塩水は電気を通す。理科の実験で確かめたあの性質が、そのまま橋の検査の道具になっています。鋼材の表面に付いた塩を水に溶かし、その水がどれだけ電気を通すかを測って、塩の量を言い当てる——電導度法(でんどうどほう)です。
塗装の塗替えでは、塗る前に表面の塩分を落とし切れたかを確かめることが、塗膜の寿命を大きく左右します。その確認の測り方には、いくつかの流儀があり、今回はその一つ、専用の測定器でデジタルに読む方法を取り上げます。ここでは、電導度法とは何かというしくみから、電気伝導率と塩分の関係、マグネットで貼り付ける手順、利点と欠点、そして他の測り方との比較までを、基礎から解説します。
電導度法とは——溶かし出して、電気で読む
電導度法とは、対象構造物の表面に付着している塩分を脱イオン水に溶出させ、その溶出液の電気伝導率を計測し、塩分濃度に換算して塩分量を求める測定方法です。
ここで、この方法の性格を決める一文を押さえておきます。電導度法は、水溶性の電解質の総量を計測する——という点です。塩化物イオンだけを選り分けて数えるのではなく、水に溶けて電気を運ぶものをまとめて測る。この「的の広さ」が、電導度法のいちばんの個性です。
なぜ塩分を測るのか、という背景については、こちらで詳しく整理しています。
【ガーゼ拭き取り塩素イオン検知管法とは?|塗替えの品質を守る塩分測定のしくみと手順を解説】 https://hashiwatashi.com/chloride-wipe-test/
原理——純水は、ほとんど電気を通さない
原理を理解する鍵は、意外にも「何も溶けていない水」にあります。
純粋な水は、実はほとんど電気を通しません。電気を運ぶ担い手がいないからです。ところが、そこに塩が溶けるとどうなるか。塩は水の中で、プラスの電気を帯びたイオンとマイナスの電気を帯びたイオンに分かれます。このイオンたちが電極の間を行き来することで、水は電気を通すようになります。溶けている塩が多いほど、電気を運ぶイオンも多く、水はよく電気を通す——だから、電気の通りやすさを測れば、溶けている塩の量が分かるのです。
この「電気の通りやすさ」を表す量が、電気伝導率です。電気の流れにくさである電気抵抗の、ちょうど裏返しの指標で、単位にはジーメンス毎センチメートル(S/cm)が使われます。実際の測定では、100万分の1を表すマイクロを付けたμS/cmという単位が主役です。
そして大切なのが、この電気伝導率と塩分濃度が、比例の関係にあることです。だから、測った伝導率の値から、決まった換算によって塩分濃度が求められ、さらに使った水の量と測定面積から、表面1平方メートルあたりの付着塩分量(mg/㎡)が算出できます。塩の粒を数えるのではなく、「電気の通りやすさ」という一本の物差しに置き換えて量を知る。電導度法とは、そういう発想の測定です。
「塩化物イオン」ではなく「電解質の総量」——的の広さの意味
さきほど触れた「水溶性の電解質の総量を計測する」という性格を、もう少し掘り下げておきます。ここは、他の測定方法との決定的な違いだからです。
塩素イオン検知管を使う方法は、試薬の変色反応を利用して、塩化物イオンだけを狙い撃ちで測ります。いわば、特定の一種類だけを数える方法です。対して電導度法は、電気を運ぶイオンであれば分け隔てなく反応します。塩化物も、硫酸塩も、その他の水に溶ける塩も、まとめて一つの数字になる。狙い撃ちではなく、網ですくうやり方です。
これは、長所にも短所にもなります。長所の側から見れば、腐食を促す可溶性の塩は塩化物だけではないため、総量で押さえるという考え方には合理性があります。船舶や海洋構造物の塗装の世界で、可溶性塩の総量を管理する方式が国際的に広く使われているのも、この考え方によります。
一方、短所の側から見れば、「そのうち塩化物イオンがどれだけか」は区別できません。塩化物イオンの量そのものを基準に管理したい場面では、検知管の方式に分があります。なお、市販の表面塩分計には、測定した電気伝導率を、そのままの値でも、塩化ナトリウム(NaCl)に換算した値でも、国際規格の換算式による可溶性塩の値でも表示できるものがあり、管理したい指標に応じて読み替えられるようになっています。
