非破壊検査とは?|壊さずに橋の中を診る11の方法を解説

非破壊検査とは? 橋梁

ドローンによる橋梁点検の記事で、こう書きました。ドローンは「見る」ことしかできない、と。目視で分かるのは、表面だけ。では、コンクリートの中の浮きや、見えない鉄筋の腐食、溶接の内部に潜む亀裂は、どうやって調べるのでしょうか。

橋を切り開いて確かめるわけにはいきません。健康かどうかを調べるために壊してしまっては、本末転倒だからです。そこで登場するのが、非破壊検査(ひはかいけんさ)。壊さずに、中を診る技術たちです。ここでは、非破壊検査とは何かという定義から、橋の「人間ドック」ともいえる各手法のしくみ、コンクリート橋と鋼橋それぞれの代表的な方法、そして使い分けの考え方までを、まとめて解説します。

非破壊検査とは——壊さずに、中を知る

非破壊検査とは、対象物を壊すことなく、その内部や表面の状態、きずの有無などを調べる検査の総称です。英語ではNDT(Non-Destructive Testing)と呼ばれます。

対になる言葉は、破壊検査です。たとえばコンクリートの強度を正確に知るには、構造物から円柱状のコア(供試体)をくり抜いて、試験機で壊れるまで圧縮するのが確実です。しかし、供用中の橋のあちこちに穴を開けるわけにはいきません。調べたい相手を傷つけずに、それでも中の様子を知りたい——この欲張りな要求に応えるのが、非破壊検査なのです。

そのからくりは、共通しています。音、電磁波、磁気、温度、電位。壊す代わりに、物理現象を対象に送り込み、あるいは対象から読み取り、その「返事」から中の状態を推理する。橋に聴診器を当て、エコーを撮り、レントゲンを撮り、体温を測る——そう、非破壊検査とは、橋の人間ドックにほかなりません。

11の方法を一望する

橋の非破壊検査でよく使われる手法を、コンクリート橋と鋼橋に分けて一覧にします。

手法使うもの主に分かること
打音検査ハンマーでたたいた音コンクリート表面の浮き・剥離
反発度法打撃の反発の強さコンクリート強度の推定
超音波法超音波の速さ・反射強度の推定、ひび割れの深さ、内部の欠陥
電磁波レーダー法電磁波の反射鉄筋の位置・かぶり、空洞、埋設物
電磁誘導法磁場の変化鉄筋の位置・かぶり・径
赤外線サーモグラフィ法表面の温度分布浮き・剥離の面的な検知
X線透過法放射線内部の直接可視化(配筋・グラウトなど)
自然電位法鉄筋の電位鉄筋腐食の進行度合い
磁粉探傷試験(鋼)磁化と磁粉表面・表面直下の亀裂
浸透探傷試験(鋼)浸透液と現像剤表面に開口した微細な亀裂
超音波探傷試験(鋼)超音波の反射溶接部などの内部の欠陥・亀裂

一つずつ、しくみを見ていきましょう。

コンクリート橋の非破壊検査——聴診から精密検査まで

打音検査は、いちばん基本の「聴診」です。点検ハンマーでコンクリートの表面を軽くたたき、その音で健全さを聞き分けます。健全な部分は澄んだ乾いた音、内部に浮き(表面近くの剥離)があると、濁ったこもった音。単純に見えて、熟練者の耳は驚くほど正確に変状を拾います。定期点検で近接目視とともに併用される、現場の主力です。

反発度法は、コンクリートの「握力測定」です。シュミットハンマーと呼ばれる器具をコンクリート面に押し当てて打撃し、跳ね返りの強さ(反発度)を測ります。反発度と圧縮強度のあいだには相関があることが知られており、換算式から強度を推定できます。コアを抜かずに、その場で強度の目安が得られる手軽さが持ち味です。

超音波法は、まさに「エコー検査」です。人の耳に聞こえない高い周波数の音波をコンクリートに送り込み、伝わる速さや反射を読みます。音波は、強度の高い密実なコンクリートほど速く伝わるため、速度から強度を推定できます。また、ひび割れがあると音波は先端を回り込むため、その伝わり方からひび割れの深さも測れます。

電磁波レーダー法は、電磁波でコンクリートの中を「透視」する方法です。アンテナから電磁波を放射すると、電気的な性質(比誘電率)が異なる材質の境界——鉄筋、空洞、埋設管など——で反射して戻ってきます。この反射を読み取ることで、鉄筋の位置やかぶり(表面から鉄筋までの深さ)、内部の空洞の様子が、壊さずに分かります。放射線を使わないため取り回しがよく、地中の埋設物探査にも広く使われている、応用範囲の広い手法です。

電磁誘導法も、鉄筋を探る定番です。コイルで磁場をつくり、その中に鉄筋があると生じる磁場の変化を検出して、鉄筋の位置・かぶり・径を推定します。

赤外線サーモグラフィ法は、「体温測定」の面バージョンです。コンクリート内部に浮きや剥離があると、その部分は熱の伝わり方が変わるため、日射などで温められたときの表面温度に、健全部とのわずかな差が生まれます。赤外線カメラでこの温度分布を撮影すれば、浮きの疑いのある場所が面的に、一度に浮かび上がります。広い床版や壁面を効率よくスクリーニングでき、ドローンに赤外線カメラを載せて撮る使い方とも好相性です。

