デジタルツインとは?|現実と同期する「双子」のしくみと活用分野を解説

デジタルツインとは? 建築DX

現実の世界と瓜二つの「もう一つの世界」が、コンピュータの中にある。現実で起きたことは、すぐさまそちらの世界にも映し出される。そして、そちらの世界で試したことが、現実の判断に活かされる——。SFのような話ですが、これはすでに動き始めている技術の説明です。その名を、デジタルツインといいます。

製造業から都市づくり、防災、医療、そして橋をはじめとするインフラの維持管理まで、いま幅広い分野で活用が見込まれている考え方です。ここでは、デジタルツインとは何かという定義から、アポロ計画にさかのぼる由来、しくみ、活用分野、そして橋の世界での可能性までを、基礎から整理します。

デジタルツインとは——現実空間の「双子」をデジタルに

デジタルツイン(Digital Twin)とは、現実世界の物体やシステムを、デジタル空間上に「双子(ツイン)」のように再現し、モニタリングやシミュレーションに活用するしくみです。現実の環境を仮想空間に映し取った、鏡の中の世界のようなイメージだと考えてください。

その構成は、三つの要素に整理できます。一つめは、現実空間(フィジカル空間)。橋なら、実際にそこに架かっている橋そのものです。二つめは、デジタル空間(サイバー空間)につくられた、対になるモデル。そして三つめが、両者をつなぐ情報連携です。センサーが現実の状態を感知し、ネットワークがデータを運び、情報基盤がそれを集めてモデルに反映する。この三つがそろって、はじめてデジタルツインになります。

ここで大切なのは、「精巧な3Dモデル」とデジタルツインは別物だ、ということです。どれほど精密な3次元モデルでも、つくった時点で止まっているなら、それは現実の「写真」にすぎません。デジタルツインの本質は、現実とつながり続けていること。現実からデジタルへデータが流れ込み、デジタルでの分析や予測が現実の判断へ返っていく。この往復があってこそ、「双子」の名に値するのです。

由来——アポロ13号を救った「地上の双子」

デジタルツインの考え方の源流は、意外なほど古く、宇宙開発にさかのぼります。

1970年、NASAのアポロ13号は、月へ向かう途中で酸素タンクの爆発事故に見舞われました。宇宙船は深刻な損傷を負い、乗組員の生還は絶望視されかねない状況。このとき地上の管制センターを支えたのが、地球上に用意されていた宇宙船のシミュレーターでした。宇宙を飛ぶ実機から通信で送られてくる最新情報をもとに、エンジニアたちは地上の「双子」で状況を再現し、対処法を検証してから乗組員に指示を送ったのです。この必死のトラブルシューティングは、乗組員の生還に貢献し、映画「アポロ13」でも描かれました。現実の機体と、それを映す対のモデル——デジタルツインの原型が、ここにあります。

概念として体系化されたのは、ずっと後のことです。2002年、米ミシガン大学のマイケル・グリーブス博士が、製品ライフサイクルマネジメント(製品の企画から廃棄までを一貫して管理する考え方)に関する発表の中で、「物理モデル」「仮想モデル」「両者の間の情報のやりとり」という3要素からなるモデルを提示しました。後にデジタルツインと呼ばれることになる考え方の、学術的な出発点です。

「デジタルツイン」という名前そのものが広まる契機は、2010年、NASAの技術者ジョン・ヴィッカーズがこの言葉を用いたこととされています。その後、2017年に米国の調査会社ガートナーが、注目すべき戦略的テクノロジーのトップ10に選んだことで、言葉は一気に世の中へ広がりました。宇宙で生まれ、製造業で育ち、いまや社会全体へ——それがデジタルツインの歩みです。

しくみ——データが往復し続ける

デジタルツインの動き方を、流れで見てみましょう。

まず、現実側の物体に取り付けたセンサーが、状態を感知し続けます。温度、振動、ひずみ、位置、稼働状況——測る対象はさまざまです。そのデータがネットワークを通じて集められ、デジタル空間のモデルに反映されます。モデルは常に、現実の「今」を映す状態に更新され続けます。

そのうえで、デジタル空間ならではの強みが発揮されます。集まったデータを分析して異常の兆候をつかむ。将来の変化をシミュレーションして予測する。「もしこうしたら?」という仮定を、現実を止めることなく何度でも試す。そして、その結果が、現実側の運用や判断へフィードバックされていきます。

従来のシミュレーションとの違いは、まさにここにあります。シミュレーションは、一度つくったモデルの上で仮想的な条件を試す、いわば「切り離された実験」です。対してデジタルツインは、現実と常に同期し続けます。現実が変われば双子も変わる。だからこそ、「今この瞬間の現実」に対する分析と予測ができるのです。

さらに面白いのは、バーチャルセンサーという発想です。デジタル空間の双子には、現実には設置していない仮想のセンサーを置くことができます。実物にセンサーを付けられない場所の状態を、モデル上の計算で推定する——現実では不可能な計測が、双子の世界でなら可能になるのです。

活用分野——製造から都市、防災、医療まで

デジタルツインは、いろいろな分野で活用が広がりつつあります。代表的なところを整理してみます。

分野活用の例
製造業工場の設備や製品の稼働状況を監視し、故障を予測。生産ラインの改善案を仮想空間で検証
都市3D都市モデルの上で人の流れや交通を分析し、都市計画やまちづくりの検討に活用
防災浸水や避難行動のシミュレーションによる被害予測、対策の事前検証
医療臓器や人体をモデル化し、治療方針の検討や手術のシミュレーションに活用
建設・インフラ構造物の状態監視、施工計画の検討、維持管理・予防保全への活用

とくに都市の分野では、日本でも大きな動きがあります。国土交通省は2020年度から、全国の3D都市モデルをオープンデータとして整備・提供する「PLATEAU(プラトー)」を進めており、誰もが都市のデジタルツインの土台を使える環境づくりが始まっています。まちの姿がデジタル空間に再現されれば、その上で防災も、交通も、都市計画も検討できる。都市そのものの「双子」をつくる取り組みです。

橋の世界で、デジタルツインはどう活きるか

さて、橋をはじめとするインフラの維持管理は、デジタルツインの活用がもっとも期待される分野の一つです。

橋にセンサーを取り付けて、振動やひずみ、変位を測り続ける。そのデータをデジタル空間の橋のモデルに流し込めば、橋の「健康状態」を常時見守るデジタルツインになります。通行量の多い橋や、監視が必要な損傷を抱えた橋を、24時間体制で見守る目が生まれるわけです。

点検との相性も抜群です。ドローンで撮影した大量の点検写真から、橋の3次元モデルを復元する技術は、すでに実用の段階にあります。点検のたびにモデルを更新していけば、ひび割れや腐食が「いつ、どこに現れ、どう広がってきたか」が、立体の履歴として蓄積されます。損傷の進み方が見えれば、劣化の予測も、補修の優先順位づけも、格段に確かなものになります。まさに、傷んでから直すのではなく、傷む前に手を打つ予防保全を支える情報基盤です。

【橋の防災・減災|対症療法型から予防保全型への転換と保全方式の使い分け】 https://hashiwatashi.com/bridge-disaster-prevention/

災害時にも力を発揮します。大地震の直後、どの橋が無事で、どの橋が危ないのか。地震計のデータと橋のデジタルツインを突き合わせれば、被害の程度を即座に推定し、点検や通行止めの優先順位を決める助けになります。人が現地に駆けつける前に、双子が第一報を教えてくれるのです。

【橋の耐震補強と再生|既存橋を地震から守る、ハードとソフトの対策】 https://hashiwatashi.com/bridge-seismic-retrofit/

そして、この橋のデジタルツインの土台になるのが、前回取り上げたBIM/CIMです。設計段階でつくられた、属性情報付きの3次元モデル。あれこそが、橋の双子の「生まれたときの姿」にほかなりません。BIM/CIMのモデルに、完成後のセンサーデータや点検結果を流し込み続ければ、モデルは橋と一緒に歳を重ねる、生きた双子に育っていきます。

【BIM/CIMとは?|設計・施工・維持管理をつなぐ3次元データ活用を解説】 https://hashiwatashi.com/bim-cim/

課題と、これから

夢のある技術ですが、課題も現実的です。センサーや通信、データ基盤への投資はまだ安くありません。集まり続ける膨大なデータを、誰がどう管理するのか。そして何より、双子を「現実に追随させ続ける」には手間がかかります。更新が止まった双子は、ただの古い模型に戻ってしまうからです。すべての橋に完全なデジタルツインを、というのは現実的ではなく、重要度に応じてかけるコストを選ぶ判断が要ります。

それでも、進む方向ははっきりしています。センサーは安く小さくなり、通信は速くなり、AIによる分析は賢くなっていく。現場の点検で人が見て、触れて、判断する価値は変わらないまま、その人の目と頭を、デジタルの双子が補い、広げてくれる時代が近づいています。

【橋の維持管理と想像力|前兆を読み、リスクを見すえる予防保全の考え方】 https://hashiwatashi.com/bridge-maintenance-imagination/

まとめ

この記事では、デジタルツインの基礎を整理しました。

デジタルツインとは、現実空間の物体やシステムをデジタル空間に双子として再現し、センサーとネットワークによる情報連携で現実と同期し続けるしくみです。アポロ13号を救った「地上の双子」に源流を持ち、2002年に概念として体系化され、いまや製造、都市、防災、医療、そしてインフラへと活用が広がっています。

ただの3Dモデルと双子を分けるのは、現実とつながり続けているかどうか。橋の世界では、BIM/CIMのモデルを土台に、センサーの計測と点検の記録を流し込み続けることで、橋とともに歳を重ねる双子が育っていきます。現実の橋を守るために、もう一つの橋をデジタルに持つ——それがインフラの新しい守り方になろうとしています。

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