はじめに
前回までの記事で、橋の構造形式(桁橋・トラス橋・アーチ橋・吊橋・斜張橋・ラーメン橋)と、材料による分類のうち鋼橋について解説してきました。
今回は、橋の材料による分類のもう1つの主役である「鉄筋コンクリート橋(RC橋)」について解説します。
道路橋・歩道橋・鉄道橋など、私たちの身の回りにはコンクリートでできた橋がたくさんあります。その多くは、コンクリートの中に鉄筋を入れて補強した「鉄筋コンクリート橋」です。
なぜコンクリートに鉄筋を入れるのか、どんな長所・短所があるのか、一緒に見ていきましょう。
鉄筋コンクリート橋とは
鉄筋コンクリート橋は、英語で Reinforced Concrete Bridge と表現することから、RC橋とも呼ばれます。「Reinforced」は「補強された」という意味で、コンクリートを鉄筋で補強した構造であることを示しています。
鉄筋コンクリートの歴史は意外と浅く、150年程度しかありません。コンクリート自体は古代ローマ時代から使われていましたが、鉄筋を組み合わせて構造材料として用いる発想が確立されたのは、19世紀後半のことです。
日本国内では、明治36年(1903年)に京都の琵琶湖疏水沿いに架けられた「日ノ岡第11号橋」が、最初期のRC橋として知られています(後ほど詳しくご紹介します)。
なぜコンクリートに鉄筋を入れるのか
鉄筋コンクリート橋の仕組みを理解するには、コンクリートの「弱点」を知る必要があります。
コンクリートの基本的な性質
コンクリートは、砂や砂利(骨材)をセメントで結合させた材料です。コンクリートには次のような性質があります。
- 圧縮力には強い(押される力に耐える)
- 引張力には弱い(引っ張られる力に弱い)
- 引張に対する強度は、圧縮に対する強度の12分の1程度
橋の桁を考えてみましょう。橋の上を車や人が通ると、桁の下の部分が引っ張られる方向に力がかかります。コンクリートだけで桁を造ると、この引張力によってひび割れが入ってしまいます。
鉄筋が引張力を受け持つ
そこで、引張を受ける部分に鉄筋を入れて補強します。鉄筋は引張に強いため、コンクリートが苦手な引張力を肩代わりしてくれます。
コンクリートと鉄筋を組み合わせることで、それぞれの長所を活かし、短所を補い合う構造になります。これが鉄筋コンクリートの基本的な考え方です。
鉄筋に「異形鉄筋」が使われる理由
現在のRC橋では、表面に突起を持つ「異形鉄筋(いけいてっきん)」が使われています。丸い棒状の「丸鋼(まるこう)」はほとんど使われていません。
なぜ異形鉄筋なのか。それは、コンクリートと鉄筋の付着を良くするためです。
コンクリートと鉄筋がしっかり一体となって力を受け持つには、両者の間にズレが生じてはいけません。表面に突起がある異形鉄筋は、コンクリートとの噛み合わせが良く、付着力が高くなります。
実は、鉄筋コンクリートが構造として成り立つ理由は、付着以外にもいくつかあります。
- コンクリートと鉄筋の付着が良好で、互いに協同して外力を負担できること
- コンクリート中に埋め込んだ鉄筋は、セメントペーストのアルカリ性に保護されて錆びにくいこと
- コンクリートと鉄筋の熱膨張係数がほぼ同じで、温度変化があっても両者の間に大きな応力が生じないこと
この3つが揃っているからこそ、鉄筋とコンクリートは長期間にわたり協力し合えるのです。
鉄筋コンクリート橋の長所
RC橋には、次のような長所があります。
形状や寸法を比較的自由に決められる コンクリートは型枠を用いて打設するため、設計者が望む形を作りやすい材料です。
材料が比較的安く、入手や運搬も容易 セメント・砂・砂利・水・鉄筋という、いずれも一般的な材料で構成されます。
耐久性・耐火性・耐震性に優れる 鋼橋のように定期的な塗装の塗り替えが不要で、塩害による錆の発生にも比較的強いという特徴があります。
騒音・振動が少ない 同じ支間長の鋼橋と比べて、騒音・振動が小さくなる傾向があります。振動の振れ幅が相対的に小さいため、鉄道橋にもよく利用されます。
