ドローンが現場の上空を飛び、ブルドーザーが3次元データに導かれて土を削り、検査はパソコンの画面で進んでいく——。こうした建設現場の姿は、もう珍しいものではなくなりました。その変化を国を挙げて後押ししてきた取り組みの名前が、i-Construction(アイ・コンストラクション)です。
BIM/CIMも、点群も、ドローン測量も、この大きな傘の下で進められてきました。ここでは、i-Constructionとは何かという定義から、生まれた背景、3つの柱、ICT施工の具体的な流れ、これまでの成果、そして次の段階である「i-Construction 2.0」までを、基礎から整理します。
i-Constructionとは——建設現場の生産性革命
i-Constructionとは、国土交通省が2016年度から推進している、建設現場の生産性向上の取り組みです。調査・測量から設計、施工、検査、そして維持管理・更新まで、あらゆる建設生産プロセスでICT(情報通信技術)などを活用し、建設現場の生産性を2025年度までに2割向上させることを目標に掲げてスタートしました。
2016年は、当時の国土交通大臣が「生産性革命元年」と位置づけ、省内に生産性革命本部が設けられた年です。i-Constructionは、その中核をなすプロジェクトとして生まれました。ポイントは、「施工だけ」「測量だけ」といった一部分のデジタル化ではなく、建設という仕事の流れ全体を、データでつなぎ直そうとしたことです。
なぜ生まれたのか——担い手不足という時限爆弾
i-Constructionの背景には、建設業界が抱える切実な事情があります。担い手の不足です。
当時の見通しでは、2014年度に約153万人いた50歳以上の技能労働者のうち、7割を超える約110万人が、2025年までに引退などで現場を離れると予想されていました。一方で、29歳以下の若手は全体の1割程度。ベテランが大量に去り、若手が入ってこない——放っておけば、現場が回らなくなるのは時間の問題でした。
もう一つの事情が、生産性の伸び悩みです。製造業が工場の自動化などで生産性を大きく伸ばしてきたのに対し、屋外・単品生産・多重下請けという特性を持つ建設業の生産性は、長く横ばいが続いていました。
人が減るなら、一人ひとりの生産性を上げるしかない。そして、きつい・汚い・危険という旧来の「3K」のイメージを、給与がよい・休暇がとれる・希望がもてるという「新3K」へ変え、若い人が入りたくなる産業にする。i-Constructionは、単なる技術導入策ではなく、建設業という産業の生き残り戦略なのです。
3つの柱——ICTだけではない
i-Constructionの当初の柱は、トップランナー施策と呼ばれる3つです。意外に思われるかもしれませんが、ICTはそのうちの1本にすぎません。
1本目が、ICTの全面的な活用(ICT土工)。土を掘り、盛り、整える土工の全工程に3次元データを導入する施策で、i-Constructionの顔ともいえる存在です(詳しくは次の章で見ます)。
2本目が、全体最適の導入。コンクリート工の規格の標準化などを進め、工場でつくる部材(プレキャスト)の活用や施工の効率化を図る施策です。現場ごとの一品生産から、標準化された部品の組み立てへ。ものづくりの発想を建設に持ち込む取り組みといえます。
3本目が、施工時期の平準化。公共工事は年度末に集中しがちで、繁忙期と閑散期の差が、人と機械のむだな待機や過重労働を生んできました。発注の工夫で工事の時期をならし、一年を通じて安定して働ける環境をつくる施策です。
技術(ICT)、しくみ(標準化)、そして働き方(平準化)。三方向から同時に手を打つところに、この施策の本気度が表れています。
ICT施工の流れ——測る・設計する・動かす・検査する
では、看板施策であるICT施工は、現場をどう変えたのでしょうか。土工を例に、従来のやり方と比べてみます。
| 段階 | 従来のやり方 | ICT施工 |
|---|---|---|
| 測量 | 人が現地に立ち、1点ずつ計測する | ドローンやレーザースキャナーで、面的に点群データを取得する |
| 設計・施工計画 | 2次元図面をもとに、土の量を手計算する | 3次元設計データと現況データの差から、土量を自動算出する |
| 施工 | 丁張り(ちょうはり:位置や高さの目印となる仮設物)を頼りに、熟練の腕で建機を操る | 3次元データが建機を誘導・制御する(マシンガイダンス/マシンコントロール) |
| 検査 | 決められた間隔で人力計測し、大量の書類にまとめる | 3次元データで面的に出来形を確認し、書類を削減する |
流れを貫いているのは、「3次元データのリレー」です。まず、ドローン測量で現場の地形を点群として面的にとらえます。その現況データと3次元の設計データを重ねれば、どこをどれだけ掘り、盛るべきかが自動で割り出せます。
【点群データとは?|現実を数億の点で写し取る3次元計測のしくみと活用を解説】 https://hashiwatashi.com/point-cloud/
施工では、その3次元データを建設機械に読み込ませます。画面表示でオペレーターを誘導するマシンガイダンス、さらに刃先の動きを自動制御するマシンコントロール。丁張りを頼りに熟練の勘で削っていた作業が、データに導かれた作業に変わり、経験の浅いオペレーターでも高い精度を出せるようになりました。建機のまわりで計測員が作業する場面が減ることは、安全性の向上にも直結します。
