鋼橋の溶接継手とは?|開先溶接とすみ肉溶接のしくみと疲労の急所を解説

鋼橋の溶接継手とは? 橋梁

鋼の橋は、一枚の板からできているわけではありません。工場で作られた部材を運び、現場で組み立てて、一本の橋にする。その部材どうしをつなぐ場所を、継手(つぎて)と呼びます。

つまり鋼橋とは、つなぎ目の集合体です。そして継手は、力の通り道であると同時に、橋のもっとも弱くなりやすい場所でもあります。鋼部材をつなぐ主な方法は、溶接継手と高力ボルト継手の二つ。ここでは前者、溶接継手について、溶接の種類から開先という溝の役割、伝えられる力の違い、図面で使われる記号、そして点検で継手に注目する理由までを解説します。

溶接継手の四つの種類

道路橋の設計基準では、溶接の種類として次の四つが示されています。

溶接の種類どのような溶接か
開先溶接部材に開先(グルーブ)と呼ぶ溝を設けて行う溶接。全厚を溶かし込む完全溶込みと、厚さの一部だけを溶接する部分溶込みがある
すみ肉溶接ほぼ直交する二つの部材の面を、表面のみで三角形状につなぐ溶接
プラグ溶接重ね合わせた部材の片側に穴を設けて行う溶接
スロット溶接プラグ溶接の穴の代わりに、細長い溝を設けて行う溶接。溝溶接とも呼ばれる

このうちプラグ溶接とスロット溶接については、現在では主要部材に原則として使用してはならないこととされています。穴や溝の中で溶接するという性質上、内部の品質を確かめにくく、応力も集中しやすいためです。実質的に、いま橋を支えているのは、開先溶接とすみ肉溶接の二つだと考えてよいでしょう。

開先とは何か——溶接のための溝

ここで、開先(かいさき)という言葉を押さえておきます。

開先とは、溶接する母材と母材の間に設ける溝のことです。なぜ溝が必要なのでしょうか。板を突き合わせて、その隙間に溶けた金属を流し込む——と考えれば分かりやすいと思います。板の端をまっすぐ切ったまま突き合わせただけでは、溶けた金属は表面近くにしか入りません。板の奥までしっかり溶かし込むには、あらかじめ隙間の形を作っておく必要があるのです。

この溝の断面形状には、いくつかの型があります。溝を設けずに突き合わせるI形。片側からV字に開くV形。両側からX字に開くX形。片方の板だけを斜めに削るレ形。それを両側から行うK形。板の厚さや、どちら側から溶接できるかによって、適した形が選ばれます。

そして、溶接部の強さを表す大切な寸法が二つあります。のど厚と、脚長です。のど厚とは、溶接部の断面において、力を伝える有効な厚さのこと。すみ肉溶接では、三角形の断面の底辺の長さが脚長で、そこから測った有効な厚みがのど厚にあたります。溶接部がどれだけの力を伝えられるかは、見た目のビードの大きさではなく、このど厚で決まります。

継手の形と、組み合わせられる溶接

一方、つなぎ方の形にも種類があります。板と板を一直線に突き合わせる突合せ継手。一方の板に他方を垂直に立てるT継手(両側から立てれば十字継手)。板を重ね合わせる重ね継手です。

そして、継手の形によって、使える溶接の種類が決まってきます。

継手の形完全溶込み部分溶込みすみ肉
突合せ使える使える使えない
T・十字使える使える使える
重ね使えない使える使える

突合せ継手にすみ肉溶接が使えないのは、当然といえば当然です。すみ肉溶接は、直交する二面の隅を埋める溶接ですから、一直線に並んだ板には隅そのものが存在しません。逆に重ね継手で完全溶込みができないのは、重なった板を全厚にわたって溶かすことができないからです。形が、方法を決めるのです。

伝えられる力の違い——ここが最重要

さて、この記事でもっとも大切な話をします。溶接の種類によって、伝えられる力の種類が違うのです。

完全溶込み溶接は、垂直応力とせん断応力の両方に抵抗できます。一方、部分溶込み溶接も、すみ肉溶接も、プラグ溶接も、スロット溶接も、抵抗できるのはせん断応力だけです。

垂直応力とは、部材を引っ張ったり押したりする方向の力。せん断応力とは、断ち切ろうとする方向の力です。つまり、「引っ張られる力を正面から受け止められるのは、完全溶込み溶接だけ」ということになります。

理由は、溶け残りにあります。部分溶込み溶接では、板厚の一部しか溶けていないため、溶けていない部分——未溶着部が内部に残ります。この未溶着部は、構造から見れば、内部に潜んだ切れ込みと同じです。引っ張る力がかかれば、その切れ込みの先端に応力が集中し、そこから亀裂が育っていく。だから、引張力を伝える主要な部材の継手には、完全溶込み溶接が求められるのです。

橋の図面で「完全溶込み」と指定されている箇所は、設計者が「ここには引っ張る力が正面からかかる」と判断した場所だ、と読むこともできます。

溶接記号——図面に込められた指示

こうした溶接の指定は、図面上では記号で表されます。溶接記号は、JIS Z 3021という規格に準じており、鋼構造に関わる人々の共通言語になっています。

面白いのは、この記号が驚くほど多くの情報を一つに束ねていることです。基線と呼ばれる水平線に、矢印を引き出して溶接する箇所を指し示す。そこに、溶接の種類を表す記号(I形なら二本の平行線、V形ならV、X形ならX、K形ならK、すみ肉なら直角二等辺三角形)を書き込む。さらに、開先の角度、ルート間隔(板と板の隙間)、溶接の寸法や強さ、断続溶接の長さとピッチまでが、決まった位置に配置されます。

加えて、補助記号もあります。溶接部の表面を平らに仕上げるのか、凸にするのか、凹ませるのか。仕上げの方法はチッピングか、グラインダーによる研削か、機械による切削か。工場ではなく現場で溶接するのか。部材の全周を溶接するのか。

たとえば、板厚19mmの板に、深さ16mm、角度60度の開先を設け、ルート間隔2mmで溶接せよ——といった指示が、記号のわずかな組み合わせで表現されます。図面を読むということは、この記号を読むということでもあるのです。

なぜ、点検で継手に注目するのか

ここからが、点検の話です。橋の点検で継手が重点的に見られるのには、明確な理由があります。疲労です。

疲労とは、繰り返しかかる力によって、材料に少しずつ亀裂が育っていく現象です。橋の上を車が通るたび、部材はごくわずかにたわみ、応力を受けます。一回一回は壊れるほどの力ではなくても、それが何百万回、何千万回と積み重なると、やがて亀裂が生まれる。

そして疲労亀裂は、どこにでも均等に生じるわけではありません。応力が集中する場所——つまり、形が急に変わる場所から始まります。溶接の止端部、未溶着部の先端、部材が取り合う隅角部。継手は、まさにその条件を備えた場所なのです。

このことは、疲労強度等級という形で体系化されています。継手をその形式ごとに分類し、疲労に対する強さをA、B、C……と等級づけたもので、Aがもっとも強く、アルファベットが進むほど弱くなります。せん断応力を受ける継手にはS等級が用意されています。

注目すべきは、溶接のない母材が最上位のA等級付近に位置するのに対し、溶接継手の多くはD等級より下に並ぶことです。つまり、溶接して部材をつないだ時点で、その場所は母材よりも疲労に弱くなっている。継手とは、構造上どうしても必要でありながら、同時に疲労の弱点を作り込む行為でもあるのです。

さらに、実務では「良好な溶接品質が確保しにくい継手」や「経験的に疲労損傷が生じやすいとされている継手」が具体的に整理されています。新しく橋を造るときはこれらの形式を避けること、そして既設の橋を点検するときは、そうした箇所に疲労亀裂が生じていないか特に注意して見ることが求められます。

【鋼橋の点検・補修・補強|鋼材の損傷の種類と防食・補強の方法】 https://hashiwatashi.com/steel-bridge-maintenance/

見つけるための技術

では、その疲労亀裂をどうやって見つけるのか。ここで、非破壊検査の出番になります。

溶接部の表面に開いた亀裂なら、浸透探傷試験が色であぶり出します。表面と、そのすぐ下に潜む亀裂なら、磁粉探傷試験が磁気で描き出します。そして溶接部の内部に隠れた欠陥は、超音波探傷試験が音で聴き取ります。

【非破壊検査とは?|壊さずに橋の中を診る11の方法を解説】 https://hashiwatashi.com/non-destructive-testing/

継手の構造を知っていると、これらの検査をどこに当てるべきかが見えてきます。この継手は完全溶込みか、部分溶込みか。未溶着部はどこにあるか。止端はどの向きか。図面の溶接記号を読み、現場でその形を確かめ、応力の向きを想像する——点検とは、そういう作業でもあります。

【超音波探傷試験(UT)とは?|音のエコーで鋼の中の亀裂を見つけるしくみを解説】 https://hashiwatashi.com/ultrasonic-testing/

まとめ

この記事では、鋼橋の溶接継手を解説しました。

鋼部材をつなぐ溶接には、開先という溝を設けて行う開先溶接(完全溶込みと部分溶込み)と、直交する面を三角形状につなぐすみ肉溶接があります。プラグ溶接とスロット溶接は、現在では主要部材に原則使用されません。継手の形は突合せ・T/十字・重ねに分かれ、形によって使える溶接が決まります。そして決定的に重要なのが、引っ張る力を正面から受け止められるのは完全溶込み溶接だけだという点。部分溶込みやすみ肉溶接には未溶着部が残り、それが内部の切れ込みとして働くからです。

継手は、橋を成り立たせるために不可欠でありながら、疲労という観点では母材より弱い場所を作り出します。だから点検では、そこを重点的に見る。溶接記号を読み、開先の形を思い描き、力の向きを想像しながら、亀裂の芽を探す。鋼橋の点検が構造の理解を必要とするのは、こうした理由によります。橋のつなぎ目には、造った人の判断と、それを引き継ぐ人の責任が、同時に宿っているのです。

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