はじめに
今回は「アーチ橋」を取り上げます。アーチ橋は、古くから世界各地で造られ、今もなお多くの場所で活躍している、橋のもっとも基本的な形式の一つです。その構造の原理から、いろいろな切り口で見た種類、身近な実例までを順に見ていきます。
アーチ橋とは
アーチ橋とは、上向きに弓なりに曲がった「アーチ」を主構造として用いた橋のことです。
アーチは、上側に凸の曲線を描く部材で、その両端(支点)は地盤や橋台にしっかりと固定されるか、ヒンジ(回転できる継ぎ目)で支えられます。橋に荷重がかかると、その力はアーチの曲線に沿って流れ、主に「軸方向の圧縮力」として両支点へと伝わっていきます。この圧縮力をうまく使って荷重を支えるのが、アーチ橋の最大の特徴です。
アーチ橋はとても歴史の長い形式で、古い教科書では「拱橋(きょうきょう)」と書かれていることもあります。アーチの足元、つまり立ち上がりの部分を「起拱部(きこうぶ)」と呼ぶのは、その名残です。
アーチ橋を支える力学的なしくみ
アーチ橋がなぜ強いのか、そのしくみを順に見ていきます。
圧縮力が支配的な構造
アーチ橋は、軸方向の圧縮力が支配的な構造です。石やコンクリートのように、引っぱる力には弱いものの押す力には強い材料と相性が良く、だからこそ古くから石造アーチ橋として世界中で建設されてきました。
イメージしやすいのは、石を弓なりに積み上げた石橋です。上から荷重がかかると、隣り合う石どうしが互いに押し合い、その力が連なって両端へと流れていきます。中央の頂部に置かれた石は「要石(かなめいし)」と呼ばれ、左右の石を押さえつけて全体を引き締める役割を果たします。接着剤がなくても、押し合う力だけで形が保たれる——これがアーチの賢いところです。
ただし、アーチの骨組みの線の形が急に変わる箇所などでは、曲げる力(曲げモーメント)やずらす力(せん断力)も生じます。圧縮力だけで成り立つ理想的な構造ではない、という点は頭に置いておきたいところです。
水平に踏ん張る力と、頑丈な橋台
アーチ橋を理解するうえで欠かせないのが、支点に生じる「水平方向の力」です。
アーチは荷重を斜め下へと伝えるため、両端の支点では、外側へ押し広げようとする水平の力が発生します。この力を受け止められないと、アーチは足元から開いてしまい、形を保てません。そのため、アーチ橋には頑丈で動かない橋台(きょうだい)と、それを支える良好な地盤が欠かせません。地盤の良い場所に架けることが理想とされます。
では、地盤が弱い場所には架けられないのでしょうか。そこで考え出されたのが「タイドアーチ」です。アーチの両支点どうしを「タイ」と呼ばれる引張材(引っぱりに耐える部材)でつなぎ、外へ開こうとする力を橋自身の中で受け止めてしまう形式です。これなら、強固な地盤がなくてもアーチを成立させられます。
アーチ橋の部位の名前
アーチ橋の話には、独特の部位名がいくつか登場します。種類の話に入る前に、整理しておきましょう。
アーチの本体となる曲がった部材を「アーチリブ」と呼びます。アーチリブとともに荷重を受け持つ桁を「補剛桁(ほごうげた)」、アーチリブと床面をつなぐ柱を「支柱」といいます。アーチの足元、地盤に力を伝える部分が起拱部(スプリンギング)で、その力を最終的に受け止める支台を「アーチアバット」と呼びます。これらの部材が、縦桁や横桁からなる床組を介して、人や車が通る床版(しょうばん)を支えています。
アーチ橋の特徴
アーチ橋には、以下のような特徴があります。
- 軸方向の圧縮力が支配的である
- 頑丈で動かない橋台が必要である
- 古くから存在し、大変強靭である(石橋がその例)
- 一般的に美しい曲線を描く
- 一般的に重い構造になりやすい
合理性と美しさを兼ね備えている点が、アーチ橋が長く愛されてきた理由だと考えます。歴史的な石橋から現代の長大橋まで、その姿は時代とともに進化を続けてきました。
アーチ橋を見分けるいくつかの視点
ひとくちにアーチ橋といっても、その形はさまざまです。まずは、見た目や支え方による分け方を三つの視点から押さえておきましょう。
路面の位置による分け方
橋を横から見たとき、人や車が通る路面(床版)がアーチに対してどこにあるかで、三つに分かれます。路面がアーチの上にあるものを「上路式(じょうろしき)」、アーチの中ほどにあるものを「中路式(ちゅうろしき)」、アーチから吊り下げるように下にあるものを「下路式(かろしき)」といいます。谷を渡る橋では上路式が、川や水面の上で桁下の高さを抑えたい場所では下路式が選ばれやすい、といった具合に、地形に応じて使い分けられます。
支点の条件による分け方
アーチの両端をどう支えるかでも分類されます。両端をがっちり固定したものが「固定アーチ」、両端にヒンジを設けたものが「2ヒンジアーチ」、両端に加えてアーチの頂部にもヒンジを設けたものが「3ヒンジアーチ」です。ヒンジが一つだけの「1ヒンジアーチ」もあります。固定アーチは剛性が高く、足元をヒンジにしにくい鉄筋コンクリートのアーチに多く見られます。一方、鋼のアーチでは、起拱部をヒンジにした2ヒンジアーチがよく採用されます。ヒンジを増やすほど、温度変化や支点のわずかな動きに対しておおらかな構造になります。
