落橋防止システムとは?|地震で橋を落とさないための備えを解説

橋梁

大きな地震が起きるたびに、私たちは橋の安否を気にします。道路が寸断されれば、救助も、物資も、避難も止まってしまうからです。

橋にとって最悪の事態が、落橋(らっきょう)です。上部構造——つまり人や車が通る桁が、それを支える下部構造から外れて落ちてしまうこと。ひとたび起これば、人命に直結し、復旧にも長い時間がかかります。これを防ぐために組み込まれているのが、落橋防止システムです。ここでは、システムを構成する三つの機能から、実際に使われている具体的な構造、そして「ずれても落ちなければ役目を果たしている」という設計の考え方までを解説します。

落橋を防ぐという発想は、どこから来たか

橋を地震から守る方法として、古くから、隣り合う上部構造どうしを連結したり、上部構造と下部構造をつないだりといった対応がとられてきました。

その考え方が大きく前進する転機となったのが、1995年(平成7年)の兵庫県南部地震です。この地震では、橋脚の倒壊などによって落橋を含む甚大な被害が生じました。多くの方が被害に遭われたこの経験は、その後の橋の耐震対策に重い教訓を残し、設計基準の見直しと、落橋防止システムの強化へとつながっていきます。

そこで据えられた考え方が、こうです。設計で想定しきれない地盤の破壊が起きても、思いもよらない壊れ方をしても、最後の最後で桁だけは落とさない。落橋防止システムとは、いわば橋の最終防衛線として位置づけられた備えなのです。

地震に対する橋の設計全体の考え方は、こちらで整理しています。

【耐震設計の考え方|地震に強い橋を造るための3つの考え方】 https://hashiwatashi.com/bridge-seismic-design/

落橋防止システムを構成する三つの機能

落橋防止システムは、次の三つの機能で構成されます。

機能役割
桁かかり長支承部が破壊したときに、上部構造が下部構造の頂部から逸脱することを防止する
落橋防止構造支承部が破壊したときに、橋軸方向の上下部構造間の相対変位が桁かかり長を越えないようにする
横変位拘束構造支承部が破壊したときに、上部構造が橋軸直角方向に変位することを拘束する

三つに共通する言葉に気づかれたでしょうか。「支承部が破壊したときに」です。

支承(ししょう)は、桁と橋脚・橋台の間にあって、荷重を伝えつつ橋の動きを受け止める部品です。平常時はもちろん、地震時にも、まずこの支承部が力を受け持ちます。落橋防止システムが働き始めるのは、その支承部が壊れた後。つまりこれらは、一次の守りが破られた後に発動する、二の矢・三の矢なのです。

【支承とは?橋を支え、動きを受け止める重要部材】 https://hashiwatashi.com/bridge-bearing/

桁かかり長——落とさないための、いちばん基本の寸法

桁かかり長(けたかかりちょう)は、桁端部から下部構造の頂部の縁端までの、上部構造の長さとして定義されます。記号ではSEと表されます。

かみ砕けば、「桁が橋脚や橋台の上に、どれだけ載っているか」という寸法です。橋脚の上で二つの桁が向かい合う場合も、橋台に桁が載る場合も、考え方は同じ。地震で桁が動いたとき、この長さの範囲に収まっていれば、桁は落ちません。逆にいえば、動いた量がこの長さを超えた瞬間に、桁は宙に投げ出されます。

装置でも仕掛けでもなく、ただの寸法。しかしこれが、落橋を防ぐもっとも基本的で、もっとも確実な備えです。何かが壊れて機能を失う心配がなく、そこにある限り効き続けるからです。

古い基準で造られた橋では、この桁かかり長が現在の基準に足りないことがあります。その場合の対策が、縁端拡幅(えんたんかくふく)です。橋台や橋脚の天端をコンクリートで継ぎ足し、桁が載る面を物理的に広げてやる。既設橋の耐震補強で、実際によく用いられる工法です。

落橋防止構造——桁が動きすぎるのを止める

桁かかり長が「落ちない範囲」を確保する備えだとすれば、落橋防止構造は、そもそも桁がその範囲を超えて動かないようにする備えです。橋軸方向、つまり橋の長さ方向のずれを抑え込みます。

実際に使われている構造は、大きく三つのタイプに分かれます。

タイプ構造の例
下部構造に突起等を設ける構造コンクリートブロック、鋼製ブラケット(いずれも緩衝材を併用)
下部構造と上部構造を連結する構造PC鋼材、ケーブル、チェーン
上部構造同士を連結する構造PC鋼材、ケーブル、ボルト、ピン

一つめは、橋台や橋脚の上に壁のような突起を設けて、桁が動いてきたら受け止める方式です。コンクリートのブロックを立てるものと、鋼製のブラケットを取り付けるものがあります。

二つめが、桁と下部構造をつないでおく方式。PC鋼材(強い引張力に耐える鋼材)やケーブル、チェーンで結んでおき、桁が離れようとしたときに引き留めます。橋の下をのぞいたとき、桁と橋台の間に太いケーブルや鎖が渡されているのを見たことがあるかもしれません。あれがこの構造です。

三つめは、隣り合う桁どうしを連結する方式です。橋脚の上で向かい合う二つの桁を、PC鋼材やボルト、ピンでつなぎ、いっしょに動くようにしておきます。

ここで注目したいのが、突起や連結部に緩衝材(かんしょうざい)が挟まれていることです。地震で動いてきた桁を、硬いもので真正面から受け止めれば、その衝撃で桁自体や取り付け部が壊れかねません。緩衝材は、その衝撃をやわらげ、力を逃がす役目を負っています。ただ止めるのではなく、うまく止める——設計の細やかさが表れている部分です。

横変位拘束構造——横へのずれを止める

三つめの機能が、横変位拘束構造です。こちらは橋軸直角方向、つまり橋を渡る向きに対して横方向のずれを抑えます。

橋が曲線を描いていたり、川や道路に対して斜めに架かっていたりすると、地震のときに桁は横方向にも振られます。まっすぐな橋であっても、揺れ方によっては横にずれる。その動きを拘束するのが、この構造の役目です。

一般に用いられているのは、次の三つの形式です。桁の側面に沿ってコンクリート製の突起を立てるもの。同じ役割を鋼製の突起で果たすもの。そして、桁と下部構造をピンで結んで横移動を止めるピン型構造です。

なお、この構造が拘束すべき変位の考え方は、基準の改定にともなって整理し直されており、より新しい基準では回転方向の変位を拘束する機能として規定されています。設計に携わる場合は、適用する基準の版を確かめる必要があります。

段差防止構造という備え

もう一つ、落橋防止システムと関連して語られることの多い構造があります。段差防止構造です。

これは、支承が壊れたときに桁が沈み込み、路面に大きな段差ができるのを防ぐための構造です。とくに背の高い鋼製支承が破壊すると、その分だけ桁が落ち込み、車が通れないほどの段差が生じることがあります。地震の直後に、救助車両や物資輸送の通行を確保するうえで、意味のある備えです。

ただし、この構造の位置づけは基準の版によって異なり、落橋防止システムの構成要素として数えられることも、付属的な設計項目として扱われることもあります。実務で扱う際は、どの基準に基づいているかを確認するのが確実です。

「ずれても落ちなければ」——システムの目的と限界

ここで、大切な考え方に触れておきます。落橋防止システムの目的は、橋を無傷で残すことではありません。桁を落とさないことです。

大きな地震のあと、桁がずれた橋や、路面に段差ができた橋の映像を目にすることがあります。痛ましい光景ですが、構造の観点からいえば、それは「ずれたけれども、落ちなかった」状態でもあります。支承部が壊れ、桁が動き、しかし桁かかり長の内側にとどまった。あるいは連結された鋼材が引き留めた。設計が想定していた最終防衛線が、まさに働いた姿だと見ることもできるのです。

もちろん、ずれてよいわけではありません。桁がずれれば通行はできなくなり、復旧には大がかりな工事が要ります。それでも、落ちれば人命が失われ、復旧はさらに困難を極める。その差は決定的です。「壊れないこと」ではなく「致命的にならないこと」を狙う——これは、想定を超える力が来ることを前提にした、現代の耐震設計に共通する考え方でもあります。

そして限界もあります。断層が直下を横切るような場合や、地盤そのものが動くような事態では、想定を超える変位が生じ得ます。過去の地震の教訓を受けて基準は改定を重ねてきましたが、古い基準で造られた橋には、現在の水準に照らして補強が必要なものも残っています。既設橋の耐震補強が、いまも各地で進められている理由がここにあります。

【橋の耐震補強と再生|既存橋を地震から守る、ハードとソフトの対策】 https://hashiwatashi.com/bridge-seismic-retrofit/

平時は働かない、だからこそ点検で見る

落橋防止システムには、橋のほかの部位とは決定的に違う性格があります。平時には、ほとんど出番がないことです。

毎日の交通を支えているのは、桁であり、支承であり、床版です。落橋防止構造は、地震という「いざ」のときに初めて力を発揮します。裏を返せば、普段は力がかかっていないぶん、傷んでいても気づかれにくい。

だからこそ、点検では意識して見ます。連結材の取り付け部が腐食していないか。ボルトにゆるみはないか。緩衝材が劣化していないか。取り付け部は、システム全体の要であると同時に、弱点にもなり得る場所です。いざというときに本来の力を出せなければ、備えは備えとして成立しません。

普段は誰にも意識されず、一度も働かないまま橋の生涯を終えるかもしれない。それでも、健全な状態で保たれ続けなければならない——落橋防止システムの点検には、そういう性質があります。

【橋の維持管理と想像力|前兆を読み、リスクを見すえる予防保全の考え方】 https://hashiwatashi.com/bridge-maintenance-imagination/

まとめ

この記事では、落橋防止システムを解説しました。

落橋防止システムとは、地震で支承部が壊れた後に働く、橋の最終防衛線です。桁が載っている長さを確保する桁かかり長、橋軸方向のずれを抑える落橋防止構造、横方向のずれを拘束する横変位拘束構造。この三つが組み合わさって、桁の落下を防ぎます。落橋防止構造には、突起で受け止めるもの、下部構造と連結するもの、桁どうしを連結するものがあり、いずれも緩衝材で衝撃をやわらげる工夫が施されています。

そして、この備えが目指すのは、無傷でいることではありません。ずれても、傾いても、桁だけは落とさない。人命を守り、次の一歩を可能にする——その一点に、設計は絞り込まれています。橋の下に渡された太いケーブルや、橋脚の上のコンクリートの突起は、そのために何十年も静かに待ち続けている備えなのです。

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