ドローンをここまで普及させました。そして、毎秒何百回もの姿勢修正と衛星測位による位置制御があるからこそ、私たちは訓練なしでも安定したホバリングを手にしています。

裏を返せば、その安定は、機体の自動制御が与えてくれている贈り物です。橋の下のように、その助けが薄くなる場所がある——その事実を知っているかどうかが、飛ばす人の力量を分けます。空に浮かぶ小さな機体の中では、物理と電子制御が、絶え間なくせめぎ合っているのです。

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