充腹式と開腹式
アーチリブと路面の間(スパンドレル部)の埋め方でも分かれます。この空間を壁やコンクリートで詰めたものを「充腹式(じゅうふくしき/閉腹式)」、支柱を立てて開けておいたものを「開腹式」といいます。石造アーチや古いコンクリートアーチには充腹式が多く、見た目にもどっしりとした印象になります。
アーチ橋の代表的な種類
ここからは、アーチと桁の組み合わせ方による代表的な種類を、一つずつ見ていきます。どの部材に「曲げる力」を多く受け持たせるかが、見た目の「アーチと桁の太さのバランス」にそのまま表れる、という視点で眺めると分かりやすくなります。
アーチ橋
もっとも基本的な形式で、アーチリブそのものが曲げ・せん断・軸力をまとめて受け持ちます。アーチが主役としてしっかりと太く設計され、文字どおりアーチが橋を支えている、という姿になります。次に紹介するランガー橋やローゼ橋は、このアーチ橋の役割分担を変えた仲間と考えると、違いがつかみやすくなります。
ランガー橋
アーチ部材を細くし、桁を太くした形式です。アーチリブには軸方向の力(圧縮力)だけを受け持たせ、本来アーチが負担する曲げる力やずらす力は補剛桁に分担させます。その結果、アーチをスリムで軽やかに見せることができます。
ローゼ橋
アーチ部材と桁の両方に、ある程度の太さを持たせた形式です。アーチリブと補剛桁の両方が曲げる力を分担し、アーチと桁が協力して荷重を受け持ちます。そのため、ランガー橋よりもアーチがしっかりとした見た目になります。
逆ランガー橋
ランガー橋を上下逆にしたような形式で、アーチが桁の下にある構造です。桁下の空間を有効に使えるため、地盤の良い谷間などに架けられることがあります。
ニールセンローゼ橋
ローゼ橋の桁とアーチを、斜めのケーブル(ハンガー)でつないだ形式です。ハンガーが交差するように配置されることで構造の効率が高まり、より大きな支間を支えることができます。
なお、見分け方の目安としては、アーチが細く桁が太ければランガー橋、アーチも桁もしっかりしていればローゼ橋、と覚えておくと、街で見かけたときに見当をつけやすくなります。
材料から見るアーチ橋
アーチ橋は、使う材料によっても表情が大きく変わります。
もっとも古いのが石造アーチです。石は圧縮力に強く、アーチと相性は抜群でした。石の積み方には地域性があり、西欧と日本とでは積み方が異なるのも面白いところです。木を組んで弓なりにした木造アーチも、日本では古くから親しまれてきました。
時代が進むと、鉄筋コンクリートのアーチが登場します。型枠(セントル)を組んでアーチリブを打設するため、足元をヒンジにしにくく、固定アーチとして造られるのが一般的です。そして鋼のアーチは、軽くて強く、長い支間を架けられるのが強みで、近代の長大なアーチ橋の主役となりました。
身近に見られるアーチ橋
身近なアーチ橋の代表として、長崎県の西海橋(さいかいばし)を紹介します。
西海橋は、1955年(昭和30年)に、佐世保市の針尾島と西海市の西彼杵半島を結ぶ橋として完成しました。中央径間は上路式の鋼製固定アーチで、アーチの支間長は216mに及びます。これは日本の橋として初めて支間長200mを超えたもので、完成当時は固定アーチ橋として世界で三番目の長さを誇り、「東洋一」とたたえられました。
架橋地点の伊ノ浦瀬戸(針尾瀬戸)は、日本三大急潮にも数えられる流れの速い海峡です。海中に橋脚を造ることができなかったため、両岸からアーチを片持ち式に少しずつ張り出し、斜めのケーブルで仮に支えながら、最後に中央で閉合させるという工法が採られました。これは当時、世界で初めての試みでした。橋がまだつながっていない、いちばん不安定な段階をどう乗り越えるか——その工夫が、戦後日本の長大橋建設の出発点になったと評価されています。
こうした架設のくふうについては、別の記事でもくわしく取り上げています。
【鋼橋の施工で大切なこと|輸送・架設・現場溶接の着目点】
https://hashiwatashi.com/steel-bridge-construction/
西海橋は2020年に国の重要文化財に指定されました。橋の下を流れる急潮や、春の桜とともに、今も多くの人を惹きつけ続けています。長崎を訪れる際には、ぜひ足を運んでみたい橋の一つです。
まとめ
今回は、アーチ橋について構造の原理から種類、身近な実例までを見てきました。要点を振り返ります。
- アーチ橋は、上に凸の曲線を主構造とし、荷重を主に軸方向の圧縮力として両支点へ伝える橋である
- 支点には外へ開こうとする水平の力が生じるため、頑丈な橋台と良好な地盤が欠かせない(地盤が弱い場所ではタイドアーチが使われる)
- 路面の位置(上路式・中路式・下路式)、支点の条件(固定・1〜3ヒンジ)、充腹式と開腹式など、見方によって分類できる
- アーチと桁の組み合わせ方による代表的な種類に、アーチ橋・ランガー橋・ローゼ橋・逆ランガー橋・ニールセンローゼ橋がある
- 材料は石・木・コンクリート・鋼と幅広く、それぞれに歴史と個性がある


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