はじめに
橋(はし)を造るためには、適切な材料を選ぶことが欠かせません。材料が持つ強度や変形しやすさといった特性によって、橋の構造や形式、寿命までもが大きく左右されます。
橋の設計では、使用する材料が「規格に従ったもの」であることが前提となります。規格とは、材料の品質を保証するために定められた基準のことで、強度や成分、寸法などが細かく規定されています。規格に従わない材料を使うと、設計上の前提が成り立たなくなってしまうため、橋には必ず規格化された材料が使われます。
この記事では、橋で使用される代表的な材料として、鋼(はがね)、コンクリート、PC鋼材の3つを取り上げ、それぞれの特性と橋の設計における役割を整理していきます。
材料に求められる4つの一般事項
具体的な材料の話に入る前に、橋に使う材料に共通して求められる事項を整理しておきます。
第一に、「適切な強度と変形能力、あるいはじん性を有すること」です。強度だけが高くても、変形能力が低い材料は、想定外の力がかかったときに脆く壊れてしまう恐れがあります。じん性(粘り強さ)も重要な特性です。
第二に、「供用期間中に生じうる材質や特性の変化、劣化に対して安全であること」です。橋は長い年月にわたって使われ続けるため、時間とともに材料が劣化していくことを前提に、安全性を確保できる材料を選ぶ必要があります。
第三に、「地球環境に与える影響が小さいこと」です。材料の製造から廃棄までの環境負荷を考慮する視点が、近年特に重視されるようになっています。
第四に、「人や動植物に対して与える影響が小さいこと」です。橋は社会の中に存在する構造物として、周囲の生態系や利用者の健康に悪影響を与えてはならないという考え方です。
これらの一般事項を満たしたうえで、橋の用途や条件に応じて、最適な材料が選ばれていきます。
鋼(はがね)
鋼は、鉄にさまざまな化学元素を含ませて熱処理した材料です。橋に使われる材料の中でも、最も代表的なものの一つです。
橋に使われる鋼材には、構造用材料・鋼管・接合用材料・鋳鍛造品など、さまざまな種類があります。橋の骨組みを構成する主要部材から、部材同士をつなぐボルトやリベット、ケーブルに至るまで、橋のあらゆる場所で鋼が活躍しています。
鋼の最大の特徴は、引張強度が大きく、変形能力も高いことです。引張力にも圧縮力にも強く、しかも破断するまでに大きな伸びを示します。この「粘り強さ」が、地震など想定外の力がかかった際の安全性につながります。
鋼の応力とひずみの関係を見ると、ある一定の力までは弾性的に変形し、それを超えると降伏(こうふく)と呼ばれる現象を起こします。降伏後はさらに変形が進み、最終的に破断に至ります。降伏点が明確で、破断までに大きな変形を許容できることが、鋼を構造材料として優れたものにしています。
鋼を主要部材に使った橋については、以下の記事で詳しく解説しています。
【鋼橋を詳しく知ろう|材料の特性と構造の特徴を解説】 https://hashiwatashi.com/steel-bridge-details/
コンクリート
コンクリートは、砂と砂利(骨材)、水などをセメントで結合させた材料です。橋の主要部材として広く使われている、もう一つの代表的な材料です。
コンクリートの特徴は、圧縮力に対しては非常に強い一方で、引張強度と曲げ強度には劣ることです。一般に、コンクリートの引張強度は圧縮強度のごく一部にとどまり、引張力に対する抵抗を期待することは難しい材料です。
そのため、コンクリートを橋の主要部材として使う場合には、引張力に強い鉄筋を組み合わせる工夫がなされます。これが鉄筋コンクリート(RC)です。鉄筋を適切な位置に配置することで、コンクリートが圧縮を担い、鉄筋が引張を担う、効率的な構造が実現できます。
鉄筋とコンクリートの付着を良くするため、構造用の鉄筋には表面に突起を持つ「異形棒鋼(いけいぼうこう)」が使われるのが一般的です。突起のない普通棒鋼が使われる場合もあります。
コンクリートのもう一つの大きな特徴は、強度が一定ではないことです。材料の種類や配合、練り混ぜ、打ち込み、養生(ようじょう)の方法によって強度が変わります。さらに、固まってからの日数、温度、湿度などによっても強度が変化していきます。一般には、材齢28日(コンクリートを打ってから28日後)の強度を設計上の基準として用います。
