いろいろな橋の形|可動橋・水路橋・跨道橋を解説

橋梁の基礎

はじめに

これまでの記事では、橋の構造形式(桁橋・トラス橋・アーチ橋・吊橋・斜張橋・ラーメン橋)と、材料による分類(鋼橋・RC橋・PC橋・複合橋・新材料の橋)を中心に解説してきました。

今回は少し趣を変えて、これまで取り上げきれなかった「個性派の橋たち」をご紹介します。船の通行に合わせて橋が動く「可動橋」、水を運ぶための「水路橋」、橋の上を道路や鉄道が通る「跨道橋・跨線橋」。どれも私たちの暮らしを支える、ユニークで興味深い存在です。

個性派の橋たち|3つのジャンル

橋というと、人や車を渡すためのものと考えがちですが、実は橋の役割や形にはさまざまなバリエーションがあります。

今回ご紹介する3つのジャンルは、次の通りです。

  • 可動橋(かどうきょう):船舶の航行に合わせて、橋桁を動かせる橋
  • 水路橋(すいろきょう):水を運ぶための橋
  • 跨道橋・跨線橋(こどうきょう・こせんきょう):道路や鉄道の上を通る橋

それぞれの世界を、一緒に覗いていきましょう。

可動橋とは

可動橋は、橋桁を動かすことで、船舶の航行を妨げないように設計された橋です。

港や河口など、大型船が頻繁に往来する場所では、橋を架けると船の通行を邪魔してしまうことがあります。かといって橋を高く架ければ、人や車が昇り降りするのが大変です。

そこで考案されたのが「動く橋」。普段は人や車が通り、船が通るときは橋を一時的に開けて道を譲る——この発想で生まれたのが可動橋です。

舟運が盛んだった時代の都市部では、可動橋が活躍する場面が多くありました。現在では舟運が減ったことで稼働している可動橋は少なくなりましたが、産業遺産や歴史的構造物として大切に保存されている橋もあります。

可動橋の種類|跳開橋・昇開橋・旋回橋

可動橋は、橋桁の動かし方によって、大きく3種類に分類されます。

跳開橋(ちょうかいきょう)

橋桁を上方向に跳ね上げて開けるタイプの可動橋です。橋の中央付近の桁が、ハの字に開くのが典型的な動きです。

跳開橋には「片葉式」と「双葉式(二葉式)」があり、双葉式は橋の両側から桁が同時に持ち上がり、ハの字を描きます。日本では双葉式の跳開橋が代表的な形式として知られています。

昇開橋(しょうかいきょう)

橋桁全体を、両端に建てた塔で垂直に持ち上げて開けるタイプの可動橋です。塔とロープ(または索条)の仕組みで、桁が水平の姿勢のまま、上下に動きます。

跳開橋に比べると桁が大きく動くため、塔が高くなりますが、その分大きな船舶でも通せるメリットがあります。

旋回橋(せんかいきょう)

橋桁を水平方向に回転させて開けるタイプの可動橋です。橋の中央に旋回軸があり、そこを中心に橋桁が水平に旋回します。

回転後は、橋桁が川の流れと平行になるため、船舶が両側を通れるようになります。古くから世界各地で採用されてきた形式です。

可動橋の実例|勝鬨橋

日本で最も有名な可動橋といえば、東京都中央区の隅田川に架かる「勝鬨橋(かちどきばし)」です。

1940年(昭和15年)6月14日に完成した、全長246mの跳開橋。中央径間51.6mが「ハ」の字に開く双葉式跳開橋で、完成当時は「東洋一の可動橋」と呼ばれた、日本の橋梁技術の到達点を示す存在です。設計・施工はすべて日本人技術者の手で行われたという点でも、技術史上の意義が大きい橋と言えます。

勝鬨橋は、当初は1日5回ほど跳開して大型船舶を通していました。1回の開閉に要する時間は約20分。橋脚の上に設けられた運転室から、警報サイレンと共に開閉操作が行われていました。

しかし時代の変化とともに、舟運の需要は減少し、逆に道路交通量は急増。1970年(昭和45年)11月29日を最後に、開閉は停止されました。1980年には電力供給も止められ、現在は「動かない可動橋」となっています。

それでも勝鬨橋の歴史的価値は高く、2007年(平成19年)に国の重要文化財に指定。跳開部の機械設備は、日本機械学会の機械遺産にも認定されています。築地側のたもとには「かちどき橋の資料館」があり、当時の発電機や電気設備、橋脚内の機械室などを見学することができます。

「再びこの橋を動かしたい」という市民の声も今なお根強く、勝鬨橋は今も多くの人に愛され続けています。

水路橋とは

水路橋は、人や車ではなく「水」を運ぶための橋です。

農業用水や水道水、発電用の水などを、谷や川を越えて運ぶ必要がある場合、橋の上に水路を通して水を渡します。これが水路橋です。

水路橋には大きく2つのタイプがあります。

  • 橋をかけて、その上に水路を載せる形式
  • 上部構造そのものを水路とする形式

また、水路橋は「水路橋(開水路を通すもの)」と「水管橋(パイプで水を通すもの)」に分類されることもあります。現在の上水道網では、水管橋として鋼管を使ったものが多く採用されています。

歴史的には、古代ローマ時代から水路橋は重要なインフラとして発展してきました。フランスの「ポン・デュ・ガール」やスペインの「セゴビアの水道橋」など、ローマ時代の水路橋は今も世界遺産として残されており、当時の技術力の高さを物語っています。

水路橋の種類と特徴

現代の水路橋は、用途や規模に応じてさまざまな形式があります。

「開水路型の水路橋」 橋の上部に水路を設け、開放された状態で水を流す形式。農業用水や疏水で多く採用されています。

「水管橋」 鋼管などのパイプで水を通す形式。上水道や工業用水で多く使われ、現代の都市インフラを支えています。

「サイフォン式」 水路橋の特殊な形態で、谷を越える際に逆U字型のパイプを使い、圧力差を利用して水を運ぶ形式です。

水路橋の特徴は、「人や車が渡らない」という点で、設計の自由度が比較的高いことです。耐荷重の条件が異なるため、独自の構造美を持つ橋が多く生まれてきました。

水路橋の実例|南禅寺水路閣

日本を代表する水路橋といえば、京都市左京区の南禅寺境内にある「南禅寺水路閣(なんぜんじすいろかく)」です。

1888年(明治21年)に完成した、全長93.2m、高さ約9mのレンガ造りアーチ水路橋。13基の橋脚が連続するアーチ構造は、古代ローマの水道橋を彷彿とさせる美しさです。

水路閣は、琵琶湖疏水(びわこそすい)の分線として建設されました。琵琶湖の水を京都市内へと運ぶ大規模事業の一部であり、設計を担当したのは琵琶湖疏水の主任技師である田邉朔郎(たなべ さくろう)。実は、日本最初期のRC橋として知られる「日ノ岡第11号橋」も同じ琵琶湖疏水関連の構造物で、田邉朔郎の設計です。明治期の日本の土木技術が、京都という古都の景観の中で結実した、歴史的にも貴重な構造物群と言えます。

【鉄筋コンクリート橋を詳しく知ろう|RC橋の構造と特徴を解説】 https://hashiwatashi.com/reinforced-concrete-bridge-details/

水路閣の建設当時は、伝統的な和風建築の南禅寺境内にレンガ造の構造物を建てることに対して、福沢諭吉をはじめとする多くの著名人から「景観を損なう」と厳しい批判の声が上がりました。しかし、田邉朔郎は周辺景観への配慮を重ねて設計を進め、結果として現在では南禅寺の風景と見事に調和し、京都を代表する写真スポットの1つとなっています。

完成から130年以上を経た現在も、水路閣の上には毎秒約2トンの水が流れ続けており、京都市民の水道水や農業用水として活用されています。「現役のインフラでありながら、観光地でもある」という稀有な存在です。

2025年5月には、南禅寺水路閣を含む「琵琶湖疏水施設」が国宝に指定する答申がなされ、その歴史的価値はさらに広く認められることとなりました。

跨道橋・跨線橋とは

跨道橋(こどうきょう)は、道路を跨ぐ橋。跨線橋(こせんきょう)は、鉄道線路を跨ぐ橋です。両者をまとめて「跨道橋・跨線橋」と呼ぶことが多くなっています。

都市部では、道路や鉄道の通行を妨げずに、空間を有効に利用するために、こうした「橋の上を別の道が通る」構造が数多く採用されています。立体交差を実現するためのインフラと言えます。

身近な例としては、

  • 駅前にある歩道橋
  • 高速道路の高架橋
  • 鉄道線路を跨ぐ自動車用の橋

などがあります。意識して見回すと、私たちの生活圏には驚くほど多くの跨道橋・跨線橋が存在しています。

跨道橋・跨線橋の役割と工夫

跨道橋・跨線橋には、通常の橋にはない独特の設計上の工夫があります。

「平らさが求められる」 通常の川を渡る橋であれば、船舶の通行を考えて橋の下に十分な空間を確保する必要があります。一方、跨道橋・跨線橋では、橋の上の道路や歩道をできるだけ平らに保つ必要があります。人や車、鉄道がスムーズに通行できることが最優先だからです。

「桁高(けただか)を抑える工夫」 橋の桁が厚いと、その分だけ橋の上の路面が高くなってしまいます。都市部では用地に制約があるため、薄い桁で長い支間を実現する設計が求められます。鋼桁や合成桁、PC桁など、これまでの記事で扱ってきた構造技術が活躍する場面でもあります。

「施工時の安全管理」 跨道橋・跨線橋を架けるときには、その下を通る既存の道路や鉄道を止めずに工事を進める必要があります。短時間の施工で済む工法(プレキャスト部材の架設、夜間工事、線路閉鎖時間内の施工など)が採用されることが多く、現場の段取り力が試される工事です。

跨道橋・跨線橋は、橋梁技術の総合力が問われる存在。橋を見るときに、橋そのものだけでなく、「その下に何が通っているか」「どんな制約の中で造られたか」という視点で観察してみると、新しい発見があるはずです。

まとめ

今回は、これまで取り上げてこなかった「個性派の橋たち」をご紹介しました。

  • 可動橋:跳開橋・昇開橋・旋回橋の3種類があり、船舶の航行に対応する
  • 代表例:勝鬨橋(東京都、双葉式跳開橋、重要文化財)
  • 水路橋:人や車ではなく水を運ぶための橋
  • 代表例:南禅寺水路閣(京都、琵琶湖疏水のレンガ造アーチ水路橋)
  • 跨道橋・跨線橋:道路や鉄道の上を通る橋。都市部のインフラを支える

橋の世界は、構造形式や材料だけでなく、こうした「役割」の違いによっても多彩なバリエーションがあります。普段何気なく通っている橋たちにも、それぞれ違ったストーリーが隠れています。

次回からは、土木の現場でいま実際に話題になっているテーマや、橋にまつわる仕事の世界など、これまでとは違った視点での話題を取り上げていきたいと思います。

「橋を学ぶ」だけでなく、「橋とともに生きる」視点を、これからも一緒に深めていきましょう。

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