渦流探傷試験(ET)とは?|塗膜の上から亀裂を探す渦電流のしくみを解説

渦流探傷試験(ET)とは? 橋梁

浸透探傷、超音波探傷と続けてきた鋼の探傷シリーズに、少し毛色の違う一員が加わります。渦流探傷試験(かりゅうたんしょうしけん)——電気の渦で、きずを探す検査です。

この検査には、仲間たちにない切り札があります。塗膜の上から、探傷できること。塗装を剥がさず、触れもせず、コイルをかざすだけで表層の亀裂を捉える。しかもその原理は、実は毎日の台所で働いているある調理器具と、まったく同じです。ここでは、渦電流という現象の正体から、きずが「電気信号」になるしくみ、表層専門である理由、利点と欠点、そして鋼床版という橋の難所での活躍までを、基礎から解説します。

渦流探傷試験とは——電気の渦で、表層を探る

渦流探傷試験とは、交流を流したコイルを試験体に近づけたとき、電磁気の作用によって試験体に発生する渦電流(うずでんりゅう)が、欠陥の影響で変化することを利用して、表層部のきずを検出する非破壊検査です。英語のEddy Current Testingから、ET(イーティー)と略されます。渦電流探傷試験とも呼ばれます。

対象は、表層部のきず。つまり、表面と、そのごく浅い直下です。そして適用できる相手は、電気を通す材料——鉄鋼はもちろん、磁石に付かないアルミやチタンのような非鉄金属まで、導電性の材料なら幅広く探傷できます。磁石の付く・付かないではなく、電気を通すか通さないか。それがこの検査の線引きです。

原理①——コイルが起こす「電気の渦」

まず、渦電流とは何かから始めましょう。

コイル(電線をぐるぐる巻いたもの)に交流を流すと、コイルの周りには、向きを高速で入れ替え続ける磁界が生まれます。この揺れ動く磁界を金属にかざすと、電磁誘導という現象によって、金属の表面に、ぐるぐると回る同心円状の電流がひとりでに湧き上がります。これが渦電流。英語のeddy(エディ)は川の渦のことで、金属の表面に電気の渦が巻く様子から、その名が付きました。

実はこの現象、多くの家庭の台所で毎日働いています。IH調理器です。IHのコイルが作る交流磁界が、鍋の底に渦電流を起こし、その電流が金属の抵抗で熱に変わって、鍋そのものが発熱する——火を使わずに鍋が熱くなるからくりは、渦電流そのものです。IHは渦電流で「加熱」し、渦流探傷は渦電流の「乱れ」を読む。同じ現象の、二つの使い道なのです。

原理②——きずは、渦の流れに置かれた岩

では、その渦でどうやってきずを見つけるのか。

金属の表面に湧いた渦電流は、健全な場所では、同心円を描いてなめらかに流れています。ところが、その流れ道に亀裂があると、電流は亀裂を横切れません。川の流れに岩を置いたときのように、渦は乱れ、きずを迂回して流れることになります。

この乱れが、コイルに跳ね返ってきます。渦電流は、それ自身も磁界を作っており、その磁界はコイルに影響を返しています。渦が乱れれば、渦の作る磁界が変わり、コイルの電気的な状態——インピーダンス(交流の流れにくさ)が変化する。つまり、金属側で起きたきずの影響が、かざしているコイル側の電気信号の変化として観測できるのです。触れてもいない金属の中の異変を、手元のコイルが感じ取る——電磁気ならではの、遠隔の診察です。

検査では、この信号の変化を渦流探傷器の画面で読み取り、きずの有無を判定します。表面のきずだけでなく、ごく浅い直下の欠陥まで、探触子を走らせながら高速に検査できます。

最大の切り札——塗膜の上から探傷できる

さて、渦流探傷の最大の売りが、これです。塗膜の上から探傷できること。

これまで見てきた探傷法を思い出してください。浸透探傷(PT)は、きずの口に浸透液を染み込ませる検査ですから、塗膜がきずを覆っていては始まりません。磁粉探傷(MT)も、磁粉を鋼材の表面に付けて模様を描かせる以上、基本的に塗膜を除去してからの検査です。つまりどちらも、探傷の前に塗装を剥がし、終わったら塗り直すという、手間とコストがもれなく付いてきます。

渦流探傷は違います。コイルが起こす磁界は、電気を通さない塗膜を素通りして、その下の鋼材に渦電流を起こします。塗膜は、電磁気にとって「ないも同然」なのです。だから、塗装をまとったままの鋼材に、コイルをかざすだけで探傷が始められる。塗膜除去も、再塗装も要りません。しかも非接触で、前処理はほとんど不要、検査は高速。「疑わしい溶接部が多数あるが、全部の塗装を剥がすわけにはいかない」という現場で、まず渦流探傷で広くあたりを付ける——スクリーニングの主役にうってつけの性格です。

表皮効果——渦は、深く潜れない

一方で、渦流探傷には原理に刻まれた明確な限界があります。内部損傷は測定できないことです。その理由が、表皮効果(ひょうひこうか)と呼ばれる性質です。

交流によって金属に生じる渦電流は、表面近くに集中し、深くなるほど急激に弱まっていきます。渦電流の密度が表面の37%まで減る深さは標準浸透深さと呼ばれ、検査に使う周波数や、材料の性質(導電率・透磁率)で決まります。周波数を高くするほど、渦はより表面に集中して感度は上がりますが、そのぶん深くへは届かない。つまり渦流探傷は、生まれつきの「表層専門医」なのです。

深部のきずは、音でジグザグと潜り込める超音波探傷(UT)の領分。表層の渦流探傷と、内部の超音波探傷は、得意な深さで役割を分け合う関係にあります。

【超音波探傷試験(UT)とは?|音のエコーで鋼の中の亀裂を見つけるしくみを解説】 https://hashiwatashi.com/ultrasonic-testing/

利点と欠点——速さと引き換えの、読みの難しさ

利点を整理しましょう。第一に、部材表面の損傷を、塗膜の上から検出できること。第二に、磁性材料の鋼管・鋼棒・鋼線などに対して、検査方法が簡易で、亀裂の検出に優れること。形の整った棒や管とコイルは相性がよく、製造ラインで製品を次々と通しながら全数検査する、といった自動化・高速化にも向いています。非接触ゆえに探触子も対象も傷まず、薬剤も磁粉も使いません。

欠点は、信号の気むずかしさです。渦電流は、きずだけでなく、試験体の形状や材質、コイルの大きさ、コイルと表面の距離によっても変化します。部材の縁に近づけば信号が乱れ、材質のむらもノイズになる。画面に現れた信号の変化が、はたして亀裂なのか、それ以外の要因なのか——その見きわめには、熟練と経験が求められます。そして先ほどのとおり、内部損傷は測定できません。

橋での使いどころ——鋼床版Uリブと、被覆の中

橋の世界で渦流探傷が呼ばれる代表的な現場が、鋼床版(こうしょうばん)です。

鋼床版は、鋼の板そのものを橋の床とする構造で、裏側にはUリブと呼ばれる補強材が延々と溶接されています。車輪の荷重を直接受け続けるこの溶接部は、疲労亀裂の名所。しかも溶接線は長大で、当然すべて塗装されています。怪しい範囲の塗膜をすべて剥がして探傷するのは、現実的ではありません。ここで、塗膜の上から走らせる渦流探傷が生きるのです。コイルのプローブで溶接部をなぞりながら広く探し、信号の出た箇所に絞って、塗膜を剥がした精査や他の探傷で確定する——広さの渦流と、確かさの精査という二段構えです。

さらに、この「覆いの上から診られる」性質は、応用の芽を広げています。被覆材に包まれた橋梁ケーブルや、地面ぎわで腐食しやすい鋼管の照明柱など、覆いを外せない鋼材の腐食による減肉を、渦電流の変化で捉えようという技術開発も進められています。見えないところを、剥がさずに診る——渦流探傷の切り札は、探傷の枠を超えて役割を広げつつあるのです。

【鋼橋の点検・補修・補強|鋼材の損傷の種類と防食・補強の方法】 https://hashiwatashi.com/steel-bridge-maintenance/

探傷ファミリーの中での立ち位置

ここまでに登場した探傷法たちと並べて、守備範囲を一望しておきましょう。

試験主な守備範囲塗膜の扱い検出のしかた
浸透探傷(PT)表面に開口したきず除去が必要浸透液の色であぶり出す
磁粉探傷(MT)表面と表面直下のきず基本的に除去が必要磁粉の模様で描き出す
渦流探傷(ET)表層部のきず塗膜の上から探傷できるコイルの電気信号の変化で読む
超音波探傷(UT)内部のきず接触媒質を介して当てる音のエコーで聴き取る

色のPT、磁気のMT、電気のET、音のUT。それぞれ使う物理も、得意な深さも、段取りも違います。だからこそ、どれか一つが万能なのではなく、現場の条件——きずの想定される深さ、塗膜の有無、対象の形——に応じて選び、組み合わせるのが探傷の実務です。

【非破壊検査とは?|壊さずに橋の中を診る11の方法を解説】 https://hashiwatashi.com/non-destructive-testing/

まとめ

この記事では、渦流探傷試験(ET)を解説しました。

渦流探傷試験とは、交流を流したコイルが金属の表層に起こす渦電流の乱れを、コイル側の電気信号の変化として捉え、表層部のきずを検出する非破壊検査です。原理はIH調理器と同じ電磁誘導。塗膜を素通りして鋼材に渦を起こせるため、塗装を剥がさずに探傷できるという、他にない切り札を持ちます。一方で、表皮効果ゆえに渦は深く潜れず、内部は診られません。信号の読みには熟練が要りますが、非接触・高速・前処理いらずの身軽さは、鋼床版Uリブのような「広くて、塗られていて、怪しい」現場で、まさに本領を発揮します。

台所で鍋を温めている、あの見えない渦が、橋の上では亀裂を探す目になっている。電磁気という物理の懐の深さと、それを検査に仕立てた工夫——渦流探傷は、科学の応用の妙を教えてくれる一員として、探傷ファミリーに欠かせない存在なのです。

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