はじめに
前回の記事では、ラーメン橋について構造の原理から種類までを解説しました。
【内部リンク:ラーメン橋を詳しく知ろう|構造の原理と種類を解説】
今回は橋の「材料」に視点を移して、「鋼橋(こうきょう)」を取り上げます。
橋は、その材料によって性質が大きく変わります。過去には6記事目で、橋の材料による分類(鋼・コンクリート・木)を概要レベルで紹介しました。
【内部リンク:橋梁の種類|材料による分類(鋼・コンクリート・木)】
今回はその深掘りとして、鋼を主構造に用いた鋼橋について、材料の特性と構造の特徴を順に見ていきます。
鋼橋とは
鋼橋とは、鋼材を加工・組み立てて造られた橋のことです。
ここでいう鋼材とは、鋼板、形鋼、棒鋼、鋼管などを指します。鉄に少量の化学元素を含ませて熱処理した材料の総称が「鋼」で、鉄そのものよりも強度・じん性・加工性に優れています。
橋の歴史を振り返ると、昔は木材が主要な材料でした。木材を接合するためにロープや鉄が使われていましたが、橋の規模が大きくなるにつれて、接合部の強度や耐久性に課題が生じるようになります。やがて、構造全体の強さや耐久性が、接合部の状態に大きく左右されることが分かってきました。
そこで橋梁分野で画期的だったのが、鋼の使用です。鋼は強度が高く、接合部の状態を調べやすい性質を持つため、橋の安全性と耐久性を大きく向上させました。
鋼橋の材料としての特性
鋼橋の特徴を理解するうえで、鋼という材料の基本的な性質を押さえておきます。
強度が高く、軽くできる
鋼は、コンクリートに比べて単位体積当たりの重量が大きい材料です。しかし、材料としての強度がはるかに高いため、必要な部材の断面を小さくすることができます。
結果として、橋全体としての自重は、鋼橋の方が小さくなるのが一般的です。軟弱な地盤の上に橋を建設する場合は、鋼橋が有利だと考えられています。
材質が均質で、製作精度が高い
鋼は工業的に製造される材料であるため、材質が均質で、強度のばらつきが少ないという特徴があります。
また、橋に使われる鋼部材は工場で製作されることが多く、精度の高い部材を造ることができます。施工現場では、これらを組み立てる作業が中心となるため、現場作業の効率も上がります。
加工性に優れる
鋼は溶接や切断、曲げ加工などの加工性に優れており、用途に応じた既製品も豊富にあります。設計の自由度が大きく、いろいろなデザインの橋を造ることが可能です。
鋼橋の構造的な特徴
鋼の材料特性を活かしながら、鋼橋ならではの構造上の注意点もあります。
接合方法の工夫
薄い鋼板を組み合わせて部材を造る際、部材どうしの接合には溶接や高力ボルトが使われます。接合部の強さや耐久性が、橋全体の安全性に直結するため、接合の品質は鋼橋において特に重要です。
座屈への注意
鋼橋では、引張に強く、薄い板で部材を形作ることができる反面、圧縮力に対しては「座屈(ざくつ)」と呼ばれる不安定現象に注意が必要です。
座屈とは、細長い部材や薄い板が圧縮力を受けたときに、急に大きく変形して破壊に至る現象です。例えば鋼I桁では、水平座屈、ねじれ座屈、垂直座屈など、いくつかの座屈パターンが知られています。
補剛材による対策
座屈を防ぐために、鋼橋では「補剛材(ほごうざい)」と呼ばれる部材が用いられます。代表的なものに、水平補剛材や中間垂直補剛材などがあります。
これらの補剛材を適切な位置に配置することで、薄い鋼板でも座屈を起こさず、安定した構造を実現できます。
鋼橋のメリットとデメリット
鋼橋には、以下のようなメリットがあります。
- 材料の強度が高いので、部材の断面を小さくできる
- 材質が均質で、強度のばらつきが少ない
- 部材を工場で製作できるため、製作精度が高い
- 構造の自由度が大きく、輸送・架設が容易
- 工事期間が比較的短い
- 部材の改良・補強が比較的容易にできる
一方で、以下のようなデメリットもあります。
- 錆びやすいため、定期的な塗装の塗り替えが必要
- 座屈や疲労と呼ばれる破壊現象に留意が必要
特に錆への対策は、鋼橋を長く使い続けるうえで欠かせません。塗装の状態を定期的に点検し、必要に応じて塗り替えることが、橋の寿命を大きく左右します。
鋼橋に採用される代表的な形式
鋼は加工の自由度が高い材料であるため、さまざまな構造形式の橋に用いられています。代表的な形式としては、以下のようなものがあります。
- 桁橋
- アーチ橋
- トラス橋
- 吊橋
- 斜張橋
これまでの記事で取り上げてきた構造形式の多くが、鋼橋として実現されています。長大なスパンを必要とする橋ほど、軽くて強い鋼の特性が活かされる傾向にあります。
身近に見られる鋼橋
身近な鋼橋の例として、**大鳴門橋(おおなるときょう)**を紹介します。
大鳴門橋は、1985年(昭和60年)に開通した、兵庫県南あわじ市と徳島県鳴門市を結ぶ鋼製の吊橋です。本州四国連絡橋の神戸〜鳴門ルートの一部として、淡路島と四国を結ぶ重要な役割を担っています。
全長1,629m、中央支間長876m、主塔の高さは144.3mに及びます。完成当時は、東洋一の吊橋として知られていました。
技術的に特筆すべきは、鳴門海峡の渦潮への影響を抑えるために採用された「多柱基礎工法」です。海底に多数の柱を立てて主塔の基礎を支えるこの工法は、自然環境への配慮と構造の安定性を両立させた、画期的な施工技術として高く評価されています。
主塔の鋼材重量は1基あたり約4,300トン、メインケーブルは直径5.37mmの高張力鋼線を約19,558本束ねた、直径約840mmの円形断面を持ちます。これらの数字からも、鋼という材料が長大橋を支える上で果たす役割の大きさが伝わってきます。
橋の下部には、海上遊歩道「渦の道」が整備されており、橋の構造を間近に見ながら、世界三大潮流の1つである鳴門の渦潮を楽しめる観光スポットとなっています。四国を訪れる際には、ぜひ立ち寄ってみたい橋の1つです。
まとめ
今回は、鋼橋について材料の特性から構造の特徴、身近な実例までを見てきました。要点を振り返ります。
- 鋼橋は、鋼材を加工・組み立てて造られた橋である
- 材料強度が高いため、橋全体としての自重を軽くできる
- 材質が均質で、工場製作による高い精度が得られる
- 接合は溶接や高力ボルトが使われ、接合部の品質が重要
- 座屈への対策として補剛材が用いられる
- 錆びやすいため、定期的な塗装の塗り替えが必要
- 長大橋を含む、さまざまな構造形式に採用されている
鋼橋は、近代以降の橋梁を支えてきた代表的な橋です。軽くて強いという材料の特性が、現代の長大橋の実現を可能にしてきました。
次回も、橋梁の世界をさらに広げていく内容をお届けします。お楽しみに。


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