橋は永遠ではありません。しかし、傷んだからといって、すぐに架け替えればよいというものでもありません。補修・補強で延命するのか、それとも架け替えるのか——この見きわめは、橋を預かる者にとって、もっとも重い判断の一つです。
ここでは、橋が架け替えられる理由を「機能上」と「構造上」の二つに整理し、供用年数との関係、そして補修・補強か架替えかをどう判断するかを見ていきます。最後に、風と腐食に耐えて約100年を生き抜いた餘部橋梁(あまるべきょうりょう)の診断を、具体的なケーススタディとしてたどります。
橋が架け替えられる二つの理由
道路橋が、なぜ、何年使われた時点で架け替えられたのか。その調査結果を見ると、架替えの理由は大きく二つに分けられます。
一つは、機能上の理由です。路線の線形改良(カーブをゆるやかにするなどの改良)や、河川改修にともなう工事、あるいは橋の幅が狭くて交通をさばききれない、といった理由です。橋そのものはまだ使えても、周囲の状況や求められる役割が変わったために架け替える、というケースです。
もう一つは、構造上の理由です。耐荷力(たいかりょく:橋が安全に支えられる荷重の能力)の不足や、部材の劣化・損傷がこれにあたります。橋そのものが、力学的に役目を果たせなくなってきた、というケースです。
割合で見ると、機能上の理由による架替えが3〜5割程度を占め、構造上の理由は2割程度とされてきました。つまり、これまでは「橋が物理的に傷んだから」よりも、「周囲の事情が変わったから」架け替える方が多かったのです。
長く使われてきた橋なのだから、できるだけ残すべきだ——その発想は自然です。ただ、それだけでは行き詰まります。架け替えるとなっても、同じ場所に新しい橋を造れるとは限りません。周辺住民との合意形成も欠かせません。近くにある複数の橋を一つにまとめる「集約化」も検討すべき選択肢ですが、実現は容易ではありません。人の命を守ることは、インフラが担う大切な役割の一つです。そのために何をどう残し、何を架け替えるかを、総合的に判断する必要があります。
古い橋ほど「構造上の理由」が増える
ここで注目したいのが、供用年数との関係です。
橋が使われてきた年数が50年を過ぎると、構造上の理由で架け替えられたものの割合が、50%にまで上がります。若い橋では機能上の理由が中心でも、歳を重ねた橋では、橋そのものの傷みが架替えの主因になっていく、ということです。
日本では、高度経済成長期に多くの橋が一斉に造られました。それらが今、続々と50年を超えています。だとすれば、これから先は、構造上の理由で架替えや大規模な補修が必要になる橋が、ますます増えていくことになります。
橋がどのように歳をとり、どこまで延命できるのか。その考え方については、こちらで掘り下げています。
【橋の寿命とは?|劣化のしくみと長寿命化の考え方】
https://hashiwatashi.com/bridge-service-life/
構造上の理由とは、具体的に何か
では、構造上の理由とは、具体的にどんな傷みを指すのでしょうか。橋が架け替えられる主な構造上の理由として、次のようなものが挙げられます。
鋼部材の腐食、鉄筋コンクリート床版(しょうばん:車輪を直接支える板状の部材)の損傷、コンクリート部材のひび割れやコンクリートの剥離(はくり:表面が剥がれ落ちること)、そして橋脚や橋台の変位(位置のずれ)やひび割れなどです。
これらは、鋼にもコンクリートにも、上部にも下部にも起こりうる傷みです。鋼の腐食の見つけ方や、その補修・補強の具体については、こちらで整理しています。
【鋼橋の点検・補修・補強|鋼材の損傷の種類と防食・補強の方法】
https://hashiwatashi.com/steel-bridge-maintenance/
補修・補強か、架替えか——総合的に判断する
傷みが見つかったとき、ただちに架け替えると決まるわけではありません。まずは、補修・補強して長寿命化するか、それとも架け替えるかを見きわめる必要があります。その判断には、必要な予算の規模も、大きな要素として関わってきます。
そして、この判断の土台になるのが、点検と評価です。橋の重大な損傷事例を見ていくと、あることがはっきりしてきます。適切な頻度と手法で点検を行い、橋の状態を正しく把握すること。それに加えて、その結果をいかに適切に評価し、具体的な補修や補強という行動に結びつけるか。ここが、重大事故を防ぐためには不可欠だ、ということです。
言いかえれば、点検して終わり、ではありません。点検の結果を、評価を通じて対策へとつなげていく。その一連の流れの質——維持管理の品質保証の水準そのものが、橋の安全を左右します。
点検結果を健全度の評価へとつなげる考え方については、こちらで詳しく扱っています。
【橋の診断・評価とは?|健全度を見きわめる考え方】
https://hashiwatashi.com/bridge-diagnosis/
近年は、産学官(産業界・大学・行政)が連携して、橋梁の劣化状態を監視するモニタリングシステムの技術開発も進んでいます。橋にセンサーを取り付け、状態を継続的に見守るしくみです。