鉄筋コンクリート橋の短所
一方、RC橋には次のような短所もあります。
重量の割に強度が小さい 同じ支間長の鋼橋と比べると、重たくなる傾向があります。長大橋には不向きとされる理由の1つです。
ひび割れが発生しやすい 引張や曲げに対しては鉄筋が補強しているとはいえ、コンクリートそのものはひび割れを起こしやすい材料です。
塩害による鉄筋の錆 通常はアルカリ性のコンクリートに守られている鉄筋ですが、海岸部や凍結防止剤を使う地域では、塩分がコンクリート内部に侵入し、鉄筋を錆びさせることがあります。錆びた鉄筋は膨張するため、コンクリートを内側から押し広げ、ひび割れや剥落(はくらく)の原因になります。
局部的な破損が生じやすい ぶつけたり衝撃を受けたりすると、その部分のコンクリートが欠けたり、ひびが入ったりします。
鉄筋コンクリート橋の用途
RC橋は次のような形式の橋に使われます。
- 床版橋(しょうばんきょう):薄い板状のコンクリートをそのまま桁として使う、シンプルな橋
- 桁橋(けたばし):比較的短い支間長の道路橋・歩道橋などに広く使われる
- アーチ橋:圧縮力に強いコンクリートの特性を活かした形式
特に短い支間長の橋では、コストや施工性の面でRC橋が選ばれることが多くなります。
身近なRC橋の実例|日ノ岡第11号橋
日本で最初期の鉄筋コンクリート橋として知られているのが、京都市山科区の琵琶湖疏水沿いにある「日ノ岡第11号橋(ひのおかだいじゅういちごうばし)」です。
明治36年(1903年)7月、琵琶湖疏水の主任技師であった**田邉朔郎(たなべ さくろう)**の指導のもとで架けられました。橋長7.2m、幅員1.5mほどの小さな橋ですが、土木史的にとても重要な意味を持っています。
興味深いのは、当時はまだ鉄筋専用の材料が普及していなかったため、疏水工事で使われていたトロッコの古レールを鉄筋代わりに用いて造られたという点です。国産セメントの試験的な使用も兼ねていたとされ、まさに日本のRC橋の出発点となった構造物です。
橋のそばには「本邦最初鉄筋混凝土橋(ほんぽうさいしょてっきんコンクリートきょう)」と刻まれた石碑が立っています。なお、近年の研究では、ほぼ同時期に長崎でも鉄筋コンクリート橋が造られていたことが分かっており、現在では「日本最初期のRC橋」と表現されることが多くなっています。
緩やかなアーチを描いたこの小さな橋は、今も国の史跡として大切に保存されており、当時のままの姿で疏水を渡っています。
まとめ
今回は、鉄筋コンクリート橋(RC橋)について解説しました。
- コンクリートの弱点である引張に対して、鉄筋で補強した構造
- 異形鉄筋により、コンクリートと鉄筋の付着が良好に保たれる
- 形状の自由度が高く、騒音・振動が少なく、塗装の塗り替えが不要
- 重量の割に強度が小さく、塩害には注意が必要
- 床版橋・桁橋・アーチ橋などに広く使われる
RC橋は私たちの身の回りに数多く存在する、土木構造物の主役の1つです。次に橋を見かけたら、それがRC橋かどうか、形をじっくり観察してみてください。
次回は、鉄筋コンクリート橋からさらに発展した「プレストレストコンクリート橋(PC橋)」について解説する予定です。RC橋と何が違うのか、どんな仕組みでより長い支間長を実現しているのか、一緒に見ていきましょう。
内部リンク:鋼橋を詳しく知ろう|材料の特性と構造の特徴を解説 →https://hashiwatashi.com/steel-bridge-details/
内部リンク:橋梁の種類|材料による分類(鋼・コンクリート・木)→https://hashiwatashi.com/bridge-types-by-material/
内部リンク:橋の各部位を知ろう|上部構造・下部構造・基礎の役割→https://hashiwatashi.com/bridge-parts/


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