赤外線法(サーモグラフィ)とは?|温度の目で浮き・剥離を面で見つけるしくみを解説

赤外線法(サーモグラフィ)とは? 橋梁

非破壊検査の総論で、この手法を「体温測定の面バージョン」とたとえました。額に当てる体温計が一点の体温を測るなら、赤外線サーモグラフィは、橋の面全体の「体温分布」を一枚の画像にしてしまう——今回は、その赤外線法の深掘りです。

橋に触れることなく、離れた安全な場所から、コンクリートの浮きや剥離を面でとらえる。打音検査がハンマー一打ずつの点の診察なら、赤外線法は一望の面の診察です。ここでは、温度で欠陥が見える原理から、昼と夜で見え方が反転する面白いしくみ、利点と欠点、撮影の実際、他の検査との使い分け、そしてドローンや建築分野への広がりまでを、基礎から解説します。

赤外線とサーモグラフィ——すべての物は、温度を「発信」している

まず、道具の話から始めます。すべての物体は、その温度に応じた強さの赤外線を、常に放射しています。人も、橋も、道路も、例外なく。赤外線は人の目には見えませんが、専用のカメラなら捉えられます。

赤外線サーモグラフィは、この赤外線を検出して、対象の表面温度の分布を色や濃淡の画像——熱画像として映し出す装置です。温度の高い場所は赤く、低い場所は青く、といった具合に、「熱の風景」が一枚の絵になる。感染症の流行期に、施設の入口で顔の温度を映していたあのカメラ、といえば、姿を思い浮かべられる方も多いはずです。あの「温度を見る目」を、橋の点検に向けたのが赤外線法です。

原理——空気の層が、熱の流れをせき止める

では、なぜ温度を見るとコンクリートの欠陥が分かるのでしょうか。鍵は、浮きや剥離の正体にあります。

コンクリートの浮き・剥離とは、表面近くの内部に、薄い空気の層(空隙)ができた状態です。そして空気は、熱をとても伝えにくい——身近な断熱材の主成分が空気であるように、です。つまり浮きのある場所は、コンクリートの中に断熱材が一枚はさまった状態になっており、この空隙が、コンクリート中の熱の移動を妨げます。その結果、表面の温度分布に、健全部とは異なるパターンが現れる。これを熱画像で捉えて、欠陥を判定するのが赤外線法の原理です。

面白いのは、この温度差の現れ方が、時間帯で反転することです。

時間帯コンクリートに起きていること浮き・剥離部の見え方
昼(日射で温まるとき)表面から熱が入り、躯体の奥へ伝わっていく空気層で熱がせき止められて表面にこもり、健全部より高温に写る
夜(放熱で冷えるとき)昼に躯体へ蓄えた熱が、表面から大気へ放出されていく奥からの熱の補給が空気層で断たれ、健全部より低温に写る

昼、日射で温められるとき。健全な部分では熱が奥へ逃げていきますが、浮きの部分では空気層が熱をせき止め、表面に熱がこもります。だから浮きは「熱だまり」——高温の斑点として浮かび上がります。夜はその逆です。コンクリートは昼のあいだに躯体の奥へ熱を蓄え、夜になると表面からその熱を放出して冷えていきます。ところが浮きの部分は、空気層のせいで奥からの熱の補給が断たれ、蓄えも少ないため、早く冷えてしまう。今度は「冷えだまり」——低温の斑点として写るのです。

同じ欠陥が、昼は明るく、夜は暗く写る。点検の資料で昼間と夜間の両方の撮影風景が並んでいるのは、このためです。どちらの時間帯でも、「温度が動いているとき」にこそ、欠陥は姿を現します。

なお、対象には滞水(たいすい:内部にたまった水)も含まれます。水は温まりにくく冷めにくい性質(大きな熱容量)を持つため、水がたまった場所も、周囲と違う温度のパターンとして現れるのです。

利点——安全な場所から、面で、見える

赤外線法の利点は、3つに整理できます。

第一に、非接触であること。対象に触れる必要がないため、橋の下の道路など、安全な場所から点検ができます。高所作業車や足場を組んで橋に取り付かなくても、離れた地上から桁の下面や高欄を診られる——安全性と手軽さで、これに勝る検査はなかなかありません。

第二に、広範囲を面で測れて、画像になること。一枚の熱画像が、壁一面・床版一面の温度分布を丸ごと写し取ります。異常は画像の中の「色の違う斑点」として現れるため、判定がしやすく、記録もそのまま残ります。一打ずつ確かめる打音検査と比べたとき、面としての効率は圧倒的です。

第三に、表面付近の浮き・剥離に強いこと。表面から数cm程度までの浅い浮きや剥離は、高い精度で検出できます。剥離片の落下——第三者被害につながる、まさにいちばん心配な変状が、この検出の得意域に入っているのは心強い点です。

欠点——「温度が動かない日」には、何も見えない

一方で、欠点も原理に根ざしてはっきりしています。

第一に、温度変化が必要なこと。この検査は、熱が動いているときの温度差を見る方法です。日射がなく、気温の変化も小さい曇りの日——浮き部と健全部の温度が均衡してしまった状態では、温度差そのものが生まれず、測定は困難になります。天気と時間帯に、検査の可否を握られているのです。

