はじめに
橋を渡る車の重さは、橋の桁を曲げようとする力になります。この「曲げようとする力」を曲げモーメントと呼びます。橋の桁は、この曲げモーメントに耐えるように設計されています。
では、曲げモーメントを受けた桁の内部では、いったい何が起きているのでしょうか。桁のどこに大きな力がかかり、どこが余裕を持っているのか。これを理解することは、橋の設計の最も基本的な部分にあたります。
この記事では、曲げを受ける桁の内部で起きていることを、できるだけイメージしやすい形で見ていきます。構造解析の基本的な考え方については、以下の記事で整理しています。
【橋のモデル化と構造解析の3条件|橋の力をどう解き明かすか】 https://hashiwatashi.com/bridge-structural-analysis/
桁が曲がるとき、内部で起きること
一本の桁の真ん中に重いものを乗せると、桁は下向きにたわみます。このとき、桁の内部では、上側と下側でまったく逆のことが起きています。
桁が下にたわむと、桁の上側は縮もうとします。逆に、桁の下側は伸びようとします。本を両手で持って下向きに曲げる様子を思い浮かべると分かりやすいかもしれません。曲げると、内側(上側)のページは縮み、外側(下側)のページは伸びようとします。橋の桁の中でも、これと同じことが起きているのです。
上側が縮もうとする力、これが「圧縮」です。下側が伸びようとする力、これが「引張(ひっぱり)」です。一本の桁の中に、圧縮と引張という正反対の力が同時に生じている。これが、曲げを受ける部材の大きな特徴です。
中立軸という境目
桁の上側が縮み、下側が伸びるのであれば、その中間には「縮みも伸びもしない場所」があるはずです。
この、曲げを受けても伸び縮みしない境目のことを「中立軸」と呼びます。桁の断面を縦に見たとき、ちょうど真ん中あたりに位置する、力学的にとても重要な軸です。
中立軸を境にして、片側は圧縮、もう片側は引張になります。そして、中立軸から離れるほど、圧縮や引張の力は大きくなっていきます。中立軸のすぐ近くはあまり力がかからず、桁の上端と下端、つまり中立軸から最も遠い場所に、最も大きな力がかかるのです。
これは、橋の設計を考えるうえで重要な事実です。桁の中で最も厳しい状態になるのは、上端と下端です。だからこそ、桁の断面は、上下の縁の部分を充実させた形が効率的になります。I形の断面(アルファベットのIのような形)が橋の桁によく使われるのは、まさにこの理由からです。力が大きくかかる上下の部分に材料を集中させ、力があまりかからない中央部の材料を減らすことで、軽くて曲げに強い桁を実現しているのです。
なぜそう言えるのか:3つの条件のつながり
桁の内部で圧縮と引張が生じ、中立軸から離れるほど力が大きくなる。このことは、感覚的にも理解できますが、実は力学的にもきちんと説明できます。その土台になるのが、構造解析の3つの条件です。
1つ目は、形に関する条件です。曲げを受ける前は平らだった桁の断面は、曲げを受けた後も平らなままである、という考え方があります。これを「平面保持(へいめんほじ)の仮定」と呼びます。断面が平らなまま傾くと考えると、中立軸からの距離に比例して、伸び縮みの量が決まることになります。中立軸から遠いほど大きく伸び縮みする、という先ほどの話は、ここから導かれます。
2つ目は、材料に関する条件です。材料は、伸び縮みの量に応じた力を生み出します。大きく伸びた部分には大きな引張の力が、大きく縮んだ部分には大きな圧縮の力が生じます。伸び縮みと力が結びつくわけです。
3つ目は、力に関する条件です。桁の内部に生じた圧縮と引張の力は、全体として、外から加わった曲げモーメントとつり合っていなければなりません。このつり合いの関係から、桁の内部にどれだけの力が生じているかが決まります。
この3つの条件を順につなげていくことで、曲げモーメントを受けた桁の内部の力の分布が、明確に求められるのです。前回見た構造解析の3条件が、曲げという身近な現象の中で、実際に働いていることが分かります。
断面の形が「曲げにくさ」を決める
桁の曲げに対する強さは、使われている材料だけでなく、断面の形によっても大きく変わります。
同じ量の材料を使っても、その配置の仕方によって、曲げにくさは変わります。先ほど触れたように、力が大きくかかる上下の縁に材料を集中させた方が、曲げに強くなります。逆に、中立軸の近くにばかり材料があっても、曲げに対してはあまり効きません。
この「断面の形が曲げにくさにどう影響するか」を表す指標があり、断面の形状を工夫することで、効率的に曲げに強い桁を造ることができます。背の高い桁が曲げに強いのも、上下の縁が中立軸から遠くに位置するためです。定規を平らに置いて押すと簡単にたわみますが、立てて押すとなかなかたわまない。あの違いも、同じ原理によるものです。
設計者は、こうした断面の性質を理解したうえで、必要な強さを満たしつつ、できるだけ無駄のない断面を選んでいきます。
まとめ
この記事では、曲げを受ける橋の桁の内部で何が起きているのかを見てきました。
桁が曲がると、中立軸を境に、片側に圧縮、もう片側に引張の力が生じます。中立軸から離れるほど力は大きくなり、桁の上端と下端に最も大きな力がかかります。この力の分布は、形・材料・力という構造解析の3つの条件を組み合わせることで、明確に説明できます。
また、桁の曲げに対する強さは、材料だけでなく断面の形にも左右されます。力が大きくかかる縁の部分に材料を配置することで、軽くて曲げに強い桁を実現できます。
普段何気なく見ている橋の桁の形には、こうした力学的な理由が込められています。橋の桁がなぜその形をしているのかを知ると、橋を見る目が少し変わってくるかもしれません。


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