使う道具——手のひらサイズの測定器と、磁石で貼り付く検出部
使用する機材は、表面塩分計の本体、計測セルを備えた検出部、そして脱イオン水です。試薬も、使い捨ての管も要りません。
この検出部に、現場の知恵が詰まっています。まず、計測面への固定がマグネットの磁力によること。鋼材は磁石が付く材料ですから、検出部をぺたりと貼り付けるだけで固定できます。この方式の何がありがたいかというと、手で押さえていなくてよいことに加えて、上を向いた面でも下を向いた面でも測れることです。書籍の資料にも「天井面へ静かに固定」と示されているとおり、頭上の面——橋でいえば桁の下面のような場所でも、磁石が測定器を支えてくれます。塩分が溜まりやすいのは、桁端部や下フランジ上面といった、水と汚れの通り道です。姿勢を選ばずに測れることは、実務では小さくない利点です。
もう一つの工夫が、エア抜き栓です。密閉された計測セルに水を注ぐには、中の空気の逃げ道が要ります。注入前に栓を緩めて空気を逃がし、水で満たしたらすぐに締める。セルの中を確実に水で満たすための、地味ですが欠かせない一手間です。
手順——ゼロ点を確かめ、注ぎ、10秒攪拌する
測定の流れを、意味とともに整理します。
| 手順 | やること | その意味 |
|---|---|---|
| ① | 計測セル内を脱イオン水でよく洗浄し、指示が2mg/㎡以下であることを確認する | 前回の塩が残っていないかを確かめる、ものさしのゼロ点確認 |
| ② | 洗浄した水を捨て、セル内に残った水分を拭き取る | 残った水が試料を薄め、値を低く見せるのを防ぐ |
| ③ | 検出部のエア抜き栓を緩める | 注入する水と入れ替わる空気の逃げ道をつくる |
| ④ | 計測面に検出部を固定する(マグネットの磁力による) | 姿勢を選ばず、密着した状態を保つ |
| ⑤ | 10mlシリンダで脱イオン水を7.5ml採取し、注入口からゆっくり注入し、すぐにエア抜き栓を締める | 決まった水量が、濃度から塩分量への換算の前提になる |
| ⑥ | 攪拌スイッチを押し、約10秒で攪拌を停止して指示値を読み取る | 表面の塩を水に均一に溶かし込み、安定した値を読む |
とりわけ大切なのが、①のゼロ点確認です。測る前に、まず測定器そのものが正しく「塩ゼロ」を示すかを確かめる。前の測定の塩が残っていれば、次の測定値はそのぶん上乗せされてしまいます。反発硬度法で、試験の前にテストアンビルでハンマーを点検したのと同じ思想です。ものさしを点検してから測る——測定という営みに共通する作法が、ここにも生きています。
【反発硬度法(コンクリートハンマー法)とは?|シュミットハンマーで強度を推定するしくみと測り方を解説】 https://hashiwatashi.com/rebound-hammer/
利点——素材に左右されず、デジタルで読み、繰り返し使える
電導度法の利点は、四つに整理できます。
第一に、測定値が素材の状態に左右されることが少ないこと。表面を拭き取るのではなく、測定面から塩分を溶出させて、その溶出濃度を測る方式だからです。ガーゼで拭き取る方法は、水を吸い込みやすい塗膜が苦手でしたが、溶出方式にはその弱点がありません。
第二に、読取誤差が少ないこと。溶出濃度がデジタルで表示されるためです。検知管の方式では、白く変色した層の先端がどの目盛りを指しているかを目で読むため、どうしても読み手による差が生じます。数字がそのまま表示されるのは、判定の客観性という点で大きな強みです。
第三に、測定器を繰り返し使用できること。脱イオン水を補充するだけで、継続して測定できます。一回ごとに使い捨てる検知管やセルと違い、消耗品が少なく、試薬の後始末も要りません。測る回数が多いほど、この差は効いてきます。
第四に、測定器具が小さく、測定や移動がスムーズに行えること。橋の上を歩いて回りながら何点も測る、という使い方に向いています。
欠点——狭い、そして高い
一方、欠点は二つ、はっきりしています。
