超音波探傷試験(UT)とは?|音のエコーで鋼の中の亀裂を見つけるしくみを解説

超音波探傷試験(UT)とは? 橋梁

浸透探傷試験の記事の最後で、探傷トリオの役割分担に触れました。表面のきずはPTとMT、そして内部のきずはUTが受け持つ、と。今回は、その内部担当——超音波探傷試験の登場です。

鋼材の中に隠れた亀裂は、表面からどれだけ目を凝らしても、色をかけても、磁粉をまいても見えません。そこで、音の出番です。人の耳には聞こえない高い音を鋼材の中へ送り込み、返ってくる「こだま」を聞いて、中の様子を推理する。非破壊検査の総論で「鋼の内部を診るエコー」とたとえた検査の、これが本体です。ここでは、しくみの根本から、垂直と斜角という二つの探傷法、利点と欠点、そして欠点を乗り越える新しい手法までを、基礎から解説します。

超音波探傷試験とは——鋼の中の「こだま」を聞く

超音波探傷試験とは、超音波のパルス(短い音の粒)を、鋼材の表面にあてがった探触子(たんしょくし)から材料の中へ伝搬させ、内部から戻ってくる反射波——エコーを画面上で観察することで、内部の欠陥を検出する非破壊検査です。英語のUltrasonic Testingから、UT(ユーティー)と略されます。対象は、内部の亀裂や、溶接の未溶着といった、表面からは決して見えないきずたちです。

原理は、やまびこそのものです。音は、性質の異なるものの境界で反射します。鋼材の中がずっと一様なら、音はまっすぐ進んで反対側の底面で跳ね返るだけ。ところが途中に亀裂——つまり鋼と空気の境界——があれば、音はそこで反射して、予定より早く戻ってきます。「返事が早すぎる。何かある」。エコーの帰りの時間と強さから、きずの存在と位置を読み取るのです。

医療の世界で、お腹の中の様子を音で見るエコー検査と、発想はまったく同じです。人体の代わりに鋼材を、臓器の代わりに亀裂を診る——橋のエコー検査、それがUTです。

道具立て——探触子と、ジェルの理由

主役の道具が、探触子です。手のひらに載る小さな部品ですが、中には電気を振動に、振動を電気に変換する素子が入っており、超音波を送り出す発信器と、エコーを受け取る受信機を一身で兼ねます。使う超音波は、おおむね数MHz(メガヘルツ)——人の耳に聞こえる音のさらに百倍以上も高い、精密検査向けの音です。

そして、地味ながら欠かせない相棒が、接触媒質(カプラント)と呼ばれるジェル状の液体です。探触子を鋼材に当てる前に、これを塗ります。なぜか。超音波は、空気の層が大の苦手だからです。探触子と鋼材のあいだにごくわずかでも空気の隙間があると、音はそこでほとんど跳ね返されてしまい、鋼材の中に入っていけません。ジェルで隙間を埋めて、音の通り道を作ってやる——医療のエコー検査で、お腹にひんやりしたジェルを塗られるのと、まったく同じ理由です。

垂直探傷法——「底からの返事」が健全の証

UTの基本形が、垂直探傷法です。探触子から超音波(縦波)を、表面から真下へまっすぐ伝播させます。

健全な板なら、音は素直に底まで届き、底面で反射して戻ってきます。画面には、底からの返事——底面エコーが、規則正しく立ちます。ところが途中に欠陥があると、音の一部がそこで反射して、底面エコーより早いタイミングに、きずエコーが現れる。つまりこの方法では、「底からの返事がきちんとある」ことが健全の証で、「早すぎる返事」が欠陥の知らせなのです。エコーが返るまでの時間は、そのまま深さの物差しになるため、きずが表面からどのくらいの深さにあるかも直接読み取れます。

画面に映るのは、横軸に距離(時間)、縦軸にエコーの強さをとった波形です。慣れた検査員は、ピークの位置・高さ・形から、きずの深さや大きさの見当を、その場で組み立てていきます。

斜角探傷法——溶接部を、斜めから撃つ

ところが、鋼橋でいちばん診たい場所には、垂直法が使えないという問題があります。溶接部です。

溶接部の表面には、ビードと呼ばれる盛り上がりがあります。凸凹したビードの真上には、探触子を密着させられません。診たい場所の真上に、立てない——この難題を解くのが、斜角探傷法です。

斜角探傷法では、くさび形の部品を介して、超音波(横波)を斜めに材料へ撃ち込みます。斜めに入った音は、板の底面と表面で反射を繰り返しながら、ジグザグと材料の中を進んでいく。そして、探触子から離れた場所にある欠陥に当たると、来た道を引き返して戻ってきます。探触子は溶接部の手前に置いたまま、音だけがビードの下へ回り込んで、内部を診てくれるわけです。なお、音が斜めに進むこの方法では、垂直法のような底面エコーは現れません。

面白いのは、きずの居場所の求め方です。音がきずまで進んだ道のり(ビーム路程)と、撃ち込んだ角度が分かれば、三角関数の出番。道のりに角度のsinを掛ければ探触子からの水平距離が、cosを掛ければ深さが割り出せます。画面のエコーと、サインとコサイン。音で内部を「測量」している——斜角探傷とは、そういう検査なのです。

