セロファンテープ試験とは?|耐候性鋼の「良い錆」をテープで診るしくみと手順を解説

橋梁

前回紹介した反発硬度法は、80年近く磨かれてきた専用の測定器を使う検査でした。今回は、その対極です。主役は、文房具店で売っているセロファンテープ。橋にテープを貼って、はがす。たったそれだけで鋼材の健康状態を診てしまう、非破壊検査界きってのローテク検査——セロファンテープ試験です。

ただし、このシンプルな試験を理解するには、一つの前提が要ります。この試験が診ようとしているのは、錆の「有無」ではなく、錆の「質」だということ。錆を歓迎する、少し変わった鋼材の話から始めましょう。

前提——「さびをもって、さびを制する」鋼材がある

橋に使われる鋼材のなかに、耐候性鋼(たいこうせいこう)という一族がいます。銅(Cu)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)などの合金元素を適量加えた鋼材で、橋梁用にはJIS G 3114(溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材、SMA材)として規定されています。

普通の鋼にとって、錆は劣化そのものです。ところが耐候性鋼は違います。雨に濡れては乾く——適度な乾湿の繰り返しを何年も経るうちに、表面に緻密で密着性の高い錆の層を育てるのです。この緻密な錆層は保護性さびと呼ばれ、腐食の原因となる酸素や水が鋼材本体に届くのをさえぎる「鎧」になります。錆が、それ以上の錆の進行を抑え込む。まさに、さびをもってさびを制する鋼材です。

この性質のおかげで、耐候性鋼の橋は塗装なしで使えます。塗装費も、十数年ごとの塗り替え費も要らない。橋の一生にかかる費用(ライフサイクルコスト)を抑えられる魅力から、無塗装の耐候性鋼橋は全国に架けられてきました。鋼橋の防食法のひとつとしての位置づけは、こちらで整理しています。

【鋼橋の点検・補修・補強|鋼材の損傷の種類と防食・補強の方法】 https://hashiwatashi.com/steel-bridge-maintenance/

良い錆と、悪い錆——錆の「質」が橋の運命を分ける

ただし、耐候性鋼の鎧は、無条件に育つわけではありません。

保護性さびが育つには、濡れては乾くリズムが必要です。海からの飛来塩分が多い場所や、水はけが悪く濡れっぱなしになる部位では、緻密な錆層がうまく形成されず、代わりに異常さびが現れます。うろこ状に膨れた錆や、層になってべりべりと剥がれ落ちる層状剥離さび。こうなると、錆は鎧ではなくただの腐食で、板厚をどんどん食っていきます。

つまり、耐候性鋼の橋の点検で問われるのは、「錆びているか」ではありません。錆びているのは前提。問題は、その錆が、鋼材を守る良い錆なのか、鋼材を食う悪い錆なのか——錆の質なのです。見た目はどちらも茶色い錆。この見分けを支える判断材料のひとつが、今回のセロファンテープ試験です。

セロファンテープ試験とは——貼って、はがして、粒を見る

セロファンテープ試験とは、耐候性鋼材の錆面にセロファンテープを貼り付けてはがし、テープに付着した錆を目視で確認することで、緻密な錆層(保護性さび)が形成されているかを評価する試験です。セロテープ試験とも呼ばれます。

理屈は、拍子抜けするほど明快です。しっかり育った保護性さびは、鋼材の表面に固着しています。固着しているから、テープを貼ってはがしても、ほとんど付いてこない。一方、保護性さびが育っていない面では、錆が浮いた粒子として表面に乗っています。浮いているから、テープにたくさん付いてくる。

だから、テープに付着した錆の粒子が少なければ、錆は固着性——緻密な錆層が形成されてきたことを意味します。逆に、大きな粒がびっしり付けば、浮き錆が多く、鎧づくりがうまくいっていないサイン。テープ一枚が、錆の固着力を測る試験機になるわけです。

道具——ぜんぶ、身近な品でそろう

この試験の道具立ては、非破壊検査の中でも群を抜いて親しみやすいものです。

道具役割
セロファンテープ(幅50mm。幅24mmでも可)錆の粒子を採取する主役。市販品でよい
ゴムローラー(壁紙貼り付け用などでも可)テープを鋼材面に均一に圧着させる
付箋紙橋梁名や位置(橋台・橋脚・主桁名など)をメモする。採取位置を固定する目印にも流用できる
羽根ぼうき測定前に鋼板表面のほこりを取り除く
OHP用シートと、貼り付け位置をマークした下敷きはがしたテープを貼り付けて保存する台紙

専用機器は、ひとつもありません。それでいて、ゴムローラーで「均一に」圧着する、羽根ぼうきで「ほこりを」払っておく——道具の一つひとつに、試験の信頼性を支える役割がきちんと割り振られています。安い道具と、確かな作法。この組み合わせが、この試験の身上です。

手順——貼り方にも、作法がある

手順を、順に見ていきます。

まず、測定箇所を選び、鋼板表面のほこりなどを軽く清掃します。払っておかないと、ただの土ぼこりまで「錆の粒」として採れてしまい、判断を狂わせるからです。測定は1回が原則ですが、桁の水平な上面などで、堆積した土埃が採れてしまった場合には、同じ位置でもう一度測り直してもかまいません。

