はじめに
ここまで「鋼橋」「鉄筋コンクリート橋(RC橋)」「プレストレストコンクリート橋(PC橋)」と、橋の材料による分類を1つずつ詳しく解説してきました。
今回は、その集大成として「複合橋(ふくごうきょう)」について解説します。複合橋は、鋼とコンクリートという異なる材料を組み合わせることで、それぞれの長所を活かした構造です。「鋼の強さ」と「コンクリートの強さ」、両方の良いところ取りができる橋だと言えます。
少し概念が抽象的な部分もありますが、なるべく分かりやすく整理してお伝えしますね。
複合橋とは
複合橋は、鋼とコンクリートのように、性質の異なる材料を組み合わせて造られる橋の総称です。
複合橋は大きく次の2つに分類されます。
「合成構造(合成橋)」と「混合構造(混合橋)」、この2つを合わせて「複合構造(複合橋)」と呼びます。
複合構造 = 合成構造 + 混合構造
書籍などでは「複合橋」「複合構造」という言葉が、この2つを包括する大きな括りとして使われています。
なぜ複合橋が考案されたのか
鋼とコンクリートには、それぞれ次のような特徴があります。
- 鋼:引張に強く、軽量で加工しやすいが、コストが高く、塗装などの維持管理が必要
- コンクリート:圧縮に強く、安価で耐久性に優れるが、引張に弱く、重い
鋼橋とコンクリート橋を比較すると、それぞれに長所と短所があります。
「鋼の強さ」と「コンクリートの強さ」を、1つの橋の中で適材適所に使えないか——この発想から複合橋が考案されました。
鋼単体の橋に比べると、コンクリートを組み合わせることで建設コストを抑えられ、桁を軽量化できるため、橋脚も細くできます。「重さを支える橋脚も細くできる」という二重の効果があり、コストダウンの決め手となります。
合成構造と混合構造の違い
複合構造の中の2つの分類、「合成構造」と「混合構造」の違いを整理しておきます。
合成構造(合成橋)
「合成構造」は、異なる材料の部材を組み合わせて、1つの部材として一体で挙動するように造られた構造です。
例えば、鋼桁の上にコンクリート床版を載せて、両者を「ずれ止め」と呼ばれる部品で結合したものが、典型的な合成桁です。鋼とコンクリートが一体となって、橋桁全体として荷重を支えます。
混合構造(混合橋)
一方「混合構造」は、橋桁の長さ方向に沿って、ある部分は鋼桁、別の部分はコンクリート桁、というように、部材レベルで異なる材料を切り替えた構造です。
例えば、橋の中央部分には軽い鋼桁を使い、両端の支間にはPC桁を使う、という配置になります。鋼とコンクリートが部分ごとに役割分担をする形です。
代表例:合成桁橋
複合橋の代表例が「合成桁橋」です。これは、鋼桁の上にRC床版(鉄筋コンクリートの床版)を載せ、両者をずれ止めで結合した橋です。
合成桁橋は、桁橋の構造形式を変えずにコストダウンに取り組むため、桁橋の世界では非常に多く採用されています。一般的に「合成桁」と呼ばれる場合は、この鋼桁+RC床版の組み合わせを指すことが多いです。
ただし、「断面が2種類以上の材料で構成され、一体として挙動する部材で造られた橋」という合成桁の定義からは、鋼桁の上にRC床版を載せ、両者をずれ止めで結合したものだけが該当します。RC橋やPC橋の桁の上に部分的にRC床版をのせ、両者をずられ止めで結合した例は、合成構造の範疇からは外れます。
その他の複合構造の例
合成桁橋以外にも、複合構造には次のようなバリエーションがあります。
- 鋼管や矩形断面の鋼柱の中に、コンクリートを充填した「鋼管コンクリート柱」
- 鋼製の床組をコンクリートに埋め込んだ床版
- 鋼板とコンクリートを合成した構造
橋梁の上部構造から下部構造まで、複合構造の活用範囲は広がっています。
複合橋の長所
複合橋には、次のような長所があります。
「強度・剛性・耐久性・耐火性などを向上できる」 鋼とコンクリートのそれぞれの長所を組み合わせることで、橋全体の性能を高めることができます。
「急速施工に対応できる」 鋼部材の架設時に支保工や架設工・工期に制約がある場合、鋼部材を先に架設してからコンクリートを打設する手順で、施工期間を短縮できることがあります。
「重量のバランスが図れる」 コンクリートと鋼の置き換えにより、橋全体の重量バランスを調整できます。
「靭性や拘束効果が期待できる」 2種類の材料が相互に補完し合うことで、衝撃や変形に対する粘り強さが向上します。
「補修・補強に対応しやすい」 耐震補強を含めて、補修・補強が必要なときに対応できる構造を計画できます。
複合橋の短所・注意点
一方、複合橋には次のような注意点もあります。
「補修・補強・改良等が難しい場合がある」 異種材料を組み合わせている分、損傷が起きたときの補修工法の選択肢が限られることがあります。
「施工の難易度が高い」 特に鋼とコンクリートの複合橋では、配筋やコンクリートの締固めの作業の難易度を考えて、設計・施工する必要があります。鋼部材とコンクリート部材が交差する接合部周辺は、入念な施工管理が求められます。
複合橋の種類
複合橋は、上部構造から下部構造まで幅広い構造形式に応用されています。
橋梁上部工としては、「合成I桁橋」「合成箱桁橋」「合成トラス橋」「合成床版橋」「合成ラーメン橋」「合成アーチ橋」「複合PC橋」「複合斜張橋」などがあります。
橋梁下部工としては、「合成橋脚」「複合基礎工」などがあります。
過去の記事で扱ってきた「トラス橋」「アーチ橋」「ラーメン橋」「斜張橋」など、ほとんどすべての構造形式に複合構造が応用できることが分かります。
身近な複合橋の実例|トゥインクル(湾岸木曽川橋・湾岸揖斐川橋)
複合橋の代表的な実例として、伊勢湾岸自動車道に架かる「トゥインクル」をご紹介します。
トゥインクルは、三重県桑名市内で木曽三川(木曽川・長良川・揖斐川)を渡る双子の橋、「湾岸木曽川橋(わんがんきそがわばし)」と「湾岸揖斐川橋(わんがんいびがわばし)」の愛称です。2002年(平成14年)3月に供用開始されました。
この橋の最大の特徴は、「世界初のPC・鋼複合エクストラドーズド橋」であることです。
「エクストラドーズド橋」とは、桁橋と斜張橋の中間に位置する構造形式で、主塔の高さが斜張橋より低く、ケーブルが主桁を補強する形で力を伝えるのが特徴です。トゥインクルでは、このエクストラドーズド構造に、鋼とPCの複合構造を組み合わせるという、当時としては非常に挑戦的な設計が採用されました。
- 湾岸木曽川橋:橋長1,145m、最大支間275m
- 湾岸揖斐川橋:橋長1,397m、最大支間271.5m
- 構造形式:5径間連続のPC・鋼複合エクストラドーズド橋
- 受賞歴:2001年度 土木学会田中賞(作品賞)
複合構造の特徴を最大限に活かし、長大支間と経済性、施工性、そして美観を兼ね備えた橋として、日本の橋梁技術の到達点を示す作品の1つとされています。
世界初の試みが、日本の橋梁エンジニアたちの手によって実現された——そんな誇らしい実例と言えます。
まとめ
今回は、複合橋(合成橋・混合橋)について解説しました。
- 鋼とコンクリートのように、異なる材料を組み合わせて造られる橋の総称
- 「複合構造」は「合成構造」と「混合構造」の2つに大別される
- それぞれの材料の長所を活かし、短所を補い合うことができる
- コストダウンや工期短縮、強度・耐久性の向上など、多くの利点がある
- 一方で、施工の難易度や補修の難しさには注意が必要
- 合成桁橋から複合斜張橋まで、応用範囲は非常に広い
鋼橋・RC橋・PC橋を学んできた読者のみなさんにとって、複合橋はそれらすべての知識を統合する「橋梁技術の集大成」と言える存在です。
次回は、書籍『トコトンやさしい橋梁工学の本』に残されている最後のテーマ「新しい材料を用いた橋」について解説する予定です。FRP(繊維強化プラスチック)やアルミニウム合金など、これからの橋梁を支える新材料の世界を、一緒に見ていきましょう。
【鋼橋を詳しく知ろう|材料の特性と構造の特徴を解説】 https://hashiwatashi.com/steel-bridge-details/
【鉄筋コンクリート橋を詳しく知ろう|RC橋の構造と特徴を解説】 https://hashiwatashi.com/reinforced-concrete-bridge-details/
【プレストレストコンクリート橋を詳しく知ろう|PC橋の構造と特徴を解説】 https://hashiwatashi.com/prestressed-concrete-bridge-details/
【橋梁の種類|材料による分類(鋼・コンクリート・木)】 https://hashiwatashi.com/bridge-types-by-material/


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