はじめに
地震の多い日本では、橋を造るときに「地震が起きても橋を落とさない」という備えが欠かせません。地震によって橋の上部構造が下部構造から落ちてしまうことを落橋(らくきょう)といい、これを防ぐための備えが落橋防止システムです。
前回までに見てきた支承や伸縮装置と同じように、これも橋の「もしも」に備える大切な仕組みです。地震への基本的な考え方は、耐震設計の記事でも整理しています。
【耐震設計の考え方|地震に強い橋を造るための3つの考え方】
https://hashiwatashi.com/bridge-seismic-design/
「橋を落とさない」という考え方
橋を地震から守る方法として、これまで、隣り合う上部構造どうしを連結したり、上部構造と下部構造を連結したりといった対応がとられてきました。
その考え方が大きく前進する転機となったのが、1995年(平成7年)の兵庫県南部地震です。この地震では、橋脚の倒壊などによって落橋を含む甚大な被害が生じました。多くの方が被害に遭われたこの経験は、その後の橋の耐震対策に重い教訓を残し、設計基準の見直しや、落橋防止システムの強化へとつながっていきました。
現在では、設計で想定しきれない地盤の破壊や、特殊な壊れ方が起きたとしても、上部構造の落下を最終的に防げるように、PC鋼材やチェーンで桁をつなぐといった備えも組み込まれるようになっています。
落橋防止システムを構成する4つの仕組み
落橋防止システムは、橋の構造形式や下部構造のタイプ、地盤の条件などに応じて検討され、一般に次の4つの要素から構成されます。
桁かかり長(けたかかりちょう)
桁かかり長は、桁が橋台や橋脚の上に載っている「かかりの長さ」のことです。地震で上部構造と下部構造の間に大きなずれ(相対変位)が生じても、桁が支えから外れて落ちないように、この長さを十分に確保しておきます。落橋を防ぐ、いちばん基本的な備えといえます。
落橋防止構造
落橋防止構造は、万一、桁が想定を超えて動こうとしたときにも落下を防ぐため、桁と桁、あるいは桁と下部構造を、PC鋼材やチェーンなどでつないでおく構造です。桁かかり長だけでは対応しきれない事態への、もう一段の備えにあたります。
横変位拘束構造
橋を真上から見たとき、橋の進む向き(橋軸方向)に対して直角の向き、つまり横方向へのずれを抑えるのが横変位拘束構造です。桁が横にずれて支えから落ちることを防ぎます。とくに、曲線を描く橋や斜めに架かる橋では、横方向の動きが出やすいため、重要な役割を果たします。
段差防止構造
段差防止構造は、支承が壊れたときに、路面に大きな段差が生じて車が通れなくなるのを防ぐための構造です。とくに背の高い鋼製支承などが破壊すると、上部構造が下がって段差ができることがあります。地震の直後に、救助や物資輸送のための通行を確保するうえでも、大切な備えです。
落橋防止構造の設計手順
落橋防止構造は、橋の条件に合わせて、おおむね次の手順で設計されます。
- 設計地震力の設定(どれくらいの地震の力を想定するかを決める)
- 落橋損傷モードの設定(橋がどのように壊れて落橋に至るかを想定する)
- 落橋防止構造と断面寸法の設定(どんな構造で、どれくらいの大きさにするかを決める)
- 落橋防止構造の要求性能の設定(その構造に求める性能を定める)
- 落橋防止構造の設計
- 落橋防止構造と断面寸法の照査(しょうさ/設計が要求性能を満たすかを確かめる)
想定される壊れ方を見据えたうえで、それでも橋を落とさないための構造を組み立てていく、という流れです。
平時は目立たない、でも「いざ」を支える
落橋防止システムには、ほかの部位とは少し違った特徴があります。それは、平時にはほとんど出番がない、ということです。普段の交通を支えているわけではなく、地震という「いざ」というときにこそ大きく働く仕組みなのです。
だからこそ、補修・維持管理の現場では、見落とせない注意点があります。落橋防止構造などの取り付け部は、システム全体の要であると同時に、弱点にもなりうる場所です。普段あまり力がかからないぶん、見過ごされがちですが、もし取り付け部が腐食やゆるみで傷んでいると、いざというときに本来の力を発揮できないおそれがあります。
平時に働かない仕組みだからこそ、常日頃から状態を確かめておくことが欠かせません。点検では、こうした「いざというときのための備え」が、いつでも効く状態に保たれているかを見守ります。目立たないけれど、橋と、橋を渡る人の命を守る——落橋防止システムは、そういう縁の下の備えです。
まとめ
この記事では、地震から橋を守る落橋防止システムについて見てきました。ポイントを整理します。
- 落橋防止システムは、地震で上部構造が落ちる「落橋」を防ぐための備え
- 一般に、桁かかり長・落橋防止構造・横変位拘束構造・段差防止構造の4つから構成される
- 1995年の兵庫県南部地震の教訓を経て、想定を超える事態にも備える方向へと強化されてきた
- 設計は、想定する地震力や壊れ方をふまえて進められる
- 平時は目立たない仕組みだからこそ、取り付け部などの点検・常時監視が欠かせない
橋の安全は、目に見える丈夫さだけでなく、「もしものとき、それでも落とさない」という幾重もの備えに支えられています。次に橋を渡るときは、その見えない備えにも、少し思いをめぐらせてみてください。


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