次に、セロファンテープを測定箇所の鋼板表面に軽く貼り付けます。テープの長さは、170mm程度——A4サイズの用紙の幅に収まる程度がよいとされます。理由が実務的で、後で報告書にまとめるときに扱いやすいから。現場の試験は、報告書までがワンセットなのです。

貼ったら、ゴムローラーをかけて、テープを鋼材面に均一に圧着させます。指で押すのではなくローラーを使うのは、押し付ける力のむらをなくすため。力が場所によって違えば、付着する粒の量も変わってしまい、比較になりません。

そして、テープをはがし、OHP用シートに貼り付けて保存します。橋梁名と位置を書いた付箋を添えれば、どの橋の、どの桁の、どの面の錆かが、粒子ごと記録として残る。透明シートに封じられた錆の粒たちは、そのままその橋の「錆のカルテ」になります。

結果の読み方——粒の量と大きさが語ること

はがしたテープは、雄弁です。

付着した粒子が細かく、まばらなら、表面の錆はよく固着しており、保護性さびが順調に育っているサイン。粒子が大きく、密に、べったりと付いてくるほど、浮き錆が多く、錆の状態はよくない方向です。試験片を並べれば、同じ橋の中でも部位ごとの差——雨がかりの面と守られた面、桁の外側と内側——が、粒の密度の違いとして一目で見えてきます。

そして、この試験の隠れた強みが、記録性です。目視の印象は言葉にした瞬間に曖昧になりますが、テープの試験片は物証としてそのまま残ります。5年後の点検で新しい試験片を採り、保存しておいた前回の試験片と並べれば、錆の状態が良くなったのか悪くなったのかを、粒子どうしの比較で確かめられる。テープ一枚が、時間を超えた定点観測を可能にするのです。

外観評点との関係——主観を補う「物証」

耐候性鋼橋の錆の評価には、より公式な物差しがあります。鋼道路橋防食便覧に示された、さび外観評点です。錆の粗さ・厚さ・色調などを手がかりに、最も良好な状態を評点5、最も危険な状態を評点1とする5段階で、点検員が見た目から判定します。評点3〜5であれば「特に異常なし」の位置づけで、おおむね評点2か3かの見きわめが、対策の要否を分ける勝負どころになります。評点2は5〜25mm程度のうろこ状の錆、評点1は層状の剥離が生じた状態——先ほどの「悪い錆」たちです。

ただ、この外観評点には、正直な課題も指摘されています。見た目による定性的な評価であるため、点検員の経験や技量によって、判定が分かれることがあるのです。

そこで、セロファンテープ試験の出番です。テープに採れた粒子の量と大きさは、印象ではなく現物。外観の印象を、粒子という物証で裏づけ、補強できます。近年は、採取した試験片をスキャンして画像処理にかけ、錆の状態を数値で評価しようという研究も進められており、このローテクな試験は、デジタルな定量評価の入口としても見直されています。文房具の試験が、評価の客観化を支える——面白い展開です。

【非破壊検査とは?|壊さずに橋の中を診る11の方法を解説】 https://hashiwatashi.com/non-destructive-testing/

この試験の値打ちと、心得

セロファンテープ試験の値打ちを整理すると、こうなります。安い。速い。特別な機器も資格も要らない。それでいて、錆の質という核心に触れる情報が採れて、物証として保存でき、経年比較までできる。点検の現場で「もう一歩の根拠」がほしいときに、荷物を増やさず応えてくれる、頼れる脇役です。

一方で、心得も要ります。この試験が意味を持つのは、保護性さびを育てる耐候性鋼が相手のときです。塗装された普通の鋼橋にテープを貼っても、診断にはなりません。また、テープが教えてくれるのは錆の固着性という一側面であり、最終的な判断は、外観評点や板厚の測定、環境条件(飛来塩分や滞水のしやすさ)と突き合わせて、総合的に下されます。単独の万能試験ではなく、判断材料のひとつ——非破壊検査に共通する、この心得はここでも変わりません。

【橋の点検とは?上部・下部構造の着目点と点検の進め方を解説】 https://hashiwatashi.com/bridge-inspection-basics/

まとめ

この記事では、セロファンテープ試験を解説しました。

セロファンテープ試験とは、耐候性鋼の錆面にテープを貼ってはがし、付着した錆の粒子から、鋼材を守る緻密な保護性さびが育っているかを診る試験です。粒が少なければ、錆は固着した良い錆。粒が多く大きければ、浮いた悪い錆。テープ・ゴムローラー・付箋・羽根ぼうき・OHPシートという身近な道具立てと、圧着の均一さや清掃といった確かな作法が、この単純な試験に信頼性を与えています。そして採取した試験片は、外観評点の主観を補う物証となり、次回の点検との比較を可能にする、錆のカルテとして残ります。

最先端の機械だけが、非破壊検査ではありません。錆の性質を見抜いた先人が、誰の手元にもある道具に検査の役目を与えた——セロファンテープ試験は、観察と工夫こそが検査の本体なのだと教えてくれる、小さくて深い一枚なのです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました