橋と環境問題|寿命を迎えた橋のリサイクルと循環型社会への道

橋と環境問題 橋梁

橋には、人間と同じように寿命があります。点検し、補修し、補強して延命を重ねても、最終的に寿命がきたときには、その橋を廃棄しなければなりません。では、役目を終えた橋は、そのままゴミになってしまうのでしょうか。

ここでは、寿命を迎えた橋の行き先である「建設副産物」の話から始めて、材料を分離できる構造という新しい発想、木の橋が古くから実践してきた再利用の知恵、鋼やコンクリートのリサイクル技術の現在地、そして橋の一生をまるごと設計する「ライフスパンシミュレーション」と循環型社会への道筋までを整理します。

寿命を迎えた橋は「建設副産物」になる

鋼やコンクリートからできている橋は、寿命がきたからといって、そのままポイと捨てるわけにはいきません。何千トンという鋼材とコンクリートの塊です。寿命を迎えて廃棄するしかなくなったものは、「建設副産物(けんせつふくさんぶつ)」と呼ばれ、現在では可能な限り再利用する方針がとられています。

ここで押さえておきたいのは、建設副産物という言葉の中身です。建設副産物には、有用で原材料として利用できるものや、その可能性のあるものだけでなく、原材料として利用することが不可能なもの——つまり純粋な廃棄物——も含まれます。「副産物」という言葉には、まだ使えるものも、もう使えないものも、両方が入っているのです。だからこそ、そのうちの「使えるもの」をどれだけ増やせるかが、環境への負荷を分ける勝負どころになります。

橋の寿命がどのように尽きていくのか、その考え方については、こちらで掘り下げています。

【橋の寿命とは?|劣化のしくみと長寿命化の考え方】
https://hashiwatashi.com/bridge-service-life/

「分離できる構造」を、計画段階から考える

これからの橋づくりには、新しい視点が求められています。それは、橋が建設副産物になったときのことを、造る前から考えておく、という視点です。

具体的には、解体したときに、それぞれの材料にきちんと分離できて、再度材料としてリサイクルに活かせるように、計画段階から検討する。その必要性が高くなってきました。

というのも、現在の橋の解体には、大きな壁があるからです。鋼とコンクリート、そして付属物などを分離して再利用しようとすると、多くのエネルギーを必要とします。たとえば鉄筋コンクリートは、鉄筋とコンクリートが一体になってこそ強さを発揮する材料ですが、その「一体である」ことが、解体の場面では逆に、分けにくさとして立ちはだかります。分離にエネルギーを使いすぎては、せっかくのリサイクルも環境負荷の面で本末転倒になりかねません。

だとすれば、これからの橋を造るにあたっては、将来的に材料が分離できるような構造が必要になるかもしれません。使い終わったあとの「ほどきやすさ」まで含めて設計する、という発想です。もし使った材料をもう一度使えれば、新しく造る橋に転用でき、環境にも低負荷となるでしょう。

木の橋に学ぶ——錦帯橋と伊勢神宮

「使った材料をもう一度使う」。じつはこれ、日本の木の構造物が、何百年も前から実践してきたことです。

山口県岩国市の錦帯橋(きんたいきょう)は、錦川に架かる五連の木造アーチ橋です。江戸時代の1673年に創建されて以来、定期的な架け替えを重ねながら、その姿を今に伝えています。架け替えというと「全部を捨てて新しくする」ように聞こえますが、木の構造物では、まだ使える木材は次の造り替えのときに再利用できます。傷んだ部材は取り替え、健全な部材は活かす。この積み重ねが、橋の姿と架橋の技術の両方を、世代を超えて受け継いできました。

伊勢神宮の式年遷宮(しきねんせんぐう)は、さらに徹底しています。20年に一度、社殿を丸ごと造り替えるこの営みは、690年に始まり、1300年以上続いてきました。造り替えで解体された古材は、捨てられません。正殿を支えた棟持柱(むなもちばしら)は、削り直されて宇治橋の鳥居として、さらに20年の務めにつきます。そのほかの古材も、全国の神社に譲られ、修繕や造り替えに活かされていきます。一片も無駄にしない、壮大な再利用の循環です。

同じようなことが、鋼やコンクリートの橋の場合にも必要になるのではないでしょうか。鋼橋やコンクリート橋でも、使用材料がリサイクルできるような構造や工法を採用していくことが望まれます。木の文化が当たり前にやってきたことを、現代の材料でどう実現するか。それが、これからの橋づくりに投げかけられた問いです。

鋼とコンクリートのリサイクル——現在地と課題

では、鋼やコンクリートのリサイクルは、いまどこまで来ているのでしょうか。正直なところ、まだ開発の余地が残されています。

比較の物差しになるのが、アルミニウムです。アルミ缶のリサイクル率は90数パーセントに達しています。使い終わったアルミ缶が、再びアルミ缶に生まれ変わる——品質を落とさずに何度でも循環できるのが、アルミの強みです。

一方、コンクリート橋や鋼橋は、そのようにはなっていません。鋼材そのものは電炉で溶かして再生できる、リサイクル性の高い材料です。しかし橋の場合、塗装やコンクリートと一体化した状態からの分離、輸送、解体といった工程が重くのしかかります。コンクリートにいたっては、砕いて路盤材(道路の下地の材料)などに使う「形を変えた利用」が中心で、元のコンクリートに戻す水平リサイクルは、まだ発展途上です。

つまり、材料単体では優等生でも、「橋」という組み合わさった姿になると、とたんにリサイクルが難しくなる。ここに、構造や工法の工夫で挑む余地があります。循環型社会を志向して、環境にやさしく、リサイクルが可能な橋の材料や構造の開発が望まれています。

鋼橋・コンクリート橋それぞれの維持のしかたについては、こちらで詳しく扱っています。

【鋼橋の点検・補修・補強|鋼材の損傷の種類と防食・補強の方法】
https://hashiwatashi.com/steel-bridge-maintenance/

【コンクリート橋の点検・補修・補強|劣化のしくみと補修・補強の方法を解説】
https://hashiwatashi.com/concrete-bridge-maintenance/

橋の一生をまるごと設計する——ライフスパンシミュレーション

こうした考え方を、橋の一生というスケールでとらえ直したものが、ライフスパンシミュレーションです。

橋の一生は、大きな循環として描けます。セメント、砂、鉄鉱石、そして新素材といった原料・物質から出発し、品質を確保しながらコンクリートや鋼材などの建設材料がつくられる。施工性を確保しながら橋梁として架けられ、供用中は安全性・耐久性を確保する。やがて性能が低下すれば延命化対策を施し、それでも機能停止にいたれば、解体して再利用へ。そして材料は、再び原料・物質へと還っていく——。

この循環の中心に据えられるのが、性能設計体系です。構造設計計画、施工管理計画、維持管理計画という各段階の計画と、建設材料の品質および施工性の評価、環境作用と構造安全性の評価、材料の長期品質と構造欠陥の評価という各段階の評価。これらを一つの体系として束ね、安全性向上と長寿命化を図りながら、橋の一生をまるごと設計し、シミュレーションしていく考え方です。

造るときのことだけを考えるのではなく、使っている間のことも、使い終わったあとのことも、最初から一つながりに見通しておく。リサイクルまで含めたライフスパンシミュレーションの構築が、これからの橋には必要とされています。

維持管理の段階で、劣化を予測しながら手を打っていく考え方については、こちらで整理しています。

【橋の維持管理と想像力|前兆を読み、リスクを見すえる予防保全の考え方】
https://hashiwatashi.com/bridge-maintenance-imagination/

ワンウェイ社会から循環社会へ

橋のライフスパンシミュレーションは、じつは社会全体の大きな転換と重なっています。ワンウェイ社会から循環社会への転換です。二つの社会の違いを、整理してみます。

観点ワンウェイ社会循環社会
モノの流れ資源→材料・部材→建設→供用→廃棄物へと一方通行供用後の材料をリサイクルし、再び材料・部材へ戻す循環
資源の投入新しい資源を採り続けることが前提リサイクルが主役となり、新規資源への依存を抑える
廃棄物大量に発生する最小限にとどめる
エネルギーと環境負荷温室効果ガスや熱エネルギーの排出が大きい自然エネルギーを活かし、排出を抑える

ワンウェイ社会では、資源から材料・部材がつくられ、建設され、供用され、最後は廃棄物として捨てられます。リサイクルの流れは細く、頼りない。資源を採り続け、廃棄物と温室効果ガスを出し続ける、文字どおりの「一方通行」です。

循環社会では、この流れが変わります。供用を終えたものはリサイクルへと回り、太い流れとなって材料・部材へ戻っていく。新しく投入する資源は最小限になり、廃棄物も最小限になる。エネルギーも、太陽光や風力などの自然エネルギーを主役に据え、温室効果ガスの排出を抑えていきます。

そもそも持続可能な社会とは、どんな社会でしょうか。それは、社会の永続性を確保するため、有限な地球の中で行う人間のあらゆる活動にともなって消費するモノやエネルギーに係る資源を、繰り返し、またはさまざまな形で利用するとともに、廃棄するものを最小限とする——その意志と能力(システム)を有する社会のことです。大切なのは、技術という「能力」だけでなく、「意志」も並んで挙げられている点です。できるかどうかの前に、やろうとするかどうか。橋の世界でリサイクル可能な材料や構造の開発が望まれているのも、まさにこの意志の表れといえます。

橋を長く使い、やがて役目を終えたら次へつなぐ。その判断のありようについては、こちらで扱っています。

【橋を架け替えるか、長寿命化するか|架替えの理由と餘部橋梁の診断に学ぶ】
https://hashiwatashi.com/bridge-replacement-reasons/

まとめ

この記事では、橋と環境問題を、リサイクルと循環型社会という視点から整理しました。

橋には寿命があり、廃棄するしかなくなったものは建設副産物として、可能な限り再利用する方針がとられています。ただし、鋼とコンクリートを分離するには多くのエネルギーが必要で、これからの橋には、将来材料を分離できる構造を計画段階から考えておくことが求められます。錦帯橋や伊勢神宮の式年遷宮が示すように、まだ使える材料を次へつなぐ知恵は、日本の木の文化が長く実践してきたものです。

アルミ缶が90数パーセントのリサイクル率を実現している一方、鋼橋やコンクリート橋のリサイクルには、まだ開発の余地があります。原料から建設、供用、延命、機能停止、そして再利用へ——リサイクルまで含めたライフスパンシミュレーションを構築し、環境にやさしくリサイクル可能な材料や構造を育てていくこと。それが、ワンウェイ社会から循環社会へと向かう時代に、橋の世界が果たすべき役割なのです。

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