はじめに
前回の記事では、吊橋について構造の原理から構成部材までを解説しました。
【内部リンク:吊橋を詳しく知ろう|構造の原理と種類を解説】
今回は「斜張橋(しゃちょうきょう)」を取り上げます。
斜張橋は、主塔から斜めに張ったケーブルで桁を支える橋形式です。吊橋と並ぶ、ケーブルを使った代表的な橋として、近年多くの場所で採用されています。横浜ベイブリッジのような優美な姿を、テレビや写真で目にしたことがある方も多いかもしれません。
今回は、斜張橋の構造の原理から種類、身近な実例までを順に見ていきます。吊橋との違いも意識しながら整理してみます。
斜張橋とは
斜張橋とは、主塔から斜めに張ったケーブルで桁を支える構造の橋のことです。
支間が大きくなると、桁橋では主桁だけで荷重を支えきれなくなります。そこで、主塔の上部から斜めに伸びた複数のケーブルが、桁を直接支える構造として考案されたのが斜張橋です。
桁を支える間隔を小さくした、多径間連続桁橋として捉えることもできます。ケーブルが等間隔で桁を吊ることで、主桁にかかる曲げモーメントとせん断力を小さくすることができ、結果として主桁断面を細くできるという特徴があります。
斜張橋を支える力学的なしくみ
斜張橋がどのように荷重を支えているのか、そのしくみを順に見ていきます。
ケーブルが引張力を受け持つ
斜張橋のケーブルは引張材として働き、橋にかかる荷重を引張力として受け止めます。
斜めに張られたケーブルには、軸方向の引張力が作用します。この引張力は、鉛直方向と水平方向の2つの成分に分けて考えることができます。鉛直方向の力は桁を支える力として、水平方向の力は主塔に伝わる力として、それぞれ役割を果たします。
主桁と主塔に圧縮力が作用する
ケーブルの引張力が分解されて伝わることで、主桁にも主塔にも圧縮力が作用します。
主桁には、ケーブルの水平方向の力が橋軸方向の圧縮力として加わります。一方、主塔には、ケーブルの水平方向の力が左右からつり合うように作用し、塔自体には圧縮力が作用します。このため、斜張橋には丈夫な主塔が必要となります。
吊橋との違い
吊橋と斜張橋は、どちらもケーブルで桁を支える構造ですが、力の伝わり方には大きな違いがあります。
吊橋では、ケーブルが主塔の頂点に「乗っている」だけで、主塔とは結合されていません。ケーブルから垂れ下がるハンガーロープが桁を吊っており、ケーブルの両端はアンカレイジで地盤に固定されます。
これに対して斜張橋では、ケーブルが主塔に直接「結合されて」います。ハンガーロープを介さず、主塔と桁を直接ケーブルで結ぶ点が、見た目にも構造的にも吊橋と異なります。また、斜張橋は両端のアンカレイジを必要とせず、主塔と桁の間で力がつり合う自己完結した構造になっています。
斜張橋の特徴
斜張橋には、以下のような特徴があります。
- ケーブルが主塔に結合されている(吊橋ではケーブルが主塔に乗っている)
- 一般的に大変美しい姿を持つ
- 吊橋と比べてケーブルが少なくてすむ
- 吊橋と比べて架設が比較的容易で速い
- 丈夫な主塔が必要となる
斜張橋は、吊橋ほど長大なスパンには向きませんが、中規模から大規模の支間長で力を発揮する橋形式だと考えます。架設の容易さと美しさが相まって、近年は世界中で採用が広がっています。
ケーブルの張り方の種類
斜張橋には、ケーブルの張り方によって2つの基本形式があります。
ハープ型
主塔の側面の異なった高さから、ケーブルを平行に張る形式です。ケーブルが平行に並ぶ姿が、楽器のハープを連想させることからこの名が付きました。すっきりとした見た目で、整然とした美しさを持ちます。
ファン型
主塔の上部の1点から、ケーブルを放射状に張る形式です。扇(ファン)が広がるように見えることからこの名が付きました。ケーブルが1点に集まる構造のため、主塔頂部での施工はやや複雑になりますが、力の流れとしては効率的な形式です。
実際の斜張橋では、ハープ型とファン型を組み合わせた中間的な形式も多く採用されています。
斜張橋の歴史
斜張橋の概念自体は古くから存在しましたが、近代的な斜張橋の始まりは戦後のドイツでした。ライン川に架けられた橋が、近代斜張橋の出発点とされています。
斜張橋は、少ない材料で架けられ、橋軸方向の圧縮力に耐えるのに適した構造ですが、長い間は小さな橋を中心に使われていました。理由は、構造を決める計算や解析が難しかったためです。
しかし、20世紀末頃から、構造解析の技術や施工技術が大きく向上し、外観の美しさと相まって、長大橋への適用が一気に広がりました。今では、世界中で多くの斜張橋が建設され、現代の橋形式の代表格となっています。
身近に見られる斜張橋
身近な斜張橋の例として、横浜ベイブリッジを紹介します。
横浜ベイブリッジは、1989年(平成元年)に開通した、神奈川県横浜市の本牧埠頭と大黒埠頭を結ぶ斜張橋です。横浜港の入口に架かり、首都高速湾岸線の一部を構成しています。
全長は860m、中央支間長は460m、主塔の高さは海面から175mに及びます。形式は3径間連続鋼トラス斜張橋で、ケーブルはファン型に張られた2面吊りです。完成当時は、中央径間で日本最大の斜張橋でした。
橋は2層構造になっており、上層は首都高速湾岸線、下層は国道357号として機能しています。1989年の開通の翌年には、橋梁の優れた設計に贈られる土木学会田中賞を受賞しました。
横浜港のシンボルとして広く親しまれており、夜間のライトアップは横浜の代表的な景観の1つとして知られています。横浜を訪れる際には、ぜひその優美な姿を眺めてみてください。
まとめ
今回は、斜張橋について構造の原理から種類、身近な実例までを見てきました。要点を振り返ります。
- 斜張橋は、主塔から斜めに張ったケーブルで桁を直接支える橋である
- ケーブルは引張力を受け、主桁と主塔には圧縮力が作用する
- 吊橋ではケーブルが主塔に乗っているが、斜張橋ではケーブルが主塔に結合されている
- ケーブルの張り方の基本形式に、ハープ型とファン型がある
- 吊橋と比べてケーブルが少なくてすみ、架設が比較的容易で速い
斜張橋は、構造的な合理性と美しさを兼ね備えた、現代を代表する橋形式の1つです。今後も世界中で、その姿を見かける機会が増えていくと考えます。
次回も、橋梁の世界をさらに広げていく内容をお届けします。お楽しみに。


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