DSM・DEM・DTMの違い|3つの数値標高モデルの意味と使い分けを解説

DSM・DEM・DTMの違い 建築DX

点群、オルソ画像、SfM、LiDAR——デジタル計測の話をしていると、必ず顔を出す3文字の兄弟がいます。DSM、DEM、DTM。どれも「地表の高さのデータ」を指す言葉ですが、この三つ、何がどう違うのか。そして、なぜ資料によって説明が食い違うのか。

実はこの用語たち、プロでも一瞬迷う「定義の揺れ」を抱えています。ここでは、三つの数値標高モデルの意味の違いを比較表で整理し、揺れの正体を解きほぐしたうえで、浸水シミュレーションからオルソ画像まで、場面ごとの使い分けを解説します。

共通の土台——「高さの地図」としての数値標高モデル

まず、三つに共通する土台から押さえましょう。

DSM・DEM・DTMは、いずれも地表の高さを、格子(メッシュ)状に記録したデジタルデータです。地図を方眼紙のように細かなマス目で区切り、マス目の一つひとつに「この場所の高さは何メートル」という数値を持たせる。写真の画素が色を持つように、このデータでは画素が標高を持ちます。いわば「高さの地図」です。

作り方の出発点は、多くの場合、点群データです。航空レーザー測量やドローン写真測量で得た膨大な点の高さを、格子ごとに集計・補間して、規則正しい高さの地図に整える。ばらばらの点の雲から、隙間のない面へ——この加工を経て、数値標高モデルは生まれます。

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では、同じ「高さの地図」なのに、なぜ三つも名前があるのか。違いはただ一点、「何の高さを記録しているか」です。

三つの違い——比較表で一望する

結論を先に、表で示します。

項目DSMDTMDEM
日本語名数値表層モデル数値地形モデル数値標高モデル
英語Digital Surface ModelDigital Terrain ModelDigital Elevation Model
記録する高さ建物・樹木・橋など地物を含んだ「見えている表面」地物を取り除いた「裸の地面」日本では地面の高さ(DTMとほぼ同義)。DSM・DTMの総称とする流儀もある
主な得られ方写真測量やレーザー計測の結果ほぼそのままDSMや点群から地物を取り除く処理(フィルタリング)を経て国の整備済みデータとして入手することが多い

一つずつ、かみくだきます。

DSM(数値表層モデル)は、空から見下ろしたときに「見えている表面」の高さです。地面はもちろん、ビルの屋上、木々のてっぺん、橋の路面——地物(ちぶつ:地上にあるもの)の高さをすべて含みます。ドローン写真測量や航空レーザー計測で得られる生の結果は、上から見えた表面の高さですから、まず得られるのはこのDSMです。

DTM(数値地形モデル)は、そこから建物や樹木を取り除いた、裸の地面そのものの高さです。都会ならビルを消して地盤面を、森なら木々を剥がして林床を記録します。計測データから地物の点を選り分けて除去する処理——フィルタリングを経て作られます。レーザー測量なら、葉の隙間を抜けて地面に届いたラストパルスが、この地面の高さの手がかりになるのでしたね。

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そして問題児が、DEM(数値標高モデル)です。

DEMという「くせもの」——定義の揺れの正体

DEMの説明は、資料によって食い違います。ある資料は「建物や樹木を除いた地面の高さ。DTMと同義」と書き、別の資料は「DSMとDTMを併せた総称がDEM」と書く。どちらかが間違っているのではなく、実際に両方の使われ方が存在するのです。

日本の実務での主流は、前者です。DEMといえば地面の高さ、つまりDTMとほぼ同じ意味。その代表が、国土地理院が整備・公開している基盤地図情報の数値標高モデル(DEM)で、これは建物や樹木を含まない、地面の高さのデータです。5mメッシュや10mメッシュのものが全国分無償で公開されており、日本で「DEM」といえばまずこれを指す、と言ってよいでしょう。

一方、言葉の成り立ちからいえば、Elevation(標高)は表面か地面かを特定しない中立的な言葉です。そのため、DSMもDTMも含めた「高さのデジタルモデル全般」の総称としてDEMを使う流儀も、国内外に存在します。

だから、実務の鉄則はこうなります。「DEM」という言葉に出会ったら、それが建物・樹木を含むのか含まないのかを、必ず確かめること。多くの場合は地面の高さですが、思い込みでデータを使うと、次に見るように、計算結果そのものが狂ってしまうからです。