視野を広げると、日本のインフラ整備には大きな波があります。高度経済成長期を「第1のインフラ整備期」と呼ぶなら、今はその更新を担う「第2のインフラ整備期」に入りました。新しく造る時代から、すでにあるものを守り、賢く更新していく時代へ。国を挙げて、補修・補強に取り組まなければならない局面なのです。
ケーススタディ:餘部橋梁——風と腐食に耐えた約100年
架替えと長寿命化をめぐる判断が、現実にどう下されてきたのか。それを教えてくれる名橋が、餘部橋梁です。
餘部橋梁は、1912年(明治45年)3月に開通した、JR山陰本線の鉄道橋です(兵庫県)。鋼材を末広がりのやぐら状に組み上げた「トレッスル橋」という形式で、全長は約310m、谷底から線路までの高さは約41m。橋脚11基が立ち並ぶその姿は、トレッスル橋としては日本最長を誇り、「余部鉄橋」の名で多くの人に親しまれてきました。
この橋には、建設前から一つの懸念がありました。海のすぐそばに鋼の橋を架ければ、潮風で錆びやすく、保守に手間と費用がかかるのではないか——。実際、技術者の一人は、腐食に強い鉄筋コンクリートのアーチ橋を造るべきだと上申したほどでした。最終的には鋼製のトレッスル橋に決まりましたが、この懸念は、その後の橋の宿命を言い当てていました。
トレッスル橋がどんな構造で、ほかの橋とどう違うのかは、こちらの分類ガイドで確認できます。
【橋の種類|構造形式・用途・材料で分かる分類ガイド】
https://hashiwatashi.com/bridge-types/
開通後の餘部橋梁は、まさに「風と腐食との戦い」でした。日本海から吹きつける潮風は、鋼材を容赦なく錆びさせます。それでも橋が長らえたのは、専任の保守員——「鉄橋守(てっきょうもり)」と呼ばれた人々の地道な手入れと、計画的な部材の取り替えがあったからです。
餘部橋梁の診断に学ぶ——長寿命化の判断
この橋の維持管理を考えるうえで、示唆に富む記録があります。1965年(昭和40年)におこなわれた診断の結果概要です。当時の技術者は、橋を長らえさせるために、次のような方針を打ち出しました。
応力が許容応力を超す荒廃に達したときは、下から二次部材を全面的に取り替える。——部材に生じる力(応力)が、許してよい限界(許容応力)を超えるほど傷んだら、橋を支える主役ではない二次的な部材から、下部に近いものを全面的に交換していく、という考え方です。主要部材を守るために、まず二次部材で受け止める発想ともいえます。
主柱の腐食には、特に重点的に防止に努める。——トレッスル橋の脚にあたる主柱は、橋全体を支える要です。ここの腐食を最優先で食い止めることを、明確に掲げています。
アンカーの重量不足を解消する。——橋脚を基礎につなぎとめるアンカー(定着部)の不足を補い、強風などで橋が浮き上がったり動いたりしないように固める、という対策です。海沿いで風の強い立地ならではの着眼点です。
橋脚支承部の防錆に留意する。——橋脚と桁が接する支承(ししょう:荷重を受け渡す部分)まわりは、構造的に重要でありながら錆びやすい場所です。ここの防錆を怠らないよう促しています。
腐食の大きいガセットプレートの交換を行う。——ガセットプレートは、部材どうしをつなぐ接合部の添え板です。腐食が進んだものは交換する、という具体的な指示です。
注目すべきは、この診断の結びです。当時の技術者は、「これ以上の荒廃を防止すれば、なお30年以上の使用に耐えうる」と判定しました。そして、その判定は見事に的中します。餘部橋梁は、その後も長く役目を果たし続け、2010年(平成22年)に、新しいコンクリート橋へと架け替えられました。風と腐食に耐え抜いた末の、世代交代でした。
新しい橋は、エクストラドーズドPC橋という形式のコンクリート橋です。コンクリート橋の特徴や、PC橋のしくみについては、こちらで紹介しています。
【プレストレストコンクリート橋を詳しく知ろう|PC橋のしくみと特徴】
https://hashiwatashi.com/prestressed-concrete-bridge-details/
旧橋の橋脚の一部は、今も「空の駅」という展望施設として保存され、かつての姿を伝えています。役目を終えた橋が、別の形で人々に親しまれ続けている——架替えのあとにも、橋の物語は続いているのです。
まとめ
この記事では、橋が架け替えられる理由と、その判断のありようを整理しました。
橋の架替えには、線形改良や河川改修、幅員不足といった「機能上の理由」と、耐荷力の不足や部材の劣化・損傷という「構造上の理由」があります。これまでは機能上の理由が多くを占めてきましたが、供用50年を過ぎた橋では、構造上の理由が半分に達します。高度経済成長期に造られた橋が一斉に歳を重ねるいま、その傾向はいっそう強まっていきます。
傷んだ橋を、補修・補強で長寿命化するか、架け替えるか。その判断は、点検と評価の質、必要な予算、立地や住民との合意など、多くの要素を総合して下されます。餘部橋梁が、的確な診断と地道な手入れによって約100年を生き抜き、役目を終えて次の橋へとバトンを渡したように、橋を守る判断の積み重ねが、その橋の一生を形づくっていくのです。


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