橋の防護柵とは?|たわみ性と剛性の違い、橋への定着と点検の視点を解説

橋の防護柵とは? 橋梁

橋を車で渡るとき、窓のすぐ外を流れていく柵。歩いて渡るなら、手すりの向こうに広がる川や谷。あの柵がなければ、橋の上はずいぶん心細い場所になるはずです。

防護柵は、橋そのものを支えている部材ではありません。桁でも、支承でも、床版でもない。それでも、橋の上で人と車の安全を最後に受け止めているのは、この柵です。そして点検の立場から見ると、防護柵にはもう一つの顔があります。車がぶつかった衝撃を、橋本体へ伝える通り道でもある、という顔です。ここでは、防護柵の役割から、二つの区分、たわみ性と剛性という正反対の思想、橋への定着方式、そして点検で見るべき二重の視点までを解説します。

防護柵とは——三つの役割

防護柵は、進行方向を誤った車両の路外逸脱の防止、乗員傷害の最小限化、車両の進行方向の復元などによって、交通事故の防止を図るための重要な施設です。

三つの役割が並んでいることに、注目してください。

一つめは、車を道路の外へ出さないこと。橋の上でこれに失敗すれば、車は川や谷、あるいは下の道路へ落ちていきます。

二つめは、乗っている人の傷害を最小限にすること。ただ止めればよいわけではありません。硬い壁に正面から激突すれば、車は止まっても、中の人は無事では済みません。衝撃をどう和らげるかまでが、防護柵の設計に含まれています。

三つめが、車両の進行方向を復元すること。ぶつかった車を、道路の流れの向きへ戻してやる。跳ね返して対向車線へ押し出したり、その場で回転させたりしては、二次的な事故を招くからです。

止める、守る、戻す。この三つを同時に成立させることが、防護柵に課された仕事です。

二つの区分——車両用と、歩行者自転車用

防護柵は、大きく二つに区分されます。車両を対象とする車両用防護柵と、歩行者などを対象とする歩行者自転車用柵です。

見た目が似ていることもあり、混同されがちですが、両者の性格はまったく違います。歩行者自転車用柵は、歩行者や自転車の転落防止、みだりな横断の抑制を目的としたもので、車両の衝突に対する安全を確保するものではありません。だから、車両用防護柵よりも低い強度設定がなされています。

この違いは、橋の上での配置に直結します。車道部に接する地覆には、原則として車両用防護柵を設置し、車両が橋の外へ転落するのを防ぐ。一方、歩道側の縁には、歩行者等の転落を防ぐ柵を置く。歩車道の境界では、状況に応じて、転落防止機能を兼ね備えた車両用防護柵が使われることもあります。

橋の上で二種類の柵が並んで立っているとき、そこには「どこに車が来るか」という判断が反映されているわけです。

たわみ性と剛性——正反対の思想

車両用防護柵には、構造の考え方によって二つの系統があります。

種類考え方主な形
たわみ性防護柵部材の弾性・塑性変形を見込み、車両と防護柵の双方が変形することで衝撃を和らげる橋梁用ビーム型防護柵、ガードレール、ガードパイプ、ガードケーブル、ボックスビーム
剛性防護柵ほとんど変形せず、車両を受け止めて進行方向へ戻す直壁型(コンクリート製)

同じ目的に、正反対のやり方で挑んでいるのが面白いところです。

たわみ性防護柵は、あえて曲がることを設計に織り込みます。柵がたわみ、車体もつぶれる。両方が変形するあいだに、衝突のエネルギーが吸収されていく。緩衝性に優れる一方、変形するぶん、柵の背後に余裕がなければなりません。

剛性防護柵は、その逆です。コンクリートの壁がほとんど変形せずに車を受け止め、その面に沿って進行方向へ滑らせて戻す。車両を逸脱させない性能が高いため、高速道路や立体交差、路外との高低差が大きい箇所など、外へ出たときの被害が甚大になる場所に用いられます。

橋の上でどちらを選ぶかは、下に何があるか、どれだけの速度で車が走るかによって決まります。

ここで、橋ならではの事情にも触れておきます。一般の道路では、ガードレールの支柱は地面に打ち込まれています。土そのものが支柱を支え、車がぶつかれば土が少し動いて衝撃を逃がす。ところが橋の上には、打ち込むべき土がありません。支柱は、地覆というコンクリートの縁石状の部分に固定するほかないのです。

橋梁用ビーム型防護柵という専用の形式が用意されているのは、このためです。同じガードレールに見えても、橋の上の柵と道路の柵とでは、支え方の前提がまったく違います。土に頼れないぶん、力はすべて橋の構造物が受け止めることになります。

種別という考え方

もう一つ、防護柵には種別という重要な概念があります。

車両用防護柵は、強度——車両が衝突したときに突破されない衝撃度の大きさと、設置場所に応じて種別が定められています。路側に設置するものはC、B、A、SC、SB、SA、SSといった記号で表され、後ろへいくほど強い。分離帯用にはmを、歩車道境界用にはpを付した種別が用意されています。

歩行者自転車用柵は、原則として種別Pを適用します。ただし、橋梁や高架の区間に設置される転落防止を目的とした柵については、歩行者が集団で寄りかかることを想定した荷重で設計されます。橋の上は、人が立ち止まって景色を眺める場所でもあるからです。

橋への定着——衝撃はどこへ流れるか

さて、ここからが橋の話です。防護柵は、橋の上にどうやって固定されているのでしょうか。

たわみ性防護柵の場合、橋梁への取付け部には、埋め込み式と、アンカーボルトなどで固定するベースプレート方式が用いられます。剛性防護柵は、構造物中の鉄筋やアンカーなどを利用して定着・結合する方式が用いられることが多くなります。

図にすると、三つの型に整理できます。

定着方式しくみ
埋込方式支柱を地覆などのコンクリートに直接埋め込み、周囲を補強鉄筋で固める
アンカー方式ベースプレートを介し、アンカーボルトでコンクリートに締結する
鉄筋定着方式防護柵側の鉄筋を、構造物側の鉄筋と定着・結合して一体化する

いずれの図にも、衝突荷重が矢印で描き込まれています。これが、この節でいちばん大切な点です。

車が防護柵にぶつかったとき、その力は柵で終わりません。支柱を通り、定着部を通り、地覆へ、そして床版へと流れ込みます。防護柵は付属物でありながら、橋本体と力学的につながっている。だからこそ、定着部の設計は、柵の性能を決めると同時に、橋を傷めないための工夫でもあるのです。

点検の二重の視点

こうした構造を踏まえると、点検で何を見るべきかが見えてきます。

橋の点検では、安全施設としての性能状態に加えて、橋梁本体に損傷が生じていないことについても確認が必要です。つまり、二重の視点が要ります。

一つめの視点は、防護柵そのものが機能するか。腐食していないか、支柱やビームが変形・欠損していないか、ボルトにゆるみや脱落はないか、破断はないか。事故で一部が壊れたまま放置されていないか。防護柵は、次にぶつかる車のために、常に本来の強度を保っていなければなりません。

二つめの視点が、橋本体です。支柱の根元まわりの地覆に、ひび割れや剥離が生じていないか。アンカーボルトのまわりからコンクリートが欠けていないか。過去の衝突によって、定着部が損傷している可能性はないか。柵の外観は健全でも、その足元で橋が傷んでいることがあります。

そしてもう一つ、腐食との関係も見逃せません。支柱の基部やベースプレートのまわりは、水と土砂がたまりやすい場所です。滞水した水は、支柱を根元から腐食させ、同時にコンクリートの地覆をも劣化させます。排水がうまくいっているかどうかは、防護柵の寿命にも直結しているのです。

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【鋼橋の点検・補修・補強|鋼材の損傷の種類と防食・補強の方法】 https://hashiwatashi.com/steel-bridge-maintenance/

第三者被害という視点

防護柵の点検には、もう一つの重みがあります。第三者被害の防止です。

橋の主桁が少し傷んでいても、それが直ちに人の命に関わるとは限りません。しかし防護柵は違います。壊れた柵は、その瞬間から本来の性能を失っており、次の事故で車を止められないかもしれない。高い橋の上であれば、その差は決定的です。

また、部材の一部が落下すれば、橋の下を通る人や車に直接の被害が及びます。橋の上に取り付けられているものは、すべて落下の可能性を抱えた部材でもあるのです。

だから防護柵は、付属物でありながら、点検で軽く扱ってよい部材ではありません。橋を渡る人にとって、いちばん近くにある安全装置なのですから。

【橋の点検とは?上部・下部構造の着目点と点検の進め方を解説】 https://hashiwatashi.com/bridge-inspection-basics/

まとめ

この記事では、橋の防護柵を解説しました。

防護柵は、車両の路外逸脱を防ぎ、乗員の傷害を最小限にし、進行方向を復元するための施設です。車両用防護柵と歩行者自転車用柵に区分され、後者は車両の衝突を想定していないという決定的な違いがあります。車両用防護柵には、変形して衝撃を吸収するたわみ性と、変形せず車両を戻す剛性という正反対の思想があり、衝撃度と設置場所に応じた種別が定められています。橋への定着には埋込方式、アンカー方式、鉄筋定着方式があり、いずれも衝突荷重が定着部を通じて橋本体へ流れることを前提に設計されています。

だから点検では、柵が安全施設として機能するかと、その足元で橋が傷んでいないかを、同時に見ます。

橋の縁に立つ一本の支柱は、そこを通る人と車のために立っています。同時にそれは、橋という構造物へつながる力の通り道でもある。付属物という呼び名は、その重みを少し軽く見せてしまうのかもしれません。

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