鋼橋のボルト継手とは?|摩擦接合のしくみと高力ボルトの見分け方を解説

鋼橋のボルト継手とは? 橋梁

橋の下からトラスや桁を見上げると、無数のボルトが規則正しく並んでいるのが見えます。あの一本一本が、部材と部材をつなぎ止めている——多くの人はそう思うでしょう。

ところが、話はもう少し込み入っています。橋でもっとも多く使われている接合方法では、ボルトは実のところ、力を直接伝えてはいません。ボルトがしているのは、板と板をひたすら締め付けること。力を運んでいるのは、その締め付けによって生まれた摩擦なのです。ここでは、高力ボルトの三つの接合方法から、摩擦接合というしくみの妙、現場での見分け方、そして点検で見るべき点までを解説します。

高力ボルトとは

まず、道具の話から。橋に使われるボルトは、高力ボルト(こうりきボルト)と呼ばれます。高張力鋼で作られた、高い強度を持つボルトのことです。

ホームセンターで売っている一般のボルトとは、役目からして違います。一般のボルトは、部品を「留める」ためのもの。高力ボルトは、部材を「締め付ける」ためのものです。この違いが、次に見る摩擦接合の原理につながっていきます。

なお、鋼部材をつなぐもう一つの主要な方法が、溶接継手です。こちらは別の記事で扱っています。

【鋼橋の溶接継手とは?|開先溶接とすみ肉溶接のしくみと疲労の急所を解説】 https://hashiwatashi.com/welded-joints/

三つの接合方法

高力ボルトによる接合には、力の伝え方によって三つの方法があります。

接合方法力の伝え方
摩擦接合母板と連結板を締め付け、それらの間に生じる摩擦力によって応力を伝える
支圧接合ボルトの軸部と、母板・連結板の孔壁との間の支圧によって応力を伝える
引張接合ボルトの軸方向の引張力によって力を伝えるほか、締め付けた接触面の圧力を介して応力を伝える

このうち、道路橋でもっとも広く用いられているのが摩擦接合です。そして、この方法のしくみこそ、ボルト継手を理解する鍵になります。

摩擦接合のからくり——ボルトは力を伝えていない

板と板を重ね、穴を開け、ボルトを通してナットで締める。この状態で板を左右に引っ張ったら、何が起きるでしょうか。

直感的には、板がずれようとして、ボルトの軸に力がかかる——と考えたくなります。しかし摩擦接合では、そうはなりません。

強く締め付けられた二枚の板のあいだには、大きな圧力が働いています。この圧力があるため、板と板は簡単には滑りません。両手で紙を強く挟んで引っ張ってみると、紙は抜けずについてくる。あれと同じ原理です。板を引っ張る力は、この摩擦を通じて向こう側の板へと渡っていきます。ボルトの軸には、ほとんど力がかかりません。

つまり、摩擦接合におけるボルトの仕事は、力を受け止めることではなく、板を押さえつけることなのです。ボルトは力の通り道ではなく、通り道を作るための装置。この理解が、実務での判断を大きく左右します。

だから、接触面が命になる

摩擦が力を伝えるということは、摩擦の大きさが継手の性能を決めるということです。ここから、二つの管理項目が導かれます。

一つめが、締め付けの確実さです。ボルトには、設計で定められた軸力——設計ボルト軸力を導入する必要があります。締め付けが足りなければ、板を押さえる力が不足し、摩擦も不足する。だから施工では、締め付けを確実に行うことが厳しく求められます。

二つめが、接触面の状態です。板と板が触れ合う面が滑らかすぎては、摩擦は生まれません。この摩擦の生じやすさを表す数値を、すべり係数といいます。接触面を塗装しない黒皮を除去した素地であれば0.40、無機ジンクリッチペイントを塗装した面であれば0.45といった値が用いられます。塗ったほうが摩擦が大きいというのは意外に思えますが、無機ジンクリッチペイントの塗膜はざらついた性状を持ち、かえって滑りにくいのです。

接触面の平坦性や、素地の性状が重要である——基準にそう書かれているのは、こうした理由によります。摩擦接合とは、板と板の触れ合い方そのものを設計する技術なのです。

支圧接合と引張接合

残る二つも見ておきましょう。

支圧接合は、ボルトの軸部が、板に開けられた孔の壁を押す——その支圧によって力を伝える方法です。こちらはイメージどおり、ボルト自身が力を受け止めます。ただし条件があります。孔とボルトのあいだに隙間があってはならないのです。隙間があれば、板がその分だけずれてから初めてボルトに当たることになり、そのずれが構造にとって許されません。施工には、隙間を作らない精度が求められます。

引張接合は、ボルトの軸方向の引張力によって力を伝えるほか、ボルトで締め付けた継手接触面の圧力を介して応力を伝える方法です。部材を引き離そうとする力に対して、ボルトが伸びまいと踏ん張ることで抵抗します。

リベット継手——古い橋に残る技術

現在の新設橋では使われませんが、古い橋を点検するときに必ず出会うのが、リベット継手です。

赤熱したリベットを孔に差し込み、頭を叩いて潰して固定する。冷えて収縮する際に板を締め付けるという、力強い技術です。力の伝え方は、リベットの軸部と孔壁との支圧によるもので、高力ボルトの支圧接合と原理は同じです。

