はじめに
前回の記事では、橋の点検方法について、近接目視・打音・非破壊検査・ドローンの4つを紹介しました。【内部リンク:橋の点検方法を解説|目視・打音・ドローンの活用】
その中でも、ドローンによる点検は近年急速に普及している方法です。橋梁業界でも導入が進んでおり、これからの維持管理に欠かせない技術になりつつあります。
今回は、ドローン点検のメリットと課題について、実際に業務でドローン点検に携わっている筆者の視点を交えながら解説します。
なぜ今、橋梁点検にドローンが活用されているのか
ドローンが橋梁点検の現場で活用されるようになった背景には、いくつかの社会的な要因があります。
ひとつは、日本のインフラ老朽化と人手不足です。1960〜1970年代に建設された多くの橋が一斉に老朽化を迎える中、限られた人員で広範囲の点検を行う必要があります。従来の方法だけでは、点検が追いつかなくなりつつあるのが現実です。
もうひとつは、ドローン技術そのものの進化です。機体性能の向上、カメラの高解像度化、操縦のしやすさなど、業務利用に耐えうるレベルまで技術が成熟してきました。
こうした背景が重なり、橋梁点検の現場でドローンが選ばれる場面が増えてきています。
ドローン点検のメリット
ドローンを橋梁点検に使うメリットは、大きく4つあります。
① 安全性の向上
最大のメリットは安全性です。
橋梁の点検では、高所での作業がつきものです。橋梁点検車に乗り出して下面を確認したり、主塔の上部に登ったりと、作業員の危険を伴う場面が多くありました。
ドローンを使えば、こうした高所作業のリスクを大幅に減らせます。作業員は地上や橋上の安全な場所から機体を操縦するだけで、危険な場所の状況を確認できるようになります。
② 効率性の向上
ドローンは、点検の時間とコストを大きく削減できる可能性があります。
従来は、高所点検車や足場の設置に時間と費用がかかっていました。場合によっては、点検のために交通規制を行う必要もあります。ドローンであれば、こうした準備が不要になるケースが増え、短時間で広範囲を確認できます。
③ 詳細な記録が残せる
ドローンに搭載された高解像度カメラで、点検箇所の写真や動画を詳細に記録できます。
その場では気づかなかった異常を、後からじっくり確認できる利点があります。また、複数の技術者で同じデータを見ながら議論したり、過去の記録と比較したりすることも容易です。
データとして残せることは、長期的な維持管理において大きな財産になります。
④ 人が近づけない場所の確認
橋梁には、人が近づきにくい場所が数多くあります。橋桁の下面、主塔の上部、橋脚の中腹などは、従来は橋梁点検車や足場を使っても確認が難しい場所でした。
ドローンであれば、こうした場所にも比較的容易にアクセスできます。これまで見えなかった場所を確認できるようになったことは、点検の質そのものを向上させる大きな変化です。
ドローン点検の課題
一方で、ドローン点検にはまだいくつかの課題もあります。万能の技術ではないことを理解しておくことが大切です。
① 天候の影響を受ける
ドローンは強風・雨・降雪時には飛行が困難になります。橋梁点検は屋外作業ですから、天候の影響を直接受けます。
計画通りに点検を進められないこともあり、スケジュールには余裕を持たせる必要があります。
② 法規制への対応
ドローンの飛行には、法律で定められた様々なルールがあります。業務として安全に飛行させるためには、適切な知識と手続きが欠かせません。
近年は無人航空機の国家資格制度も整備されており、業務利用ではこうした資格の取得が求められる場面が増えてきています。
③ 操縦者の技術が問われる
ドローンを安全かつ効果的に運用するには、操縦者の技術と経験が必要です。
特に橋梁周辺は、構造物が複雑に入り組んでおり、風の流れも変わりやすい環境です。安全に飛行させながら必要な点検箇所を確実に撮影するには、機体の特性を理解した上での慎重な運用が求められます。
④ 触診や打音点検の代わりにはならない
ドローンは「見る」ことしかできません。
打音点検のようにコンクリート内部の劣化を音で判別したり、触診で表面の状態を確かめたりといった作業は、ドローンでは代替できません。ドローンは万能ではなく、他の点検方法と組み合わせて使うものという認識が大切です。
ドローン点検に関する資格
ドローンを業務で使う際には、無人航空機操縦者の国家資格が役立ちます。
国家資格には、より高度な飛行が可能な一等無人航空機操縦者と、業務利用の基本となる二等無人航空機操縦者があります。さらに、それぞれに「限定解除」という制度があり、夜間飛行や目視外飛行など、特定の条件下での飛行ができるようになります。
筆者も業務でドローンを使った橋梁点検に携わっており、二等無人航空機操縦者(夜間・目視外の限定解除済み)の資格を保有しています。実際にドローンを操縦しながら点検作業を行うと、技術的な利便性とともに、その難しさも肌で感じることができます。
実体験から感じるドローン点検の現在地
筆者自身、これまで主塔の点検でドローンが活きる場面に何度か立ち会ってきました。
主塔は橋梁の中でも特に高い位置にあるため、点検には大きな労力がかかります。高所点検車を用意するにしても、主塔が高すぎる場合はコストパフォーマンスや安全面の観点から、ドローンが現時点での最適解だと個人的には思料します。
一方で、橋梁の下面については、これまで橋梁点検車が担ってきた歴史があります。橋梁点検車の活躍の場はまだまだ残されており、すべてがドローンに置き換わるわけではありません。
ドローンと従来の点検方法は、それぞれの得意分野を活かしながら、現場で使い分けられているのが現状です。
これからのドローン点検
ドローン点検の未来は、さらに広がっていくと考えられています。
- AIによる自動損傷検出:撮影した画像をAIが解析し、ひび割れなどを自動で検出
- センサー技術の進化:可視光カメラだけでなく、赤外線などの多様なセンサーの活用
- 自律飛行の進化:あらかじめ設定したルートを自動で飛行する機能
こうした技術の組み合わせによって、点検の精度と効率はさらに向上していくでしょう。ただし、これからもドローンは「従来の点検方法を補完する技術」として位置づけられ、現場では複数の手法を組み合わせるハイブリッド運用が続くと考えられます。
まとめ
この記事では、ドローンによる橋梁点検のメリットと課題について解説しました。
- ドローンは安全性・効率性・記録性・アクセス性という4つのメリットを持つ
- 一方で、天候・法規制・操縦技術・適用範囲という課題もある
- 主塔のような高所には特に有効で、現時点では最適解とも言える場面がある
- 一方で、橋梁の下面など、従来の橋梁点検車が活躍する場面も残っている
- ドローンは万能ではなく、他の点検方法と組み合わせて使うのが現実的
ドローンは橋梁点検の可能性を大きく広げる一方で、現場では従来の方法と適切に使い分けられています。これからの橋の安全を支える重要な技術として、今後の発展が期待される分野です。
次回も、橋梁の世界をさらに広げていく内容をお届けします。お楽しみに。


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