項目垂直探傷法斜角探傷法
使う波縦波横波
音の進み方表面から真下へまっすぐ斜めに入り、内部で反射を繰り返して進む
得意な対象板の内部のきず、板厚方向の欠陥溶接部など、真上に探触子を置けない場所のきず
底面エコー現れる(健全の目印になる)現れない
きずの位置の求め方エコーの戻り時間から深さが直接分かる角度と道のりから三角関数で割り出す

利点——内部が診える、片側から診える

UTの利点は、まず何といっても、部材内部の欠陥の検出と亀裂の判別に適することです。表面のPT・MTには決して届かない、鋼の中のきずを捉えられる。しかも、板の片側に探触子を当てるだけで済みます。装置は持ち運びが容易で、鋼構造物の製作から点検まで、長年にわたる使用実績の豊富さも、信頼の裏づけです。

内部を診るもう一つの代表、放射線透過試験(RT)と比べると、この身軽さが際立ちます。RTは内部をフィルムに写す強力な方法ですが、放射線を扱う管理が必要で、部材の裏側にフィルムを回す段取りも要ります。UTなら、放射線の管理区域も裏側へのアクセスも不要。現場の橋の上で、片側から、その場で診られるのです。

欠点——熟練の耳と、消えていく波形

一方で、欠点もはっきりしています。

第一に、測定には熟練を要すること。画面に立つエコーが、亀裂なのか、形状による反射なのか、ノイズなのか。波形の読みは、経験に裏打ちされた判断の世界です。実務では、非破壊試験技術者の資格を持つ検査員が測定と判定にあたります。

第二に、記録が保存しにくく、損傷の形状や種類を把握しにくいこと。基本の表示は「その瞬間の波形」であり、探触子を動かせば波形も変わります。写真に残しても、どこでどう当てた波形なのかという文脈ごと残すのは難しい。きずの立体的な形も、波形からの推理にとどまります。診る力は抜群なのに、診た結果を残しにくい——これが、従来のUTの泣きどころでした。

欠点を超える——TOFD法とフェイズドアレイ法

この泣きどころに、技術は答えを出しつつあります。

一つが、TOFD法。きずの端で音が回り込む現象(回折)を利用して、きずの上端と下端を捉え、きずの高さ——進展の程度を精度よく測る方法です。もう一つが、フェイズドアレイ法。たくさんの小さな素子を並べた探触子を電子制御し、超音波のビームを扇状に振ったり、狙った深さに集束させたりできる発展形で、返ってきたエコーはデジタル処理され、内部の様子が断面の画像として表示・保存されます。波形の読みに頼っていた世界が、画像で見て、データで残せる世界へ——「記録しにくい」「形が分かりにくい」という欠点そのものを、正面から克服する進化です。

なお、溶接継手部の欠陥検出では、放射線透過試験(RT)と、探触子を機械で走査する超音波自動探傷試験(AUT)が一般に採用されており、UTは自動化の道も歩んでいます。

番外編——同じ原理の兄弟、超音波厚さ計

最後に、橋の点検で毎日のように働いている、UTの兄弟を紹介します。超音波厚さ計です。

原理は垂直探傷と同じ。表面から音を送り、底面エコーが返るまでの時間を測れば、板の厚さが分かります。これが威力を発揮するのが、腐食した鋼材の残存板厚の測定です。錆びて痩せた桁の板が、いま何ミリ残っているのか——片側から当てるだけで、数字が出る。腐食の進行を定量的に追いかけ、補修の要否を判断する材料として、鋼橋の維持管理に欠かせない道具になっています。きずを探すだけでなく、部材の「残り」を測る。音の物差しは、そんな使い方もできるのです。

【鋼橋の点検・補修・補強|鋼材の損傷の種類と防食・補強の方法】 https://hashiwatashi.com/steel-bridge-maintenance/

【非破壊検査とは?|壊さずに橋の中を診る11の方法を解説】 https://hashiwatashi.com/non-destructive-testing/

まとめ

この記事では、超音波探傷試験(UT)を解説しました。

超音波探傷試験とは、探触子から鋼材の中へ超音波を送り、内部から返るエコーで、表面からは見えない亀裂や未溶着を捉える非破壊検査です。まっすぐ潜って底からの返事を確かめる垂直探傷法と、溶接部を斜めから狙い三角関数で居場所を測る斜角探傷法。ジェル一塗りに宿る物理から、熟練の波形読み、それを画像とデータの世界へ引き上げるフェイズドアレイまで——音という道具の奥行きが、この検査には詰まっています。

これで、鋼橋の探傷トリオがそろいました。表面に口を開けたきずは浸透探傷が色であぶり出し、表面とそのすぐ下は磁粉探傷が磁気で描き出し、内部は超音波探傷が音で聴き取る。見えない亀裂に、色と磁気と音で迫る三人組が、今日もどこかの橋の溶接部を、静かに診て回っているのです。

【浸透探傷試験とは?|スプレー3本で亀裂をあぶり出すカラーチェックのしくみと手順を解説】 https://hashiwatashi.com/penetrant-testing/

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