一つは、測定面積が小さく、局部的な測定であること。セルが当たっているごく狭い範囲の値しか得られないため、面全体の状態を知るには、測定箇所数を多くする必要があります。一点だけ測って「この橋は合格」とは言えないのです。
もう一つは、測定機器が高価であること。ガーゼと検知管でそろう方法に比べれば、初期の投資は大きくなります。ただし、繰り返し使えるという先ほどの利点と裏表でもあり、測定の頻度が高いほど、一回あたりの費用は下がっていきます。道具の選択は、現場の測定頻度との相談になります。
三つの測り方の比較
付着塩分の測定方法を、並べて確かめておきましょう。
| 観点 | ガーゼ拭き取り法 | ブレッセル法 | 電導度法 |
|---|---|---|---|
| 塩の集め方 | ぬらしたガーゼで拭き取る | セルの中の水で溶かし出す | セルの中の水で溶かし出す |
| 測るもの | 塩化物イオン | 塩化物イオン | 水溶性の電解質の総量 |
| 読み取り | 検知管の変色層を目視 | 検知管の変色層を目視 | 測定器のデジタル表示 |
| 測定面積 | 広い(0.25㎡) | 狭い(セルの面積) | 狭い(セルの面積) |
| 道具 | 身近な品でそろう | 専用セル(使い切り) | 専用測定器(高価・繰り返し使用可) |
| 向く場面 | 広い面の代表値を知りたいとき | 局所を測りたいとき | 局所を数多く測りたいとき |
こうして並べると、電導度法の輪郭がはっきりします。塩の集め方はブレッセル法と同じ「溶出」でありながら、読み取りを検知管からデジタル測定器に置き換えた方法——それが電導度法です。表面状態に強いという溶出方式の長所を受け継ぎつつ、目視の読み取り誤差と、使い切りの消耗品から解放されている。そのぶん、機器の値段という代償を払っているわけです。
【ブレッセル法とは?|測定セルと注射器で付着塩分を溶かし出すしくみと手順を解説】 https://hashiwatashi.com/bresle-method/
世界の標準的な考え方とのつながり
最後に、この方法の素性にも触れておきます。表面から可溶性塩を水で抽出し、その水の電気伝導率の上昇から塩分量を求めるという考え方は、国際規格に定められた、塗装前の表面清浄度評価の標準的な方法です。船舶、海洋構造物、パイプラインなど、塩と闘う塗装の現場で、世界的に用いられてきました。
日本の橋の防食では、検知管で塩化物イオンを読む簡易な方法も広く使われていますが、電導度法は、この国際的な標準の考え方を、専用の測定器という形で現場に持ち込んだものだといえます。同じ「塩を測る」でも、どの物差しで測り、何をもって合格とするか。そこには、それぞれの分野が積み重ねてきた考え方が反映されているのです。
【鋼橋の点検・補修・補強|鋼材の損傷の種類と防食・補強の方法】 https://hashiwatashi.com/steel-bridge-maintenance/
まとめ
この記事では、電導度法を解説しました。
電導度法とは、鋼材表面の塩分を脱イオン水に溶かし出し、その水の電気伝導率から塩分濃度を求め、付着塩分量に換算する測定方法です。純水は電気を通さず、塩が溶けてイオンになると電気を運ぶようになる——理科でおなじみの性質が、そのまま測定の原理になっています。測っているのは塩化物イオンだけではなく、水溶性の電解質の総量。マグネットで検出部を固定するため頭上の面でも測れ、デジタル表示で読取誤差が少なく、脱イオン水の補充だけで繰り返し使えます。一方、測定面積が狭いために測定点を多く取る必要があり、機器も高価です。
塩を数えるのではなく、電気の通りやすさに置き換えて量を知る。遠回りに見えるこの発想が、実は現場でもっとも速く、もっともぶれない答えを出してくれる——電導度法は、測るとは「別の量に置き換えること」なのだと、あらためて教えてくれる方法です。
【非破壊検査とは?|壊さずに橋の中を診る11の方法を解説】 https://hashiwatashi.com/non-destructive-testing/


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