昭和の初期から中期にかけて架けられた鋼橋の多くは、このリベットで組まれています。橋の年代を語る、生きた証拠でもあります。

現場での見分け方

さて、実務的にもっとも役立つ話をします。橋を見上げたとき、その継手が何なのかを、どう見分けるかです。

種類外観の特徴
高力六角ボルト両側にナットとボルト頭。ボルト頭が六角形。座金は2枚
トルシア形高力ボルト片側のみナット。反対側のボルト頭は丸い。座金は1枚
リベット両側とも丸い。ナットがない

ポイントは二つあります。ナットがあるかどうかと、頭の形が六角か丸いか。

高力六角ボルトは、JIS B 1186に基づくボルトで、ボルト1本・ナット1個・座金2枚を1セットとして用いられます。道路橋示方書ではF8TとF10Tが規定されています。

トルシア形高力ボルトは、ボルト頭部が丸く、ボルト1本・ナット1個・座金1個を1セットとします。頭部側には座金を使いません。道路橋示方書ではS10Tが規定されています。

そしてリベットは、両側とも丸い。ナットが存在しないのが決定的な違いです。

橋の下から見上げて、両側とも丸ければリベットの時代の橋。片側だけ丸ければトルシア形。両側に六角のナットが並んでいれば高力六角ボルト——そうやって、その橋がどの時代の技術で組まれたかを読むことができます。

刻印を読む

もう一つ、面白い見分け方があります。ボルトの頭に刻まれた記号です。

F10T、F8T、S10T。これらは、ただの型番ではありません。Fは摩擦を意味するFriction、Sは構造を意味するStructuralの頭文字とされています。数字の10は引張強さが1000N/平方ミリメートルであることを示し、末尾のTは引張強さを表すTensile Strengthに由来します。

つまりF10Tとは、「摩擦接合用の、引張強さ1000N/平方ミリメートル級のボルト」という意味になります。頭に刻まれたわずか数文字が、そのボルトの素性を語っているのです。

トルシア形の工夫——ピンテールが折れる意味

トルシア形高力ボルトには、締め付けを確実にするための巧妙な仕掛けがあります。

このボルトの先端には、ピンテールと呼ばれる突起が付いています。締め付けるとき、専用の工具はこのピンテールをつかんで反力を取り、ナット側にトルクを加えて回します。そして、必要なトルクが入った瞬間、ピンテールがせん断破断して、ぽろりと落ちる。

これが何を意味するか。ピンテールが折れていれば、規定の軸力が導入されたと分かるのです。締め付けの結果が、目に見える形で残る。摩擦接合にとって生命線である軸力の管理を、道具の設計だけで担保してしまう——実によく考えられた工夫です。

点検で見るべきこと

最後に、点検の視点です。ボルト継手で確認すべきことは、いくつかあります。

まず、ボルトの脱落や破断。あるべき場所にボルトがない、あるいは頭が失われている状態は、直ちに問題となります。次に、ゆるみ。締め付けの軸力が失われれば、摩擦接合はその原理から破綻します。そして、腐食。ボルトや接合部にたまった水と汚れが、着実にボルトを痩せさせていきます。

そして、古い橋でとくに注意すべきなのが、遅れ破壊です。

これは、静的な引張応力を受け続けた高強度の鋼材が、ある時間を経て、外見上ほとんど変形を伴わずに突然もろく破壊する現象です。繰り返しの力による疲労とは違い、じっと力がかかっているだけで起こるため、静的疲労破壊とも呼ばれます。鋼中に侵入した水素が、ねじ部や腐食による小さな窪みといった応力集中部に集まることで生じる、水素脆化がその主因と考えられています。

歴史があります。かつて、より高強度のF13T、F11Tといった高力ボルトが橋に導入された時期がありました。しかし実際の橋でF13Tに遅れ破壊が生じ、1975年ごろからはF11Tにも同様の破断が現れます。これを受けて、1980年の道路橋示方書からは、これらの高強度ボルトは採用されなくなりました。現在使われているF10T級では、遅れ破壊は発生していません。

問題は、それ以前に架けられた橋です。昭和40年代後半から50年代初頭に架設された鋼橋には、F11Tが使われているものがあります。そうした橋では、ボルトの点検や取替え、落下防止といった対策が順次進められています。ボルト頭の刻印を読むという行為が、単なる知識ではなく、リスクの見きわめに直結する場面があるのです。

【鋼橋の点検・補修・補強|鋼材の損傷の種類と防食・補強の方法】 https://hashiwatashi.com/steel-bridge-maintenance/

まとめ

この記事では、鋼橋のボルト継手を解説しました。

高力ボルトによる接合には、摩擦接合・支圧接合・引張接合の三つがあります。もっとも広く使われる摩擦接合では、ボルトは力を伝えるのではなく、板を締め付けて摩擦を生み出す役目を担います。だからこそ、設計軸力の確実な導入と、接触面の性状の管理が、継手の性能を決めるのです。現場では、ナットの有無と頭の形で、高力六角ボルト・トルシア形・リベットを見分けられます。トルシア形のピンテールが折れているのは、必要な軸力が入った証。そして古い橋では、F11Tの遅れ破壊という、時代が残した課題が今も点検の対象になっています。

橋を見上げたとき、そこに並ぶボルトの一本一本には、締め付けた人の手つきと、その時代の技術基準が刻まれています。頭が丸いか、六角か。刻印は何か。ピンテールは折れているか。読み取れる情報は、思っているよりずっと多いのです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました