橋の標識とは?|4つの設置形式と、弱点部を狙って診る点検の考え方を解説

橋の標識とは? 橋梁

橋を渡りながら、標識を見ない人はいません。この先の行き先、カーブの警告、速度の制限。運転者は無意識のうちに、それらを読み取りながらハンドルを握っています。

しかし、その標識がどうやって橋に取り付けられているかを考える人は、まずいないでしょう。板は宙に浮いているわけではありません。柱があり、腕があり、その根元は橋のコンクリートに固定されています。そして標識は、橋の上でもっとも落ちてはいけない部材のひとつでもあります。ここでは、標識の種類と設置形式から、橋への取付け方、そして「弱点部を先に決めておく」という点検の考え方までを解説します。

標識の種類——案内し、警戒させる

道路標識は、案内標識、警戒標識、規制標識、指示標識の四種類に大別され、これらを補う補助標識が添えられます。

このうち橋の上でよく見かけるのが、案内標識と警戒標識です。案内標識は、目的地や通過地の方向、距離、道路上の位置を示し、目的地までの経路を案内するもの。警戒標識は、道路上で警戒すべきことや危険を知らせるものです。橋という場所は、道路の分岐や合流の手前にあることも多く、また線形が変化する地点でもあるため、これらの標識が取り付けられている例は少なくありません。

四つの設置形式

標識を道路上に据える形には、主に四つのタイプがあります。

形式構造
門形式道路をまたぐように支柱を立て、横梁を渡して標識板を吊る。オーバーヘッド式とも呼ばれる
路側式道路の脇に単独の柱を立て、その上部に標識板を取り付ける
片持式路側に立てた支柱から車道側へ腕を張り出す。逆L型とF型がある
添架式横断歩道橋や既存の構造物に、標識板を直接添えて取り付ける

門形式は、複数車線にまたがって大きな案内板を掲げるときに用いられます。片持式は、逆L型が一本の腕を伸ばした形、F型が二段に腕を持つ形です。路側式は、もっとも単純で数の多い形。そして添架式は、専用の柱を立てずに、すでにある構造物を借りる方法です。

規模も、重さも、受ける風の大きさも、形式によって大きく変わります。

橋への取付け——新設と既設の違い

これらを橋にどう固定するのでしょうか。ここに、新設と既設で明確な違いがあります。

新設の橋梁の場合は、アンカーを埋め込む方法が多くなります。コンクリートを打つ前に、あらかじめアンカーを所定の位置にセットしておき、コンクリートで包み込んでしまう。設計の段階から取付けを織り込んでいるので、位置も、耐力も、確実です。

一方、既設の橋梁に取り付ける場合は、あと施工アンカーによる取付けが多くなります。すでに固まっているコンクリートに穴をあけ、そこへ後からアンカーを差し込んで定着させる方法です。

この違いは、小さくありません。あと施工アンカーは、穴の深さや清掃の状態、接着剤の充填、硬化の管理といった施工の丁寧さが、そのまま定着の強さを左右します。また、既設コンクリートの内部には鉄筋が通っており、穴をあける位置を誤れば鉄筋を傷めてしまいます。橋を造ったときには想定されていなかったものを、後から付け足す——その難しさが、あと施工という言葉には含まれています。

橋に何かを取り付けるという行為の重みについては、防護柵の記事でも触れました。

【橋の防護柵とは?|たわみ性と剛性の違い、橋への定着と点検の視点を解説】 https://hashiwatashi.com/bridge-guard-fence/

図が語っていること——弱点部という考え方

さて、標識の構造図を見ると、あることに気づきます。引き出し線が指しているのは、部材の名前ではなく、ほとんどが「損傷が生じる場所」なのです。

横梁仕口溶接部。電気設備用開口部。支柱継手部。標識板取付部(重ね貼りのビスを含む)。柱・基礎境界部。路面境界部。これらは構造の説明というより、点検で見るべき箇所の一覧です。

これは偶然ではありません。附属物の点検要領には、明確な考え方が示されています。これまでの不具合事例と構造の特徴を考慮して、変状の弱点部となる箇所をあらかじめ特定し、少なくともその箇所の変状は確実に把握する——という方針です。

つまり、闇雲に全体を見るのではなく、壊れる場所を先に決めておく。過去の事故が教えてくれた急所を、点検の項目として固定してしまう。橋本体の点検とはやや異なる、附属物ならではの合理的なやり方です。

共通する弱点部として挙げられているのは、支柱の溶接部・取付部・分岐部・継手部・開口部・ボルト部・支柱内部・路面等の境界部、横梁の溶接部・取付部・分岐部・継手部、標識板や灯具の取付部、ブラケット取付部などです。

そして資料も、橋梁上や風の強い地区に設置された柱の基部や開口部、横ばりの基部で損傷している事例があることから、点検時にはそのような部位に特に注意する必要があると述べています。

電気設備用開口部——構造の弱点であり、水の入口

弱点部のなかでも、とりわけ独特なのが電気設備用開口部です。

標識柱には、内部に電気配線を通すため、支柱の一部に開口が設けられます。ここには二重の問題があります。

まず、構造上の問題。開口とは、断面が欠けているということです。柱に力がかかれば、その欠けた縁に応力が集中します。しかも支柱の基部に近い位置に設けられることが多く、曲げがもっとも大きくなる場所と重なります。

次に、水の問題。開口部の蓋やパッキンが劣化すれば、そこから雨水が支柱の内部へ入ります。柱の内側は塗装の手が届きにくく、点検の目も届きません。実際、電気設備開口部は支柱内部への雨水の浸入を伴うことがあり、著しい腐食が発生している事例が報告されています。

さらに、点検用の開口部が破断して落下したという事例も記録されています。高架橋に設置され、21年が経過したものでした。開口という小さな工夫が、時間をかけて弱点へ育っていくのです。

路面境界部——突然の倒壊を招く場所

もうひとつ、必ず見るべき場所があります。柱と路面の境界部です。

土中に埋め込まれた支柱と、アスファルト舗装が接する位置。ここには水がたまり、乾きにくく、しかも外から見えるのは表面だけです。既往の事故事例から得られた知見として、路面境界部の腐食が附属物の突然の倒壊を起こすことが指摘されています。

実際の事例があります。設置から10年ほどの標識柱が、支柱基部の路面境界部の腐食によって破断し、倒壊しました。海岸から13km、最大瞬間風速19.7mの強風時のことでした。10年という年数は、橋の寿命からすればまだ若い部類です。

腐食は、見えないところで断面を減らします。そして風が吹いた日に、蓄積した弱さが一気に露呈する。橋の主構造なら、多少断面が減っても即座に落ちることはありません。しかし細い柱では、断面の減少がそのまま倒壊の距離を縮めます。

【鋼橋の点検・補修・補強|鋼材の損傷の種類と防食・補強の方法】 https://hashiwatashi.com/steel-bridge-maintenance/

標識板と、重ね貼りのビス

図に、少し変わった注記があります。標識板取付部(重ね貼りのビスを含む)という表記です。

標識の内容が変わったとき、古い板を外さずに、その上から新しい板を貼り重ねることがあります。そのときに使われるのが、重ね貼りのビスです。

このビスが、実は要注意とされています。重ね貼りのビスや簡易なリベットは、軽微な腐食に見える場合でも、隙間腐食や応力腐食割れによって急激に劣化が進み、破断に至る可能性がある——そう指摘されています。板と板が重なった隙間は、水が入って抜けない構造だからです。

標識板そのものにも、注意点があります。車両の衝突によって変形や欠損が生じている事例があり、取付部が破断していれば落下のおそれがあります。また、標識板や灯具の取付部では、ボルトやナットのゆるみ・脱落から落下に至った事例も報告されています。

ヒンジ構造で標識板を吊り下げる形式では、標識板が落下する事案が発生しており、取付部の点検にとくに注意が求められています。

橋にとっての標識

最後に、橋の側から見た標識について触れておきます。

点検要領には、興味深い但し書きがあります。道路橋、トンネル、横断歩道橋に設置されている道路照明や道路標識が、それらの本体構造の状態に影響を与えることもある——という一文です。

標識は付属物ですが、橋にとっては荷重です。門形式のような大型のものであれば、その重量と風荷重は無視できません。あと施工アンカーの周囲でコンクリートがひび割れていないか、剥離していないか。付属物の点検は、それが取り付いている橋本体の状態確認までを含みます。

そして、頭上にある以上、落ちれば人に当たります。付属物という言葉の軽さと、実際の危険度は一致していません。

【橋の照明とは?|局部照明という位置づけと、揺れる床の上に立つ柱の疲労を解説】 https://hashiwatashi.com/bridge-lighting/

【橋の点検とは?上部・下部構造の着目点と点検の進め方を解説】 https://hashiwatashi.com/bridge-inspection-basics/

まとめ

この記事では、橋の標識を解説しました。

道路標識は案内・警戒・規制・指示に大別され、橋の上では案内標識と警戒標識がよく見られます。設置形式には門形式、路側式、片持式、添架式があり、橋への取付けは新設なら埋込みアンカー、既設ならあと施工アンカーが多くなります。

そして点検には、弱点部をあらかじめ特定しておくという考え方があります。過去の不具合が教えてくれた急所——支柱の溶接部や継手部、電気設備用開口部、路面境界部、横梁の基部、標識板の取付部——を先に決め、そこを確実に見る。実際、開口部の破断による落下も、路面境界部の腐食による倒壊も、記録として残されています。

標識は、読まれるために立っています。その板を読む人の頭上で、柱は風に揺られ、根元では水と錆が静かに進んでいる。標識の点検とは、伝える機能を守ることであると同時に、伝える相手を守ることでもあるのです。

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