第二に、表面の状態に影響されること。表面の光沢や汚れは、赤外線の放射のしかたを変え、実際の温度とは違う見かけを作ってしまうことがあります。周囲の建物や日陰による映り込み・影の影響を受けることもあり、熱画像の解釈には注意が要ります。

第三に、微小な欠陥の検出は困難なこと。小さすぎる欠陥や、深い位置にある欠陥は、表面の温度差として現れにくく、この方法では捉えきれません。

撮影の実際——時間帯を選び、可視画像と対にする

こうした性質から、撮影には段取りがあります。まず、時間帯の選択。昼なら日射でぐんぐん温まっていく時間帯、夜なら放熱で冷えていく時間帯——温度が動いている時間を狙います。天候も確認し、温度差が期待できない日は避けます。カメラの向きにも気を配ります。対象面にできるだけ正対する角度から撮るのが基本で、斜めから浅い角度で狙うほど、空や周囲の熱の映り込みが増えて、温度の読みが狂いやすくなるからです。

そして、熱画像は必ず、同じ場所の可視画像(ふつうの写真)と対にして記録します。熱画像の斑点が、本当に内部の欠陥なのか、それとも表面の汚れや水濡れ、日陰なのか——可視画像と見比べて初めて判断できるからです。温度の目と、ふだんの目。二つの目の突き合わせが、誤診を防ぎます。

他の検査との使い分け——面で絞り、点で確かめる

赤外線法の立ち位置は、他の手法と並べるとよく分かります。

表層の浮きを調べる最も一般的な方法は、打音検査です。確実ですが、接触が必要で、一打ずつしか進めません。一方の赤外線法は、非接触で一度に大面積を診られますが、天候に左右され、確定診断までは踏み込めません。そこで実務の型はこうなります。まず赤外線で面をスクリーニングし、疑わしい斑点を拾い出す。そのうえで、怪しい箇所に近づき、打音でたたいて確かめる。面で絞り、点で確かめる——広さの赤外線と、確かさの打音の、良いとこ取りです。

では、前回の地中レーダー(電磁波レーダー法)とはどう違うのでしょうか。電磁波レーダーは、鉄筋の位置や内部の空洞といった「中の構造」を探るのが得意ですが、表層のごく浅い浮きの判別はむしろ苦手です。赤外線は逆に、表層数cmの浮きが得意で、深部は見えません。得意な深さがきれいに棲み分けられており、対象の深さで使い分ける関係にあります。

【地中レーダーとは?|掘らずに地下を見るGPRのしくみと空洞・埋設管調査を解説】 https://hashiwatashi.com/gpr/

【非破壊検査とは?|壊さずに橋の中を診る11の方法を解説】 https://hashiwatashi.com/non-destructive-testing/

広がる活躍——ドローンの目になり、建築の壁を診る

赤外線法の「非接触・遠隔・面的」という性格は、新しい乗り物と出会って、活躍の場を広げています。ドローンです。

赤外線カメラをドローンに搭載すれば、地上から見上げるだけでは届かなかった、高い橋脚や床版の下面、広い壁面を、飛びながら面的にスクリーニングできます。可視カメラと赤外線カメラの両方を積んだ機体なら、ふつうの写真と熱画像を同時に記録でき、先ほどの「二つの目の突き合わせ」が一度の飛行で済む。橋梁点検におけるドローンの搭載センサーとして、赤外線カメラは可視カメラに次ぐ定番になりつつあります。赤外線による調査技術は、国の点検支援技術性能カタログにも位置づけられており、制度の面でも道具立ての面でも、点検の現場に根を張りつつある手法です。

【ドローンによる橋梁点検のメリットと課題|現状とこれからを解説】 https://hashiwatashi.com/drone-bridge-inspection/

もう一つ、隣の分野にも触れておきます。建築の世界では、ビルの外壁タイルの浮き・剥離の調査に、赤外線法が広く使われています。外壁の落下事故を防ぐため、一定の建築物では定期的な外壁調査が制度として義務づけられており、足場を組んでの全面打診に代わる手法として、非接触のサーモグラフィ調査が位置づけられているのです。橋も、ビルも、コンクリートの浮きという悩みは同じ。土木と建築が同じ道具を分かち合っている、興味深い接点です。

まとめ

この記事では、赤外線法(サーモグラフィ)を解説しました。

赤外線法とは、浮きや剥離の空気層が熱の移動を妨げることで生じる表面温度の差を、赤外線カメラの熱画像でとらえ、欠陥を見つけ出す非破壊検査です。昼は熱だまり、夜は冷えだまり——温度が動く時間帯にだけ姿を現す欠陥を、非接触で、安全な場所から、面で捉えられるのが最大の強み。一方で、温度が動かない日には無力で、光沢や汚れにも惑わされるため、可視画像との突き合わせと、打音による確定診断が欠かせません。

面で絞って、点で確かめる。温度の目は、単独のヒーローではなく、点検チームの優秀な斥候(せっこう)です。ドローンに乗って空へ広がり、建築の壁でも働くこの技術は、「見えない熱を見る」というたった一つの能力で、これほど多くの現場を支えている——物理の目の頼もしさを、あらためて教えてくれます。

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