はじめに
橋(はし)の設計では、橋に作用するさまざまな力を想定し、それに耐えられる構造を考えていきます。この「橋に作用する力」のことを、設計の世界では「荷重(かじゅう)」と呼びます。
橋には、自重をはじめ、通行する車両の重さ、風の力、地震の揺れ、温度変化による影響など、実に多種多様な荷重がかかります。設計者はこれらの荷重を適切に見積もり、組み合わせて検討することで、安全な橋の設計を進めていきます。
この記事では、橋の設計で扱う荷重について、その種類と分類、そして組合せの考え方を整理していきます。設計基準の全体像と併せて理解していただくと、設計の中身がより見えてくると思います。
【設計のための基準の概要|橋の設計を支える「約束ごと」を解説】 https://hashiwatashi.com/bridge-design-standards/
「荷重」と「作用」という言葉について
設計の世界では、「荷重」と「作用(さよう)」という2つの言葉が使われます。
厳密に言えば、両者には区別があります。「荷重」は橋に物理的にかかる力を指し、「作用」は荷重に加えて、温度変化や材料の収縮など、力以外の影響も含む、より広い概念として使われます。
設計基準によっては「作用」という言葉が使われることもありますが、実務の現場では「荷重」という言葉が広く定着しています。この記事でも、分かりやすさを優先して「荷重」を中心に説明していきます。
荷重の種類
橋に作用する荷重には、実に多くの種類があります。代表的なものを整理してみましょう。
「死荷重(しかじゅう)」は、橋自身の重さによる荷重です。橋桁、橋脚、床版(しょうばん)、舗装など、橋を構成するすべての部材の自重がこれに該当します。「固定荷重」と呼ばれることもあります。
「活荷重(かつかじゅう)」は、橋を通行する車両や歩行者による荷重です。道路橋では自動車荷重、鉄道橋では鉄道車両の荷重、歩道橋では歩行者の群集荷重などが該当します。
「衝撃荷重」は、活荷重が動くことで生じる動的な影響です。車両が橋を通過するとき、静止しているときよりも大きな力が瞬間的にかかることがあり、これを衝撃として考慮します。
「風荷重」は、橋に吹き付ける風による力です。長大橋や高い位置にある橋では、風の影響が特に大きくなります。
「雪荷重」は、橋に積もる雪の重さによる荷重です。降雪量の多い地域では、設計上の重要な要素になります。
「地震の影響」も、橋の設計では欠かせない検討項目です。日本は地震大国であり、耐震設計の考え方が橋の設計に深く組み込まれています。
このほかにも、温度変化の影響、コンクリートの収縮やクリープの影響、塩分飛来の影響、支点の移動や不等沈下の影響など、さまざまな要因が荷重として扱われます。
荷重の時間的変動による分類
荷重を整理する一つの切り口として、「時間的にどう変動するか」という観点での分類があります。これは設計の考え方を理解するうえで重要な視点です。
「永続荷重(えいぞくかじゅう)」は、橋の供用期間中、常にほぼ一定の大きさで作用し続ける荷重です。死荷重や水圧などが該当します。橋が存在する限り、ずっとかかり続ける荷重です。
「変動荷重(へんどうかじゅう)」は、時間とともに大きさが変化する荷重です。活荷重や温度変化の影響などが該当します。日常的に発生し、ある程度の頻度で大きさが変わっていく荷重です。
「偶発荷重(ぐうはつかじゅう)」は、頻繁には発生しないものの、発生すると橋に大きな影響を与える荷重です。大地震や、車両や船舶の衝突などが該当します。
この3分類は、荷重の性格を整理するうえで便利な枠組みです。それぞれの荷重がどの分類に属するかを意識すると、設計の考え方が見えやすくなります。
死荷重を見積もる難しさ
ここで、設計の実務における興味深いポイントに触れておきます。橋の設計を始める段階では、まだ橋の構造が決まっていないため、橋自身の重さ、つまり死荷重を正確に計算することができません。
そのため、設計の初期段階では、過去の資料や類似の橋を参考にして死荷重の概略値を推定し、仮定した値で設計を始めます。そして、設計が一定程度進んで橋の寸法が決まってきた段階で、改めて死荷重を計算し直し、必要に応じて設計を見直していきます。
材料ごとに単位重量(たんいじゅうりょう)が異なるため、どの材料をどの程度使うかによって、死荷重の大きさも変わってきます。鋼、コンクリート、木材、石材など、それぞれに固有の重さがあります。設計基準には、材料ごとの単位重量の標準値が示されており、設計者はこれを参照して死荷重を計算します。
設計とは、こうした「行きつ戻りつ」の検討を繰り返しながら、徐々に最終形に近づけていく作業でもあります。
荷重の大きさをどう決めるか
設計で用いる荷重の大きさは、橋に求められる性能の種類によって異なります。
安全性に対する検討では、設計供用期間内に想定しうる十分大きな値を用います。橋が壊れることは絶対に避けなければならないため、厳しい条件で確認します。
使用性に対する検討では、設計供用期間内で比較的しばしば生じる値を用います。日常的に発生するレベルの荷重で、橋が快適に使えるかを確認します。
耐久性に対する検討では、設計供用期間内の荷重の変動を考慮した値を用います。繰り返しの荷重による疲労などを評価するための考え方です。
このように、何を確認したいかによって、用いる荷重の大きさの考え方が変わります。同じ橋であっても、検討項目に応じて異なる荷重で計算するのが、現代の橋の設計の特徴です。
荷重の組合せの考え方
実際の橋には、複数の荷重が同時に作用します。死荷重は常にかかっており、そこに活荷重が加わり、ときに風荷重や地震の影響も重なります。設計では、こうした「荷重の組合せ」を考慮する必要があります。
安全性の検討では、永続荷重に加えて、主たる変動荷重と従たる変動荷重を組み合わせるのが基本です。また、地震などの偶発荷重を考慮する場合には、永続荷重と偶発荷重と従たる変動荷重を組み合わせて検討します。
使用性と耐久性の検討では、永続荷重と変動荷重の組合せが基本となります。
ここで重要なのは、「すべての荷重が同時に最大値で発生することは、現実的に考えにくい」という発想です。たとえば、巨大な地震が来ているまさにその瞬間に、最大級の暴風と最大の活荷重が同時にかかる、という状況はほぼあり得ません。
そのため、過去に経験のある設計者は、現実的に起こりうる組合せを想定して荷重を設定します。複数の荷重が同時に最大値となる確率を考慮し、組合せの中での主従関係を整理することで、合理的な設計が可能になります。
まとめ
この記事では、橋の設計で扱う荷重について、その種類と分類、組合せの考え方を整理してきました。
橋には、死荷重、活荷重、衝撃、風荷重、雪荷重、地震の影響など、多種多様な荷重がかかります。これらは時間的な変動性から、永続荷重・変動荷重・偶発荷重の3つに分類できます。
荷重の大きさは、安全性・使用性・耐久性という求められる性能に応じて、異なる考え方で設定されます。また、現実的に起こりうる組合せを想定することで、合理的な設計が可能になります。
橋の設計は、これらの荷重を漏れなく見積もり、適切に組み合わせて検討することの積み重ねです。荷重の考え方を理解することは、橋の設計を理解する第一歩と言えるかもしれません。
次回は、橋で使用する材料について、設計基準でどのように扱われているかを見ていく予定です。


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