そして検査。かつては決められた間隔で人力計測し、分厚い書類を作っていた出来形(できがた:仕上がりの形状)の確認が、施工後の点群と設計データの比較によって、面的に、そして大幅に少ない書類で行えるようになりました。
ここまでの成果——現場は確かに変わった
i-Constructionは、掛け声だけの施策ではありませんでした。国の直轄土木工事では、2022年度時点で、ICT施工を実施できる工事の87%で実際にICT施工が行われています。作業時間は、導入前の2015年度と比べて平均で約21%短縮。「2割向上」という目標に見合う効果が、数字で確かめられています。
広がりも着実です。都道府県・政令市の発注工事でのICT施工の公告件数は、2016年度にはわずか84件でしたが、2022年度には13,000件を超えました。国の実験的な取り組みから、全国の現場の当たり前へ——この普及の中で、ICT土工に続き、舗装、浚渫(しゅんせつ:水底の土砂の掘削)、地盤改良、法面(のりめん)整形など、対象工種も広がってきました。
一方で、課題も見えています。ICT建機やソフトウェアへの投資、データを扱える人材の育成は、地域の中小建設会社にとって軽くない負担です。都市部の大規模現場と、地方の小規模現場との間の「デジタル格差」をどう埋めるかは、次の段階へ持ち越された宿題といえます。
i-Construction 2.0——ICT活用から、オートメーション化へ
2024年4月、国土交通省はこの取り組みを一歩進めた「i-Construction 2.0」を策定しました。キーワードは、建設現場のオートメーション化です。
目標は明快です。2040年度までに、建設現場の省人化を少なくとも3割——つまり、生産性を1.5倍以上に高めること。今後さらに人口減少が進むなかで、暮らしと経済を支えるインフラの整備・維持管理を続けていくには、「ICTを使う」から「機械とデータに任せる」への進化が必要だ、という判断です。
柱は、やはり3本です。1本目は、施工のオートメーション化。建設機械の自動運転や、オペレーターが現場を離れて操作する遠隔施工を、災害復旧のような特別な現場だけでなく、一般の工事へ広げていきます。そのための自動施工の安全ルールづくりも始まっています。2本目は、データ連携のオートメーション化。建機の位置や稼働状況、施工履歴といった現場のデータをリアルタイムに集めて活かす、共通のデータ基盤を整えます。設計から施工、維持管理までを情報でつなぐBIM/CIMは、この柱の土台です。
【BIM/CIMとは?|設計・施工・維持管理をつなぐ3次元データ活用を解説】 https://hashiwatashi.com/bim-cim/
3本目は、施工管理のオートメーション化。映像による遠隔臨場や検査の効率化で、現場に行かなければできなかった管理業務を、離れた場所からこなせるようにしていきます。
めざす姿として掲げられているのは、「少ない人数で、安全に、快適な環境で働く、生産性の高い建設現場」。現場のデータがデジタル空間に集まり、そこでの分析や判断が現場へ返っていく——その行き着く先は、建設現場そのもののデジタルツイン化だといえるでしょう。
【デジタルツインとは?|現実と同期する「双子」のしくみと活用分野を解説】 https://hashiwatashi.com/digital-twin/
橋を守る仕事と、i-Construction
i-Constructionというと新設工事の話に聞こえますが、その視野には維持管理・更新も最初から含まれています。人口減少の時代にインフラを守り続けるという課題意識は、高度経済成長期に架けられた橋たちが一斉に歳を重ねている、橋の維持管理の現状とまっすぐ重なります。
ドローンで橋を測り、点群で変状をとらえ、データを次の点検へつなぐ。この一連の流れは、i-Constructionが土工で切り拓いた「3次元データのリレー」の、維持管理版にほかなりません。造る現場の生産性革命は、守る現場の生産性革命でもあるのです。
【橋の防災・減災|対症療法型から予防保全型への転換と保全方式の使い分け】 https://hashiwatashi.com/bridge-disaster-prevention/
まとめ
この記事では、i-Constructionの基礎を整理しました。
i-Constructionとは、国土交通省が2016年度から進める建設現場の生産性向上の取り組みです。担い手不足という危機を背景に、ICTの全面活用・全体最適・施工時期の平準化の3本柱でスタートし、測量から検査までを3次元データでつなぐICT施工は、直轄工事の87%で実施されるまでに定着、作業時間を約2割短縮する成果を上げました。そして2024年からは、2040年度までに省人化3割・生産性1.5倍をめざす「i-Construction 2.0」へ。ICTを「使う」時代から、施工・データ連携・施工管理を「自動化する」時代へと、舵が切られています。
ドローンも、点群も、BIM/CIMも、デジタルツインも、ばらばらの流行語ではありません。担い手が減っていく未来でもインフラを造り、守り続けるという一つの目的に向かって束ねられた、道具立ての名前です。i-Constructionを知ることは、これからの土木の現場がどこへ向かうのか、その地図を手に入れることだといえるでしょう。


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