X線透過法は、文字どおりの「レントゲン」。放射線を透過させてフィルムや検出器に写すことで、内部の配筋やPC鋼材まわりのグラウト(充填材)の状態などを、画像として直接見られます。強力な反面、放射線を扱うための管理が必要で、透過できる厚さにも限りがあるため、ここぞという精密検査で使われます。

自然電位法は、少し毛色の違う「血液検査」です。コンクリートの中の鉄筋は、腐食が始まると、その箇所の電位が低下するという電気化学的な性質があります。表面から鉄筋の電位を測って回れば、まだ外からは見えない腐食の進行度合いを、電気の言葉で診断できるのです。塩害が疑われる橋などで、症状が表に出る前の異変をつかむ手段になります。

コンクリートがどう傷むのか、その劣化のメカニズムはこちらで整理しています。

【コンクリート橋の点検・補修・補強|劣化のしくみと補修・補強の方法を解説】 https://hashiwatashi.com/concrete-bridge-maintenance/

鋼橋の非破壊検査——溶接部が主戦場

鋼橋の非破壊検査の主戦場は、溶接部です。部材どうしをつなぐ溶接には、施工時のきずや、供用中の繰り返し荷重による疲労亀裂が生じることがあり、放置すれば破断につながりかねません。ところが疲労亀裂は、髪の毛のように細く、塗装の上からでは目視でまず見つかりません。そこで、物理の力を借ります。

磁粉探傷試験(MT)は、磁気で亀裂をあぶり出す方法です。鋼を磁化すると、表面や表面直下に亀裂があれば、そこで磁束が乱れて外に漏れ出します。この漏れた磁束のところに細かな磁粉(じふん)を振りかけると、磁粉が吸い寄せられて集まり、亀裂の形が模様として浮かび上がる——見えなかった亀裂が、目に見える線になるのです。磁石に付く材料にしか使えませんが、鋼橋にはうってつけです。

浸透探傷試験(PT)は、色で亀裂を拡大する方法です。まず表面をよく洗浄し、赤色などの浸透液を塗って、表面に開口した微細なきずの中へしみ込ませます。余分な液を拭き取ったあと、白い現像剤を吹き付けると、毛細管現象によって、きずの中の浸透液が表面へ吸い出されてにじみ広がる。幅わずか数マイクロメートルのきずでも、赤い指示模様として数倍に拡大され、目で確認できるようになります。磁石に付かない材料にも使える、汎用性の高さも特長です。

超音波探傷試験(UT)は、鋼の内部を診るエコーです。超音波を部材に送り込み、内部の欠陥や亀裂からの反射を読み取ります。表面からは決して見えない、溶接部の内側に潜むきずを捉えられる、内部検査の主役です。鋼橋では、工場での製作時から、現場での施工、そして供用後の点検・診断まで、それぞれの段階でこれらの探傷試験が使い分けられています。

鋼橋の損傷と、その補修・補強の全体像はこちらで扱っています。

【鋼橋の点検・補修・補強|鋼材の損傷の種類と防食・補強の方法】 https://hashiwatashi.com/steel-bridge-maintenance/

使い分けの考え方——「何を知りたいか」から選ぶ

11の手法を前にすると迷いそうですが、選び方の軸はシンプルです。何を知りたいのか、から出発することです。

浮きや剥離を探したいなら、打音でたたき、広い面なら赤外線でスクリーニングする。強度を知りたいなら、反発度法で当たりをつけ、必要なら超音波やコア採取で裏を取る。鉄筋の位置やかぶりなら、電磁波レーダーや電磁誘導。見えない腐食の進行なら、自然電位。そして鋼の亀裂なら、表面はMT・PT、内部はUT——。知りたいこと(症状)と手法(検査)の対応は、そのまま人間ドックの検査メニューの選び方と同じです。

そして大切なのは、万能の手法は一つもない、ということです。それぞれに得意と限界があり、推定には誤差が伴います。だからこそ実務では、目視と打音という基本の診察を土台に、目的に応じた非破壊検査を組み合わせ、ときにはコア採取のような局部的な破壊検査で答え合わせをする。複数の証拠を突き合わせて、総合的に診断を下すのです。

橋の定期点検は、近接目視を基本に、必要に応じて打音や触診を併用することとされています。非破壊検査の各技術は、この基本の診察を補い、深める「精密検査」として、国の点検支援技術性能カタログにも位置づけられながら、現場に広がりつつあります。点検の全体像は、こちらで整理しています。

【橋の点検方法を解説|目視・打音・ドローンの活用】 https://hashiwatashi.com/bridge-inspection/

まとめ

この記事では、非破壊検査の全体像を解説しました。

非破壊検査とは、壊さずに中を知るための技術の総称です。音で聴く打音、反発で測る反発度法、エコーの超音波、透視の電磁波レーダーと電磁誘導、体温を見る赤外線、レントゲンのX線、血液検査のような自然電位。そして鋼の溶接部には、磁粉・浸透・超音波の探傷試験。橋の人間ドックには、これだけの検査メニューがそろっています。

目で見て、たたいて聴く。その五感の診察を土台に、物理の力を借りた検査で見えない中身を診ていく——非破壊検査は、橋の異変を「壊れる前」につかまえるための、予防保全の目そのものです。ドローンが外から橋を見る目なら、非破壊検査は中を診る目。二つの目がそろって、橋の健康診断は完成するのです。

【ドローンによる橋梁点検のメリットと課題|現状とこれからを解説】 https://hashiwatashi.com/drone-bridge-inspection/

コメント

タイトルとURLをコピーしました