はじめに
橋には実にさまざまな形がありますが、その中で「最も基本的な形」とされるのが桁橋(けたばし)です。私たちが日常的に渡っている橋の多くは、この桁橋にあたります。
橋の種類を構造形式で整理したとき、桁橋・トラス橋・アーチ橋・吊り橋・斜張橋という5つの分類を紹介しました。そのいちばんの出発点ともいえるのが、今回取り上げる桁橋です。
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シンプルに見える桁橋ですが、詳しく見ていくと「断面の形」と「支え方」によっていくつもの種類に分かれ、使われる材料によっても性格が変わります。この記事では、桁橋の分類と特徴を整理しながら、維持管理の現場から見た一面まで掘り下げていきます。
桁橋とは
桁橋は、桁を水平に渡した、最も基本的な橋の形です。橋を渡る人や車の重さは、まず路面を支える主桁(しゅげた)が受け止め、その主桁が両端の下部構造(橋台・橋脚)へと力を伝えます。橋の中で中心的な役割を果たすこの主桁を「主構造」と呼び、桁橋は主桁を主役にしたシンプルな構造といえます。
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桁橋の良さは、その わかりやすさ にあります。
- 構造が単純で、設計や製作がしやすい
- 重量を比較的抑えられて経済的
- 道路橋・鉄道橋だけでなく、歩道橋やモノレール、ペデストリアンデッキ(大型の公共歩廊)まで幅広く使われる
こうした扱いやすさから、日本にある橋の多くが桁橋として造られています。一方で、川幅が広く支間(しかん/橋を支える点と点の間の距離)が長くなるほど、桁には大きな力がかかり、設計上の工夫が必要になります。この「支間をどこまで延ばせるか」という視点は、桁橋を理解するうえで大切なので、後ほど改めて触れます。
桁橋には2つの分類軸がある
桁橋を詳しく見ていくと、その性格を決める分類軸が大きく2つあることが分かります。
- 主桁の 断面の形 による分類(鈑桁橋・箱桁橋など)
- 主桁の 支え方 による分類(単純桁・連続桁・ゲルバー桁)
この2つは別々の観点で、実際の橋では組み合わさっています。たとえば「鈑桁の単純桁」「箱桁の連続桁」といった具合です。順番に見ていきましょう。
断面の形による分類
鈑桁橋(ばんげたきょう)/I桁橋
鈑桁橋は、鋼板を組み合わせて断面を「I」の字のような形にした桁橋です。アルファベットの「I」に見えることから、I桁橋とも呼ばれます。
この形は構造が比較的シンプルで、製作しやすく、コストも抑えやすいのが利点です。設計では、主に曲げモーメント(桁をしならせようとする力)とせん断力(桁を断ち切ろうとする力)に対して断面を決めていきます。中小規模の橋に多く、地方の道路や生活道路の橋でよく見かけます。
ねじりに対する強さはそれほど大きくないため、まっすぐな直線の橋に向いた形です。
箱桁橋(はこげたきょう)
箱桁橋は、鋼板やコンクリートで断面を「箱」のように閉じた形にした桁橋です。断面が、中が空洞の四角い箱のような形になっています。
最大の特徴は、ねじりに強いことです。閉じた断面はねじりモーメント(桁をねじろうとする力)に対して高い抵抗力を持ち、曲げに対しても有利になります。このため、支間の長い橋や、平面的にカーブした曲線の橋に適しています。高速道路の高架橋など、比較的規模の大きな橋で多く採用されています。
直線が得意な鈑桁橋、曲線やねじりに強い箱桁橋、と整理すると、違いがイメージしやすいかもしれません。
そのほかの断面の形
このほかにも、桁の断面にはいくつかの形があります。
- T桁橋:断面が「T」の字の形をした桁橋
- 床版橋(しょうばんきょう/スラブ橋):はっきりした主桁を持たず、床版そのものを厚くして橋にしたもの。短い支間に向く
- 中空床版橋(ちゅうくうしょうばんきょう):床版の中に空洞を設けて軽くしたもの
それぞれ得意な条件があり、現場の事情に合わせて使い分けられています。
何でできているか(材料による違い)
桁橋は、断面の形や支え方だけでなく、「何でできているか」という材料によっても性格が変わります。代表的なのが、鋼(鉄)で造る鋼桁橋と、コンクリートで造るコンクリート桁橋です。
鋼桁橋
鋼桁橋は、工場で製作した鋼の桁を現場へ運んで架ける橋です。鋼は強くて比較的軽いため、桁を長く飛ばしやすく、架け方の自由度も高いのが利点です。一方で、鋼はさびるため、塗装などの防食と、繰り返しかかる荷重による疲労への配慮が、長く使ううえで欠かせません。
コンクリート桁橋
コンクリート桁橋は、鉄筋コンクリート(RC)やプレストレストコンクリート(PC)で桁を造る橋です。コンクリートはさびに強く、振動や騒音が出にくいといった扱いやすさがあります。中でもPCは、あらかじめ鋼材で圧縮の力を加えておくことで、より長い支間に対応できます。重量が大きくなりやすい点は、下部構造の設計に影響します。
どちらが優れているということではなく、橋の規模や架ける場所の条件、コスト、維持管理のしやすさなどを見比べて選ばれます。
支え方による分類
単純桁(たんじゅんげた)
単純桁は、主桁を両端の支点だけで支える、最も基本的な形式です。力のつり合いだけで桁にかかる力を求められる「静定(せいてい)」という扱いやすい構造で、設計や施工がしやすく、短い橋に多く使われます。ただし支間が長くなると、その分だけ桁を高くする必要が出てきます。
連続桁(れんぞくげた)
連続桁は、主桁を3つ以上の支点で連続して支える形式です。川幅が広いときは川の中に橋脚を立て、その上で主桁を切らずに連続させます。
主桁を分割しないことで本数を減らせて経済的になり、2径間(けいかん)以上にわたって連続させると、桁の高さを低く抑えられるという利点もあります。橋のつなぎ目が減るため、走行性(車の乗り心地)や耐震性の面でも有利です。一方で、連続桁は力のつり合いだけでは支点の反力が決まらない「不静定(ふせいてい)」な構造で、橋脚が不均等に沈下すると桁に余分な力が生じるため、設計や地盤の見極めに注意が必要になります。
ゲルバー桁
ゲルバー桁は、連続した桁の途中にヒンジ(部材どうしをピンでつなぎ、回転を許す部分)を設けた形式です。ヒンジを入れることで、連続桁でありながら静定構造として扱えるようになります。
コンピュータが普及していない時代には、複雑な不静定構造の計算を避けられること、橋脚が多少沈下しても影響を受けにくいことから、ゲルバー桁は重宝されました。連続桁の経済性と、単純桁の扱いやすさをあわせ持った形式といえます。
補修・維持管理から見た桁橋
ここまでは「どう造るか」という設計の視点で見てきましたが、橋は造って終わりではありません。長い年月のあいだ点検し、傷んだところを直しながら使い続けていくことになります。補修設計の現場から桁橋を見ると、また違った景色が見えてきます。
たとえば、先ほどのゲルバー桁。設計の歴史の中では便利な形式でしたが、維持管理の面では弱点も抱えています。ヒンジの部分は構造的に狭く、橋の上から雨水やほこりが入り込みやすいため、コンクリートのひび割れや鋼材の傷みが進みやすい場所です。さらに、ヒンジ部には力が集中しやすく、地震や走行性の面でも課題があります。こうした事情から、ゲルバー桁は1965年ごろを境に新しく造られることが少なくなり、いまではほとんど新設されません。すでにあるゲルバー桁の中には、傷んだヒンジ部を取り除いて連続桁につくり替える補修が行われている例もあります。
連続桁や単純桁にも、点検で気をつけたい場所があります。桁と桁、あるいは桁と橋台のつなぎ目にある伸縮装置や、上部構造を支える支承(ししょう)は、水やゴミがたまりやすく、傷みが出やすい部分です。シンプルに見える桁橋でも、「どこに力がかかり、どこが傷みやすいか」を知っているかどうかで、見え方は大きく変わります。
設計の合理性と、何十年も使い続けるための維持管理のしやすさ。その両方を見比べながら橋の形は選ばれていきます。桁橋は、そのことを身近に教えてくれる存在でもあります。
桁橋では届かない長さのために
桁橋は万能ではありません。支間が長くなるほど桁には大きな力がかかり、桁を高く重くしても支えきれない領域が出てきます。
そこで、桁だけに頼らず、別の仕組みで桁を支えて性能を高める工夫が生まれました。三角形の骨組みで支えるトラス構造、曲線で力を流すアーチ構造、ケーブルで吊る構造などです。これらは桁橋の延長線上にある発想で、トラス橋・アーチ橋・吊り橋・斜張橋といった、より長い距離をまたぐ橋へとつながっていきます。
身の回りで桁橋を観察してみよう
桁橋の知識が増えると、いつもの風景が少し違って見えてきます。普段渡っている橋を、こんな視点でながめてみてください。
- 主桁の断面は、I字(鈑桁)だろうか、それとも箱(箱桁)だろうか
- 橋を支えている点はいくつあるか。両端だけなら単純桁、途中にもあれば連続桁かもしれない
- 桁は鋼だろうか、それともコンクリートだろうか
最初は見分けがつきにくいかもしれませんが、何度か観察するうちに、だんだん違いが分かるようになってきます。「この橋は連続桁の箱桁橋だな」と気づけたときは、橋の世界に一歩踏み込んだ実感が得られて、ちょっとうれしくなるはずです。
まとめ
この記事では、桁橋の分類と特徴を見てきました。ポイントを整理します。
- 桁橋は、主桁を主役にした最も基本的な橋の形で、シンプルさと使い道の広さが持ち味
- 「断面の形」では、直線に強い鈑桁橋、ねじりや曲線に強い箱桁橋などがある
- 「材料」では、軽くて長く飛ばせる鋼桁橋と、さびに強く扱いやすいコンクリート桁橋がある
- 「支え方」では、単純桁・連続桁・ゲルバー桁があり、静定・不静定や維持管理のしやすさに違いがある
- 支間を延ばす限界の先に、トラス橋やアーチ橋などの形式がつながっている
シンプルでありながら、奥が深い桁橋。次に橋を渡るときは、その足元の桁が「どんな形で、何でできていて、どう支えられているか」を、少しだけ想像してみてください。


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