コンクリートの応力とひずみの関係は、鋼のような明確な降伏点を持たず、滑らかな曲線を描きます。完全な弾性体ではなく、力の大きさに応じて変形の仕方が変わっていく材料です。
鉄筋コンクリートを使った橋については、以下の記事で詳しく解説しています。
【鉄筋コンクリート橋を詳しく知ろう|RC橋の構造と特徴を解説】 https://hashiwatashi.com/reinforced-concrete-bridge-details/
PC鋼材
PC鋼材は、プレストレストコンクリート(PC)のために使われる、高強度の鋼材です。「PC」は「プレストレストコンクリート」の略で、あらかじめコンクリートに圧縮力を導入しておくことで、引張に弱いというコンクリートの弱点を克服する技術です。
PC鋼材には、PC鋼線、PC鋼より線(PC鋼線をより合わせたもの)、PC鋼棒などの種類があり、これらを総称してPC鋼材と呼びます。通常の鉄筋よりも引張強度が高く、強い力でコンクリートを締め付けることができる特徴があります。
PC鋼材を使うことで、コンクリートに大きな圧縮力を事前に与えておき、橋に荷重がかかったときに発生する引張力を相殺することができます。これにより、コンクリートだけでは難しい長スパンの橋や、ひび割れに強い橋を造ることが可能になります。
プレストレストコンクリートを使った橋については、以下の記事で詳しく解説しています。
【プレストレストコンクリート橋を詳しく知ろう|PC橋の構造と特徴を解説】 https://hashiwatashi.com/prestressed-concrete-bridge-details/
適材適所が理想
ここまで鋼、コンクリート、PC鋼材という3つの代表的な材料を見てきました。それぞれに長所と短所があり、すべての条件に万能な材料は存在しません。
鋼は引張・圧縮ともに強く変形能力も高いものの、防食対策が必要です。コンクリートは圧縮に強く耐久性に優れる一方で、引張に弱く重い材料です。PC鋼材は高強度ですが、コンクリートと組み合わせて初めて真価を発揮します。
橋の設計では、それぞれの材料の長所を活かし、短所を補い合うように材料を組み合わせていきます。これが「適材適所」という考え方です。たとえば、引張を担う部分には鋼や鉄筋を、圧縮を担う部分にはコンクリートを配置するといった具合です。
近年は、鋼とコンクリートを部材レベルで組み合わせた複合橋や、FRP(繊維強化プラスチック)・アルミニウム合金・チタンなどの新しい材料を活用した橋も登場しています。材料選びの選択肢は、技術の進歩とともに広がり続けています。
【複合橋を詳しく知ろう|合成橋・混合橋の構造と特徴を解説】 https://hashiwatashi.com/composite-bridge-details/
【新しい材料を用いた橋を詳しく知ろう|FRP・アルミニウム合金・チタンの活用】 https://hashiwatashi.com/new-material-bridge-details/
まとめ
この記事では、橋で使用する材料について、鋼・コンクリート・PC鋼材の3つを中心に整理してきました。
橋に使う材料には、適切な強度と変形能力、長期にわたる安全性、環境への配慮、人や動植物への影響の小ささという4つの一般事項が求められます。これらを満たしたうえで、用途や条件に応じた材料が選ばれていきます。
鋼は引張・圧縮の両方に強く、変形能力に優れた材料です。コンクリートは圧縮に強い一方で引張には弱いため、鉄筋と組み合わせて使われます。PC鋼材は、コンクリートにあらかじめ圧縮力を導入するための高強度な鋼材で、より長スパンや高耐久な橋を可能にします。
橋の設計では、これらの材料の長所と短所を理解し、適材適所に配置することで、安全で長持ちする橋を実現していきます。
次回からは、橋を実際に「造る」プロセスへと話を進めていく予定です。設計が完了した橋が、どのように施工されて完成に至るのかを見ていきます。


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