違いを実感する——同じ場所の二つの高さ

言葉の定義だけでは、ぴんとこないかもしれません。実例で見てみましょう。

たとえば、東京駅の周辺。この一帯を地物込みのDSMで見ると、高層ビル群のおかげで、高さは100mを超える場所がいくつも現れます。ところが、同じ場所を地面だけのDEM(DTM相当)で見ると、高さはせいぜい数十メートル。ビルが消え、代わりに道路や川筋といった地形の起伏がくっきり浮かび上がります。同じ場所の「高さの地図」なのに、記録しているものが違うだけで、まるで別の風景になるのです。

この差は、副産物も生みます。DSMからDTMを引き算すると、残るのは「地面からの高さ」——つまり建物の高さや樹木の高さだけです。この差分は、都市の建物の階数把握や、森林の樹高の計測に、そのまま活用されています。二つの高さの地図は、引き算してもなお役に立つのです。

使い分けの実際——目的が決める、地面か表面か

では、どんな場面でどちらを使うのか。使い分けも表で整理します。

やりたいこと使うモデル理由
洪水・浸水のシミュレーションDTM(地面のDEM)水が流れるのは地面。建物の高さが混ざると水の道を読み誤る
土量計算・造成計画DTM(地面のDEM)掘り、盛るのは土=地面そのもの
オルソ画像の正射変換DTMが基本。建物まで補正するならDSM地面基準の変換では建物の倒れ込みが残る(DSMを使えば真オルソに)
日照・電波・景観のシミュレーションDSM光や電波を遮るのは建物や樹木という「表面」
建物の高さ・樹高の把握DSMとDTMの差分引き算すれば「地面からの高さ」だけが残る

考え方の芯は一つです。関心が「地面」にあるならDTM、関心が「見えている表面」にあるならDSM。

たとえば浸水シミュレーション。洪水の水は、ビルの屋上を流れたりはしません。地面の起伏に従って低いほうへ流れます。ここに建物込みのDSMを使ってしまうと、ビルの並びが「高さ100mの丘」として計算され、水の流れがでたらめになる。地面のデータを使うべき典型例です。

逆に、日照のシミュレーション。ある部屋に何時間日が当たるかを決めるのは、まわりの建物や木々の影です。地面だけのデータでは、影を落とす主役が消えてしまう。ここは表面のDSMの出番です。

そして、オルソ画像の記事で触れた正射変換。地面の高さで補正する通常のオルソでは、高いビルの倒れ込みが画像に残ります。建物の高さまで含むDSMで補正してはじめて、ビルの屋上が真上から見た位置に収まる「真オルソ」になる——あの話は、まさにDTMとDSMの使い分けそのものだったわけです。

【オルソ画像とは?|空中写真を「測れる地図」に変える正射変換のしくみを解説】 https://hashiwatashi.com/ortho-image/

どこで手に入り、どう作るのか

地面の高さ(DEM)については、恵まれた環境が整っています。先に触れた国土地理院の基盤地図情報として、全国の数値標高モデルが無償で公開されており、誰でもダウンロードして使えます。防災の検討も、地形の学習も、この公共データから始められます。

一方、DSMは「いまの表面」を写すデータなので、鮮度が命です。建物は建ち、木は育ちます。最新の表面が欲しければ、ドローン写真測量やレーザー計測で自ら取得するのが基本です。SfM処理からは点群とともにDSMが出力され、そこからフィルタリングを経てDTMを起こす——計測編で見てきた流れが、そのまま数値標高モデルの製造ラインになっています。

【SfMとは?|写真の束が3Dになるしくみ、写真測量の原理から撮り方までを解説】 https://hashiwatashi.com/sfm-photogrammetry/

なお、高さの表現には、格子ではなく三角形の網で表すTIN(不規則三角形網)という形式もあります。地形の変化が激しい場所は細かい三角形で、平坦な場所は大きな三角形で、と密度を変えられるのが持ち味で、土量計算などで活躍します。格子のモデルと合わせて、名前だけでも覚えておくと便利です。

まとめ

この記事では、DSM・DEM・DTMの違いを整理しました。

三つはいずれも、地表の高さを格子状に記録した「高さの地図」です。違いは記録する高さだけ。建物や樹木を含む「見えている表面」がDSM、それらを取り除いた「裸の地面」がDTM。そしてDEMは、日本では地面の高さ(DTMとほぼ同義)を指すのが主流ながら、総称として使う流儀もある——だからこそ、出会ったら「建物を含むか」を確かめるのが鉄則です。

使い分けの芯はシンプルです。水の流れや土の計算など、関心が地面にあるならDTM。日照や電波など、関心が表面にあるならDSM。そして二つの差分は、建物や樹木の高さを教えてくれる。3文字の兄弟を見分けられるようになると、点群からオルソ画像まで、計測データの世界がひとつながりの地図として見えてくるはずです。

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