鋼橋の点検・補修・補強|鋼材の損傷の種類と防食・補強の方法

鋼橋 橋梁

鋼の橋は、丈夫で長持ちする一方、さび(腐食)や、くり返しの力による疲労といった、鋼ならではの弱点を抱えています。これらの傷みを見つけ、適切に手を打つのが、鋼橋の点検・補修・補強です。

ここでは、鋼橋でとくに注目すべき損傷の種類から、鋼を守る防錆防食の方法、そして傷みに応じた補修・補強のやり方までを見ていきます。

鋼橋で注目すべき損傷

鋼橋の点検で、とくに注目すべき主な損傷形態は、次の三つとされています。

ひとつめは、鋼材の腐食と疲労です。これが鋼橋にとって最も基本的で重要な損傷です。ふたつめは、鉄筋コンクリート床版(しょうばん)の損傷。車が直接通る床版は、重い車両がくり返し通行することで、格子状のひび割れが広がったり、最悪の場合は一部が抜け落ちたりすることがあり、傷みが出やすい部位です。みっつめは、支承(ししょう)や伸縮装置の破損です。橋桁を支えたり、橋の伸び縮みを受け止めたりするこれらの装置は、傷むと水漏れを招き、その漏れた水が周りの鋼材の腐食を早めることもあるため、見逃せません。点検でどこに目を向けるべきかについては、別の記事でもまとめています。

【橋の点検とは?上部・下部構造の着目点と点検の進め方を解説】
https://hashiwatashi.com/bridge-inspection-basics/

鋼材の腐食——鋼橋のいちばんの大敵

鋼橋にとって、最大の敵といえるのが腐食(ふしょく)、つまりさびです。

鋼の腐食には、酸素、水、化学反応、そして乾いたり湿ったりをくり返す環境が、大きく影響します。とくに、水に塩分が含まれていると、腐食は一気に早まります。海の近くや、凍結防止剤がまかれる道路の橋で、さびが進みやすいのはこのためです。

だからこそ、塩分の管理がとても重要になります。鋼材の塗装などにあたっては、表面に付着した塩分量を一定の基準以下に抑えることが求められています。具体的には、塗装前の鋼材表面で、付着塩分量を50mg/㎡(1平方メートルあたり50ミリグラム)以下にすることが目安とされ、これを超える場合は水洗いなどで塩分を落としてから塗装します。鋼橋を長持ちさせる鍵は、いかに水と塩分を制御するかにある、と言ってもよいでしょう。

腐食は、橋のどこでも一様に進むわけではありません。水がたまりやすい場所や、湿気がこもりやすい場所に集中して現れます。たとえば、伸縮装置から漏れた水がかかる桁の端の部分や、部材どうしが交わって水がたまりやすい連結部などは、とくに腐食が進みやすい要注意の箇所です。点検では、こうした「水のまわりやすい場所」を重点的に見ていくことが大切になります。

鋼部材の損傷の種類

鋼部材の損傷には、さまざまな種類があります。代表的なものを整理すると、次のようになります。

損傷の種類主な原因どんな現象か
塗膜の劣化(発錆)紫外線・塩分・風雨などによる劣化塗膜の変色・退色、割れ、ふくれ、はがれ、鋼板のさび
断面減少腐食鋼材が腐食で徐々に薄くなる
ボルトのゆるみ・脱落締め付け不良、腐食、振動など高力(こうりょく)ボルトが正常に機能しなくなる
変形・亀裂過大な外力外力で部材が変形したり、亀裂(きれつ)が入る
疲労亀裂疲労くり返しの荷重で部材に疲労亀裂が入る
破断過大な外力、応力集中部材が破断する
遅れ破壊化学的作用などによる鋼材の劣化時間が経ってから、高力ボルトなどが急に脆く壊れる

このなかでも、疲労亀裂と遅れ破壊は、とくに注意が必要です。疲労亀裂は、一回ごとの力は小さくても、車が何度も通るうちに、目に見えない小さな亀裂が少しずつ育っていきます。遅れ破壊は、見た目には問題がなくても、ある時間を経てから、高力ボルトなどが突然、脆性(ぜいせい)的に、つまり粘りなくぱきっと壊れる現象です。どちらも、前ぶれが見えにくいだけに、点検での見極めが大切になります。

鋼橋をさびから守る——四つの防錆防食法

鋼をさびから守るために、代表的な防錆防食の方法が四つあります。

ひとつめは塗装です。鋼材の表面を塗膜でおおい、さびの原因となる酸素や水、塩分を遮断します。最も一般的な方法ですが、塗膜自体も時間とともに劣化するため、塗り替えが必要になります。

ふたつめは、耐候性(たいこうせい)鋼材の利用です。これは、表面に緻密なさび(保護性のさび)をあえて形成させ、そのさびが内部を守るという、特殊な鋼材を使う方法です。うまく機能すれば、塗装なしでも長期間もちます。

みっつめは、溶融亜鉛(ようゆうあえん)めっきです。鋼材を溶かした亜鉛に浸し、表面を亜鉛の層でおおいます。万一、鋼材が露出しても、亜鉛が身代わりにさびて鋼を守る(犠牲防食)はたらきがあります。

よっつめは、金属溶射(ようしゃ)です。溶かした金属を吹き付けて皮膜をつくり、酸素・水・塩類を遮断します。亜鉛やアルミニウムの合金などが使われ、塗装と組み合わせることもあります。

これら四つの方法には、それぞれ長所と短所があり、初期の費用や、その後の塗り替えなどにかかる手間も異なります。橋の置かれた環境や、生涯にわたる費用を見すえて、最もふさわしい方法が選ばれ、ときに組み合わせて使われます。

鋼部材の補修・補強の方法

実際に損傷が見つかったときは、その内容に応じて補修や補強を行います。代表的な対策を整理します。

劣化事象対策方法概要
腐食塗装十分にさびを除去してから塗装する
腐食あて板補強板をあてて、欠損した断面を補う
ボルトの脱落ボルトの交換高力ボルトを取り替える
ボルトの脱落落下防止防護ネットを設置する
亀裂補修溶接亀裂部を再び溶接する
亀裂ストップホール亀裂の先端に孔をあけ、進展を止める
亀裂あて板補強補強板を高力ボルトなどで接合して補強する
亀裂構造改良接合部の形状を変更する
破断あて板補強破断箇所に孔をあけ、あて板を取り付ける

なかでも、亀裂への「ストップホール」は、鋼橋ならではの対策です。亀裂はその先端に力が集中して進んでいくため、あえてその先端に丸い孔をあけ、力の集中をやわらげて、それ以上の進展を食い止めます。また、傷んだ部分に板をあてて補う「あて板補強」は、腐食・亀裂・破断と、さまざまな損傷に広く使われる方法です。あて板は、高力ボルトで留める場合と溶接する場合があり、現場の条件に応じて選ばれます。なお、亀裂を再び溶接でふさぐ補修溶接は手早い方法ですが、溶接そのものが新たな熱の影響や応力集中を生むこともあるため、慎重な施工が求められます。こうした補修と補強のちがいや考え方については、別の記事でくわしく解説しています。

【橋の診断・評価とは?|性能低下の原因と補修・補強のちがいを解説】
https://hashiwatashi.com/bridge-diagnosis/

鋼橋の長寿命化に向けて

鋼橋を長く使い続けるには、橋を構成する部材を、長持ちさせる部分と、定期的に交換する部分とに見極めることが大切です。橋全体を支える主要な部材は性能や劣化の傾向を見定めて長寿命化を図り、比較的取り替えやすい二次的な部材は、適切な時期に交換していく、という考え方です。たとえば、橋の骨格である主桁のような主要部材は、長く使えるよう手厚く守り、排水装置や防護柵といった二次的な部材は、傷んだら取り替える、といった具合です。限られた費用と手間を、どこに重点的に振り向けるかを考えるわけです。

その際に手がかりとなるのが、性能がどう下がっていくかを描いた劣化曲線です。5年後、10年後、20年後と、傷みの進み方を見通しながら、対策の計画を立てます。ただし、この劣化の進み方には橋ごとのばらつきがあり、その原因には、造られたときの鋼材の初期状態が大きく関わっていると考えられます。そこをきちんと見極めることが、鋼橋の耐荷性や耐久性を確保し、長寿命化につなげる土台になります。劣化曲線や性能の考え方については、こちらでも触れています。

【橋の寿命とは?リスクベースの維持管理で橋を長く守る技術を解説】
https://hashiwatashi.com/bridge-service-life/

なお、鋼橋の補修は、新しく橋を造るときに比べて、作業の条件が悪く、時間の制約も大きく、費用の面でも難しさを抱えています。そのため、補修の方法を選ぶときには、安全性の確保はもちろん、施工のしやすさ、経済性、周囲の景観との調和(修景)まで、幅広く考える必要があります。そして、大がかりな補修・補強を行った場合には、ICTを活用して、その対策が期待どおりの効果を発揮しているかを確認することも行われています。

まとめ

この記事では、鋼橋の点検・補修・補強について、損傷の種類から防食の方法、補修・補強のやり方までを見てきました。要点を振り返ります。

  • 鋼橋で注目すべき主な損傷は、鋼材の腐食と疲労、RC床版の損傷、支承・伸縮装置の破損である
  • 腐食には酸素・水・塩分が大きく影響し、いかに水と塩分を制御するかが鍵となる
  • 鋼部材の損傷には、塗膜の劣化・断面減少・疲労亀裂・破断・遅れ破壊などがある
  • 防錆防食には、塗装・耐候性鋼材・溶融亜鉛めっき・金属溶射の四つの方法がある
  • 補修・補強では、塗装やあて板補強、ストップホールなど、損傷に応じた対策を選ぶ

鋼という材料の特徴をよく読み取り、その弱点に先回りして手を打つこと。それが、鋼橋を長く健やかに保ち、未来へつないでいくための要になります。さびや疲労は避けられない宿命のようでいて、水を遠ざけ、傷みを早く見つけ、適切に対処すれば、橋の寿命は大きく延ばせるのです。

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