ブレッセル法とは?|測定セルと注射器で付着塩分を溶かし出すしくみと手順を解説

ブレッセル法とは? 橋梁

前回のガーゼ拭き取り法の記事の最後で、付着塩分の測り方には兄弟手法があると触れました。その一つが、今回の主役です。小さなセルを鋼材に貼り、注射器で水を出し入れして塩を溶かし出す——ブレッセル法、あるいはブレスル法と呼ばれる、付着塩分量の測定方法です。

ガーゼで「拭き取る」のに対し、こちらは密閉した小部屋の中で「溶かし出す」。この方式の違いが、二つの手法の得意・不得意をきれいに裏返しにしています。ここでは、ブレッセル法とは何かというしくみから、注射器を使う手順、13.08倍という換算の意味、ガーゼ法との比較、利点と欠点、そして国際規格との関係までを、基礎から解説します。

ブレッセル法とは——「溶かし出す」塩分測定

ブレッセル法とは、付着塩分量を測定しようとする部位に測定セルを張り付け、そこへ脱イオン水を注入して塩分を溶け出させ、抜き取った試料液の塩化物イオン濃度から、表面1平方メートルあたりの付着塩分量を求める測定方法です。

なぜ塩分を測るのか、という背景は、ガーゼ法の記事で詳しく述べたとおりです。塩分は塗膜の下で鋼材の腐食を進める見えない敵であり、塗装を塗り替えるとき、塗る前に塩を落とし切れたかを確かめることが、塗膜の寿命を左右します。ブレッセル法も、この「塗る前の答え合わせ」を担う検査の一つです。

【ガーゼ拭き取り塩素イオン検知管法とは?|塗替えの品質を守る塩分測定のしくみと手順を解説】 https://hashiwatashi.com/chloride-wipe-test/

違いは、塩の集め方にあります。ガーゼ法が表面を布で拭って塩を回収するのに対し、ブレッセル法は、表面に貼った小さなセルという「水槽」の中に水を満たし、その水で塩を溶かし出します。拭き取るのではなく、洗い出す。この発想の違いが、すべての個性を生みます。

測定セルという小さな水槽——ブレスルサンプラー

ブレッセル法の心臓部が、測定セル(ブレスルサンプラー)です。中央に空洞のある、粘着シールのような小さな部品で、鋼材の表面に貼り付けると、表面との間に密閉された小部屋——水を溜められる小さな水槽ができあがります。大きさは直径数cmほど。手のひらに何枚も載る、ごく小さな道具です。

このセルにはウレタン製の弾力のある部分があり、外から押すと、中の水を動かして表面をまんべんなく洗えるよう工夫されています。塩を溶かし出す反応室と、水を攪拌するポンプを兼ねた、小さいながらもよくできた仕掛けです。

セルが小さいということは、裏を返せば、ピンポイントの測定に向くということでもあります。ガーゼ法が0.25㎡という広い面をならして測るのに対し、ブレッセル法は「この溶接部の際」「この狭い隅」といった、気になる一点をねらって測れます。塩が溜まりやすい局所の状態を確かめたいとき、この小回りが生きるのです。

手順①——注射器で、水を出し入れする

ブレッセル法の採取は、注射器(シリンジ)を使うのが特徴です。書籍の手順を、意味とともに追ってみます。

まず、測定部にセルを貼り付けます。次に、注射器で脱イオン水を2ml取り、セルの中へ注入します。このとき、セルのウレタン部を指で押して、測定面が均等にぬれるようにします。水が表面の塩をまんべんなく溶かし込むための、大事なひと押しです。

しばらくして塩が水に溶け出したら、セルの中の水を注射器で吸い出し、別のポリカップへ移します。ここで終わりではありません。この「注入して、押して、抜き取る」操作を、合計3回繰り返します。同じセルの中で水を入れ替えながら塩を溶かし出し、回を重ねて回収率を高めるわけです。最後に、残った脱イオン水や、注射器を水洗いした水もカップに合わせて、試料液とします。ガーゼ法で手袋まで洗ったのと同じ、「塩を一滴も逃さない」発想がここにも生きています。

注射器で少量の水を注入し、また吸い取る——この一連の動作から、密閉したセルの中だけで塩分の抽出が完結します。表面を大きく濡らすことがないので、狭い場所や、垂直な面、頭上の面でも測りやすいのが、この方式の身軽さです。

手順②——検知管で読み、13.08倍する

集めた試料液の塩化物イオン濃度は、ガーゼ法と同じく塩素イオン検知管で読み取ります。検知管の両端をヤスリで切り、目盛りの小さいほうを下にして試料液に立て、液が上端まで浸透したら、白い変色層の先端が示す目盛りから濃度(ppm)を読みます。

そして、ブレッセル法ならではのひと計算があります。検知管で求めた塩化物イオン濃度(ppm)を13.08倍した値が、そのまま付着塩分量(mg/㎡)になる、というものです。

この13.08という数字は、どこから来るのでしょうか。付着塩分量とは、要するに「集めた塩の重さ(mg)÷ 測った面積(㎡)」です。濃度(ppmは1リットルあたりのmg)に使った水の量をかければ塩の重さが出て、それをセルの面積で割れば単位面積あたりの量になる。この「水の量 ÷ セルの面積」という、この方法で決まっている定数が、13.08倍という一手にまとめられているのです。道具立てが規格で決まっているからこそ、現場では難しい計算を省いて、かけ算ひとつで答えが出る。よくできた仕組みです。

ガーゼ法との比較——長所と短所が、裏返しの兄弟

同じ塩分測定でも、ガーゼ法とブレッセル法は、性格が見事に対照的です。並べてみましょう。

観点ガーゼ拭き取り法ブレッセル法
塩の集め方ぬらしたガーゼで拭き取るセルの中の水で溶かし出す
測る面積広い(0.25㎡)狭い(セルの面積のみ)
表面状態の影響受けやすい(多孔質塗膜は苦手)受けにくい(溶出方式のため)
道具身近な品でそろう専用の測定セルが必要
換算面積・液量・濃度から計算濃度を13.08倍するだけ

最大の対比が、表面状態への強さです。ガーゼ法は、無機ジンクリッチペイントのような水を吸い込む塗膜が苦手で、拭き取りきれずに値が低めに出る弱点がありました。ブレッセル法は、セルの中の水に塩を「溶け出させる」方式なので、測定値が表面の状態に左右されることが少ない——ガーゼ法の泣きどころを、原理からカバーしているのです。測定器具が小さく、測定や移動がスムーズに行えるのも利点です。

一方、狭い面積しか測れないことは、諸刃の剣です。局所は測れても、広い面の代表値としては情報が限られ、より正確を期すにはイオンクロマトグラフィーなどの機器分析と組み合わせる必要があります。簡易な検知管で読むと目盛りが粗く、精度低下が懸念されることもあります。

ブレッセル法の欠点——専門性と、扱いの難しさ

利点の裏で、ブレッセル法にはいくつかの実務的な難点があります。

まず、現場での測定に難しさを伴うこと。注射器で少量の水を出し入れするデリケートな操作は、ガーゼで拭くのに比べれば、手先の慣れを要します。次に、測定を終えてセルを剥がす際に、粘着剤が被塗物(塗装される対象)に残りやすいこと。塩を落とすための検査で、別の付着物を残してしまっては本末転倒ですから、丁寧な後始末が必要です。そして、測定セルが特殊で入手が難しいこと。身近な材料でそろうガーゼ法とは対照的に、専用品への依存があります。

こうした難点を踏まえ、ガーゼ法とブレッセル法は、測る面積、表面の塗膜の種類、求める精度、現場の条件——それらを見比べて使い分けられています。どちらが上ということではなく、適材適所。塩分測定にも、道具の引き出しが要るのです。

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世界標準としてのブレスル法

最後に、この手法の素性に触れておきます。ブレッセル法は、もともと国際規格に定められた、塩分測定の世界標準です。表面から可溶性塩を抽出する手順はISO 8502-6に、抽出した液から可溶性塩を評価する方法はISO 8502-9に定められており、船舶や海洋構造物、パイプラインなど、塩害と闘うあらゆる塗装の現場で、世界的に使われてきました。

国際的な標準では、抽出した水の電気伝導率(電気の通りやすさ)の上昇から塩分量を求めるのが主流です。塩が溶けた水ほど電気をよく通す——その原理を利用した、電気伝導率計による測定です。日本の橋の防食の現場では、これを塩素イオン検知管で読む簡易な形で運用しているわけです。世界標準の抽出法と、日本の現場に根づいた検知管。ブレッセル法は、その両輪で成り立っています。

ちなみに、ブレスルという名は、この抽出法を考案した人物にちなむとされます。橋に限らず、船体の再塗装、洋上を渡るパイプラインの塗装検査など、塩と湿気にさらされる鋼構造物の塗装現場では、国境を越えてこの手法が信頼されてきました。小さなセルと注射器という素朴な道具立てが、世界中の塗膜の寿命を静かに支えているのです。

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まとめ

この記事では、ブレッセル法を解説しました。

ブレッセル法とは、鋼材表面に測定セルという小さな水槽を貼り、注射器で脱イオン水を出し入れして塩分を溶かし出し、その濃度から付着塩分量を求める測定方法です。ガーゼ法が「拭き取る」のに対し「溶かし出す」ことで、表面状態に左右されにくいという長所を持つ一方、測れる面積が狭く、専用セルが要り、扱いに慣れを要するという短所も抱えます。検知管の濃度を13.08倍するだけで塩分量が出る手軽さの裏には、道具立てを規格で固めた工夫がありました。

拭き取るガーゼと、溶かし出すセル。同じ「塩を測る」でも、道具が変われば得意な現場も変わります。二つの手法を使い分けながら、塗装技術者は、塗膜の下に潜む塩という見えない敵と、今日も向き合っているのです。

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