橋の排水装置とは?|雨水を流し、橋を腐食から守るしくみを解説

橋梁

雨の日、橋の上に降った水はどこへ行くのでしょうか。路面を流れ、いつの間にか見えなくなっている——ふだん、そんなことを気にする人はまずいません。

しかし、もしその水が橋の上にとどまり続けたら。あるいは行き場を失って、橋の内部を伝い落ちていったら。橋にとって、水は最大級の敵です。だから橋には、水をすみやかに追い出すためのしくみが組み込まれています。排水装置です。ここでは、その二つの目的から、構成する部材の名前と働き、橋が動くことへの巧妙な配慮、そして点検で見るべき点までを解説します。

排水装置とは——二つの目的

排水装置とは、路面における雨水などの滞水をすみやかに排水するために取り付けられるものです。その目的は、二つに分けて考えると理解しやすくなります。

一つめは、道路としての機能を守ること。路面に水がたまれば、走る車は水はねを起こし、高速では車輪が水膜に乗って滑る危険も生じます。冬なら、たまった水が凍って路面を滑らかにします。

二つめが、橋そのものを守ることです。滞水は、ひいては橋梁の耐久性を損なう腐食の原因になります。橋を管理する立場からすれば、実はこちらのほうが切実な目的です。水を流すための装置というより、橋を長生きさせるための装置。そう捉えたほうが、排水装置の本質に近いと思います。

水は、なぜ橋を傷めるのか

水そのものが橋を壊すわけではありません。水は、劣化を運び、進めるものです。

鋼材は、水と酸素があれば錆びます。塗装はそれを防ぐ膜ですが、水がとどまり続ければ、膜のわずかな傷から錆は始まります。コンクリートにとっても水は劣化因子の通り道で、鉄筋まで届けば内部から腐食が進みます。

そして、水は運び屋でもあります。冬季に路面へまかれる凍結防止剤の主成分は塩化ナトリウム。その塩化物イオンは、鋼材の腐食を強く促進します。海からの飛来塩分も同じです。塩は自分で歩けませんが、水があれば橋のどこへでも運ばれていく。凍結防止剤を含んだ橋面の水が適切に排水されないと、桁などに直接影響する深刻な損傷が生じることは、実際の点検結果からも指摘されています。

さらに厄介なのは、水が低いところ、狭いところに集まる性質です。桁の端部、支承のまわり、下フランジの上面。点検で腐食が目立つのは、決まってそういう場所です。

【鋼橋の点検・補修・補強|鋼材の損傷の種類と防食・補強の方法】 https://hashiwatashi.com/steel-bridge-maintenance/

排水装置を構成する部材

では、水はどのような経路をたどって橋の外へ出ていくのでしょうか。部材の名前とともに整理します。

部材役割
排水ます路面の水を集めて取り込む入口。格子状の蓋が付く
排水管(横管)桁の下を水平方向に通し、水を運ぶ管
ベント管排水管の屈曲部に設ける、角度のついた管。清掃用の蓋付きのタイプもある
排水管伸縮継手温度変化に伴う上部構造の伸縮や、交通荷重による振動などを吸収する
受ます上部構造桁の伸縮量を考慮して、上下部の縁を切るために設ける構造
排水管(縦管)橋脚や橋台に沿って、水を下へ落とす管
集水ます落ちてきた水を地上で受け止める
取付管集水ますから、既設の排水施設へつなぐ管

水の旅路は、こうなります。路面を流れた雨水が、排水ますの格子から橋の中へ入る。桁下の横管を通って運ばれ、受ますで受け渡され、縦管を伝って地上へ落ちる。集水ますで受け止められ、取付管を経て、道路の排水施設へと合流していく。

橋の下からしか見えないこの配管が、路面の水を一手に引き受けているわけです。

橋が動くことへの配慮

ここに、排水装置ならではの工夫が隠れています。橋は、動く構造物だという事実への対応です。

橋桁は、夏の暑さで伸び、冬の寒さで縮みます。車が通れば、たわみ、振動します。上部構造は、常に微妙に動いている。ところが排水管は、その動く上部構造と、動かない下部構造の両方にまたがって取り付けられます。何の工夫もなければ、管は引っ張られ、押され、やがて壊れてしまいます。

そこで、三つの手が打たれています。

一つめが、受ますです。これは上下の管を直結せず、あいだに縁を切るための構造を挟むというもの。上部構造側から落ちてきた水を、少し離れた位置で受け止める。物理的につながっていないので、桁がどれだけ伸び縮みしても、下の管には力が伝わりません。

二つめが、排水管伸縮継手です。管の途中に、伸び縮みを吸収できる継手を組み込みます。温度変化による伸縮も、交通による振動も、ここで逃がします。

三つめが、可動部にゴム管を使う方法です。金属の管では追随できない動きを、柔らかいゴムがしなやかに受け止めます。

橋が動くなら、配管もまた動けるようにしておく。この考え方は、伸縮装置や支承と共通する、橋という構造物の設計思想そのものです。

【伸縮装置とは?橋の伸び縮みを受け止めるしくみ】 https://hashiwatashi.com/bridge-expansion-joint/

流末処理——水をどこへ返すか

排水装置には、終点もあります。集められた水を最終的にどこへ流すか、という流末処理です。

ここが適切でないと、別の問題が生まれます。橋の下に水が垂れ流されれば、橋台まわりの土が洗われ、法面が侵食されます。橋脚の足元に水が集中すれば、コンクリートの劣化を招くこともあります。また、下が道路や民地であれば、そこへ水を落とすわけにはいきません。

橋の上から水を追い出すことと、その水を安全に返すこと。排水装置の設計は、その両方を引き受けています。

点検で見るべきこと

排水装置は、定期点検の対象部材です。損傷の種類としては、腐食、防食機能の劣化、変形・欠損、漏水・滞水、そして土砂詰まりが挙げられます。

なかでも注意が必要なのが、土砂詰まりです。落ち葉、砂、ほこり、ごみ。橋面のあらゆるものが、水と一緒に排水ますへ流れ込みます。そして排水管の中で、それらが堆積していく。

とくに詰まりやすいのが、ベント管の屈曲部です。水は曲がれても、土砂は曲がりきれずにそこへ溜まる。実務の資料でも、屈曲部には土砂詰まりが生じやすく、点検時には特に注意する必要があると明記されています。清掃用の蓋が付いたベント管があるのは、まさにここを掃除するためです。

そして、排水ますそのものが詰まることもあります。土砂が堆積して排水機能が失われ、路面の水があふれ出す。入口でつまずけば、その先の配管がどれだけ健全でも意味がありません。

構造的な損傷も見逃せません。排水管が腐食して脱落している、継手が外れている、支持金具のボルトがゆるんでいる。管が途中で切れていれば、そこから水が漏れ、真下の部材を集中的に濡らし続けることになります。

排水の不良が招く連鎖

排水装置の点検が重要なのは、その不具合が単独では終わらないからです。

たとえば、こういう連鎖が起こります。排水ますが詰まり、路面に水がたまる。行き場を失った水は、伸縮装置の隙間から桁下へ漏れる。そして桁の端部を伝い、支承のまわりに滞留する。冬なら、その水は塩化物を含んでいます。数年後、桁端部と支承が著しく腐食している——という結末です。

実際、道路橋の損傷は、伸縮装置からの漏水による桁端部や、橋面水の影響を受けやすい外桁で多く発生することが、全国の点検結果から明らかになっています。国の定期点検要領でも、鋼桁橋の着目箇所として桁端部と排水装置の近傍が挙げられ、排水管からの漏水によって滞水が生じたり著しく腐食していることがある、と注意が促されています。

だから、点検で排水装置を見るときは、二つの目が要ります。一つは、水の通り道そのものが健全かを確かめる目。もう一つは、水が通ってはいけない場所に、水の跡がないかを探す目です。錆の垂れた跡、白く析出した遊離石灰、いつも湿っている面。それらは、どこかで排水が失敗している証拠かもしれません。

この連鎖を断つために、近年は上流側での対策も進んでいます。そもそも桁下へ水を落とさない非排水型の伸縮装置を採用したり、桁の端部に専用の排水装置を設けて、漏れてきた水を受け止めて外へ導いたりする方法です。ただし、非排水型の止水材も、経年で剥離したり割れたりすれば漏れます。歩道部と車道部の境目のように、装置が連続していない箇所から漏水に至る事例もあります。結局のところ、どんな工夫を凝らしても、水が想定どおりに流れているかを確かめる目は欠かせません。

【支承とは?橋を支え、動きを受け止める重要部材】 https://hashiwatashi.com/bridge-bearing/

掃除という維持管理

排水装置には、他の部材にはない特徴があります。清掃という、ごく単純な行為が、そのまま維持管理になるということです。

排水ますの落ち葉をすくう。ベント管の蓋を開けて、溜まった土砂をかき出す。特別な技術も、高価な材料も要りません。しかし、この地味な作業を続けているかどうかで、橋の桁端部が10年後にどうなっているかが変わります。

補修や補強といった言葉に比べて、清掃はあまりに目立ちません。それでも、水を流し続けるという当たり前を守ることが、橋にとっては最も費用対効果の高い予防保全のひとつなのです。

【橋の点検とは?上部・下部構造の着目点と点検の進め方を解説】 https://hashiwatashi.com/bridge-inspection-basics/

まとめ

この記事では、橋の排水装置を解説しました。

排水装置は、路面の滞水をすみやかに流し去るための設備です。目的は、道路としての機能を守ることと、滞水がもたらす腐食から橋そのものを守ること。排水ますから入った水は、横管、ベント管、受ます、縦管、集水ますを経て、道路の排水施設へと返っていきます。橋が伸び縮みし振動する構造物である以上、受ますで縁を切り、伸縮継手で吸収し、可動部にはゴム管を使うという配慮が組み込まれています。

そして点検では、土砂詰まり、腐食、脱落、漏水を見る。とくにベント管の屈曲部は要注意です。排水の不良は、伸縮装置からの漏水、桁端部と支承の腐食へと連鎖していきます。

橋の下を通るとき、頭上に走る一本の管に目をやってみてください。地味で、細く、誰にも気づかれない配管です。しかしあの管が水を運び続けているかどうかが、その橋があと何十年もつかを、静かに左右しているのです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました