はじめに
橋は、求められる性能をきちんと備えていなければなりません。なかでも安全性は、橋が果たすべき最も基本的な性能です。では、設計者は橋の安全性を、どのようにして確かめているのでしょうか。
橋にかかる力に対して、橋が十分に耐えられるかどうか。これを設計の段階で確認する作業を「照査(しょうさ)」と呼びます。照査の方法には、歴史的に発展してきたいくつかの考え方があります。
この記事では、橋の安全性を確保するための代表的な2つの方法、「許容応力度設計法」と「限界状態設計法」について、その基本的な考え方を見ていきます。
橋に求められる性能の全体像については、以下の記事で整理しています。
【橋に期待される性能|橋に求められる6つの性能を解説】 https://hashiwatashi.com/bridge-required-performance/
安全性をどう確かめるか
橋の安全性を確かめる基本的な発想は、とてもシンプルです。「橋にかかる力」よりも「橋が耐えられる力」のほうが大きければ、橋は安全である、という考え方です。
橋にかかる力には、車両の重さや風の力など、さまざまな荷重があります。一方、橋が耐えられる力は、使われている材料の強度や部材の大きさによって決まります。設計者は、この2つを比べて、「耐えられる力」が「かかる力」を確実に上回っていることを確認します。
ただし、現実には不確実な要素がたくさんあります。実際にかかる荷重は予想を超えるかもしれませんし、材料の強度にもばらつきがあります。こうした不確実性を考慮して、安全側に余裕を持たせる工夫が、設計手法の中に組み込まれています。
その余裕の持たせ方によって、設計の考え方が分かれてきます。代表的なものが、許容応力度設計法と限界状態設計法です。
許容応力度設計法
許容応力度設計法は、歴史的に古くから使われてきた、橋の安全性を確かめる方法です。100年を超える長い実績を持つ、伝統的な手法です。
この方法の考え方を大まかに言うと、材料が耐えられる強度に対して、安全のための余裕を見込んだ「許容できる範囲」を定めておき、橋にかかる力がその範囲内に収まることを確認する、というものです。
ここで使われるのが「安全率(あんぜんりつ)」という考え方です。材料が持つ本来の強度を、安全率という数字で割ることで、「ここまでなら安心して使える」という許容範囲を設定します。さまざまな不確実性を、この1つの安全率という数字でまとめて表現するのが、この方法の特徴です。
許容応力度設計法の長所は、考え方が分かりやすく、計算も比較的シンプルなことです。長年の実績があり、多くの技術者になじみのある方法でもあります。
一方で、すべての不確実性を1つの安全率で表現するため、個々の要因をきめ細かく扱うことが難しいという面もあります。たとえば、荷重の不確実性と材料の不確実性は本来性質が異なりますが、それらをまとめて1つの数字で扱うことになります。
限界状態設計法
限界状態設計法は、より新しい考え方に基づく設計手法です。現在、世界各国の設計基準で広く採用されており、日本の橋の設計基準も、この考え方を取り入れる方向へと移行が進んでいます。
この方法では、まず橋が性能を満たせなくなる境目、すなわち「限界状態」を設定します。そして、橋がその限界状態に達しないことを確認していきます。
限界状態には、いくつかの種類があります。日常的な使用に支障が出る境目である「使用限界状態」、橋が壊れてしまう境目である「終局限界状態」、そしてその中間にあたる境目などです。それぞれの限界状態に応じて、確認すべき内容が変わってきます。
限界状態設計法の大きな特徴は、「部分係数(ぶぶんけいすう)」という考え方を使うことです。許容応力度設計法が1つの安全率で不確実性を表現するのに対し、限界状態設計法では、荷重・材料・部材など、それぞれの要因に対して個別の係数を設定します。
これにより、不確実性をきめ細かく扱えるようになります。荷重には荷重の、材料には材料の不確実性に応じた係数を掛けることで、より合理的で精度の高い設計が可能になります。その反面、扱う係数が増えるため、計算は許容応力度設計法よりもやや複雑になります。
2つの方法の関係
許容応力度設計法と限界状態設計法は、どちらが正しくてどちらが間違っている、という関係ではありません。それぞれに長所と短所があり、目的や状況に応じて使われています。
世界的な流れとしては、不確実性をきめ細かく扱える限界状態設計法へと移行が進んでいます。一方で、許容応力度設計法も、その分かりやすさと長年の実績から、現在でも設計や維持管理のさまざまな場面で利用され続けています。
補修設計の現場でも、対象となる橋がいつ、どの設計法に基づいて造られたのかを把握することは重要です。古い橋であれば許容応力度設計法で設計されている場合が多く、その前提を理解したうえで、現在の知見に照らして評価していく必要があります。新旧の設計の考え方を行き来しながら判断するのも、橋に関わる仕事の一面です。
限界状態という考え方
最後に、限界状態という考え方について、もう少し補足しておきます。
橋に力が加わると、橋はわずかに変形します。力が小さいうちは、橋はびくともしないように見えますが、力が大きくなるにつれて変形が進み、やがて限界に達します。
この過程には、いくつかの段階があります。日常的な使用の範囲を超える「使用限界」、橋の機能を保てるかどうかの境目、そして橋が最終的に耐えられなくなる「終局限界」です。それぞれの段階で、橋の硬さ(剛性)、粘り強さ(じん性)、強さ(強度)といった性質が関わってきます。
限界状態設計法は、こうした橋の振る舞いを段階的にとらえ、それぞれの段階で必要な性能を確認していく考え方だと言えます。橋がどのように力に抵抗し、どのように限界に至るのかを理解することは、橋の安全性を考えるうえでの土台になります。
まとめ
この記事では、橋の安全性を確保するための2つの方法を見てきました。
橋の安全性を確かめる基本は、「橋にかかる力」よりも「橋が耐えられる力」が大きいことを確認することです。その確認の方法として、1つの安全率で不確実性を表現する許容応力度設計法と、要因ごとに部分係数を用いてきめ細かく扱う限界状態設計法があります。
世界的には限界状態設計法への移行が進んでいますが、許容応力度設計法も、その分かりやすさと実績から、現在でも広く使われています。どちらの考え方も、橋を安全に保つために積み重ねられてきた、技術者たちの知恵の結晶と言えるでしょう。
橋の安全性が、どのような考え方で確かめられているのかを知ることは、私たちが日々渡っている橋への信頼を、より確かなものにしてくれるはずです。


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