地震や豪雨が起きるたびに、橋は地域の暮らしを大きく左右する存在になります。渡れる橋が一つ残るかどうかで、救助も、支援物資の輸送も、その後の生活再建のスピードも変わってくるからです。だからこそ、橋を「壊れてから直す」のではなく「壊れる前に守る」考え方へと、維持管理のしくみそのものが変わってきました。
ここでは、防災と減災の違いという土台から始めて、橋の維持管理が対症療法型から予防保全型へ移り変わってきた流れ、傷み方に応じた保全方式の選び方、地震に強い橋脚のつくり、そして橋を守る人材をどう確保するかまでを整理します。
防災と減災はどう違うのか
防災(ぼうさい)と減災(げんさい)は、似た言葉でありながら、立っている前提が異なります。
防災は、公助(こうじょ)を原則に、災害が起きた後の救命と復旧・復興を見すえて、法律で定められた計画に従って備えることを指します。国や自治体が中心となり、被害そのものをできるだけ起こさないように手を打っていく考え方です。
一方の減災は、「自然災害や突発的な事故は、完全には防げない」という前提に立ちます。防ぎきれないものがある以上、被災したときに被害をできるだけ小さくとどめることを目指す。これが減災です。災害を「受けにくくする」、あるいは「受けても最小限に抑える」備えと言い換えてもよいでしょう。
この二つは対立する考え方ではありません。むしろ、防げないものがあると正直に認める減災の視点を取り込むことで、防災はより現実的になります。実務でも、防災といったときには、その中に減災を含めて考えるのが一般的です。完全には防げないと織り込んだうえで、それでも被害を一つでも減らすために何ができるかを問う——その姿勢が、橋の守り方にも通じています。
災害対策基本法が定める3つの段階
日本の防災の土台になっているのが、災害対策基本法(さいがいたいさくきほんほう)です。1959年の伊勢湾台風で5,000人を超える犠牲者が出たことを受けて1961年に制定され、翌1962年に施行されました。それまでは災害が起きるたびに個別の法律がつくられ、ほかの法律との整合性が十分に取られないまま運用されていました。その不備を改め、災害対策の全体を一つの体系にまとめたのが、この法律です。
災害対策基本法は、防災活動を大きく3つの段階に分けています。
①災害予防——平常時に、災害が起きないように、あるいは起きても被害が広がらないように備える段階です。施設の整備や防災訓練、そして点検などが、ここに含まれます。
②災害応急対策——災害が発生した、あるいは発生しようとしているときに、人命を守り被害の拡大を防ぐために、すぐに動く段階です。避難の指示や救助活動がこれにあたります。
③災害復旧・復興——被害を受けた後に、施設を元の状態に戻し、被災者の生活を立て直していく段階です。
橋の維持管理が深く関わるのは、この中の「①災害予防」です。平常時から橋の状態を把握し、傷みが進む前に手を打っておくこと。それが、いざというときに橋を「渡れる状態」で残すための、いちばん確かな備えになります。逆に、平常時の備えを怠った橋は、災害時に真っ先に弱点になりかねません。
公助・共助・自助——人が主役の備え
防災・減災への取り組み方は、暮らしの場ごとに変わります。鍵になるのが、公助・共助(きょうじょ)・自助(じじょ)という、三つの助け合いの形です。
地域においては、共助が基本になります。住民どうしが互いに助け合い、避難生活を支え合う。被害が大きければ、地域そのものの再生を目指すことになります。顔の見える関係が、災害時にはそのまま命を守る力に変わります。
職場においては、まず人命の安全を確保したうえで、経済活動の持続性を失わないことが重要になります。事業を止めないための備えが、雇用を守り、地域経済を支えることにつながるからです。
自助についても、平常時に必要な準備をしておくべきことは言うまでもありません。一人ひとりの備えが、共助や公助の土台になります。
橋という構造物を守るうえでも、この「人が主役」という視点は欠かせません。どれほど優れた点検手法や補修技術があっても、それを使いこなす人がいなければ、橋は守れないからです。この点は、記事の後半で改めて取り上げます。
橋の維持管理は対症療法型から予防保全型へ
橋の維持管理の進め方は、近年大きく転換してきました。「対症療法型」から「予防保全型」へ、という流れです。
対症療法型は、傷みが見つかってから動く進め方です。点検と診断で異常を見つけ、管理者が判断し、対症療法的な対策(その場の傷みへの対処)を施し、その記録をデータベースに残していく。問題が起きてから対応するため、どうしても後手に回りやすく、気づいたときには大きな補修が必要になっている、ということが起こりがちでした。
予防保全型は、傷みが深刻になる前に手を打つ進め方です。流れとしては、まず点検・調査と診断を行い、劣化予測と便益算定(対策によってどれだけの効果が見込めるかの見積もり)をしたうえで、アセットマネジメントシステムに乗せ、中長期計画を策定し、予防保全的な対策を実施する。そして、その結果をまた次の点検・診断へと反映させていく。一度きりではなく、ぐるりと循環するしくみになっているのが特徴です。
両者を分ける大きな違いは、データの使い方にあります。対症療法型では、点検結果は「起きたことを記録するデータベース」でした。これに対して予防保全型では、点検結果は「将来を予測し、限られた予算をどこに配分すべきかを判断するアセットマネジメント」の材料へと進化しています。同じように点検をしても、その先で何を考えるかが、根本から違うのです。
橋の点検や診断の基本的な進め方については、こちらで詳しく整理しています。
【橋の点検とは?|近接目視と健全度判定の基本】 https://hashiwatashi.com/bridge-inspection-basics/
【橋の診断・評価とは?|健全度を見きわめる考え方】 https://hashiwatashi.com/bridge-diagnosis/
傷み方に応じた保全方式の使い分け
予防保全型へ転換するといっても、すべての橋に、すべての部材に、同じ対策をすればよいわけではありません。傷みの進み方には「型」があり、それに応じて適した保全方式が変わってきます。
保全方式は、まず大きく「予防保全」と「事後保全」に分かれます。そして予防保全は、さらに二つの方式に分かれます。
時間計画保全(TBM:Time Based Maintenance)——あらかじめ決めた時間計画に従って、定期的に手を入れる方式です。「何年ごとに塗り替える」というように、時間を基準にして対策を打ちます。
状態監視保全(CBM:Condition Based Maintenance)——部材の状態を見ながら、必要なタイミングで手を入れる方式です。状態の評価に基づいて動くため、まだ手を入れる必要のないところに余計な作業をしてしまう、という無駄を減らせます。
事後保全(BM:Breakdown Maintenance)——傷みや故障が起きてから、元の状態に戻す方式です。
この三つを、劣化のしかた(劣化形態)に当てはめると、適・不適がはっきり分かれます。国土交通省が示している整理が、次の表です。損傷率(そんしょうりつ)は、時間の経過とともに損傷がどれだけ進んでいるかを表す指標だと考えてください。
| 劣化形態 | 損傷率の進み方 | 時間計画保全(予防保全) | 状態監視保全(予防保全) | 事後保全 |
|---|---|---|---|---|
| 損傷率増加形 | 時間とともに損傷率が増えていく | ◎ 最適 | ○ 適 | × 不適 |
| 損傷率一定形 | 損傷率がほぼ一定で推移する | × 不適 | ◎ 最適 | ○ 適 |
| 損傷率減少形 | 時間とともに損傷率が減っていく | × 不適 | ◎ 最適 | × 不適 |
注)◎:最適 ○:適 ×:不適(出典:国土交通省)
それぞれの型を、もう少しかみ砕いてみます。
損傷率増加形は、時間がたつほど傷みが進みやすくなる部材です。放っておくほど悪化していくので、時間を決めて定期的に手を入れる時間計画保全が、最も適しています。傷みが本格化する前に、計画的に塗り替えや補修をしておくイメージです。状態を見ながらの状態監視保全でも対応はできますが、進行が速い分、時間で先回りするほうが確実とされています。
損傷率一定形は、傷みの進み方が時間によらず、ほぼ一定で推移する部材です。この場合は、時間で区切るよりも、状態を見て判断する状態監視保全が最も適します。一定だからこそ、状態を継続的に把握し、必要になった時点で動くのが合理的だからです。進行が緩やかであれば、傷んでから直す事後保全でも対応できる余地があります。
損傷率減少形は、初期に傷みやすく、時間がたつにつれて落ち着いていく部材です。ここでも、状態を見ながら判断する状態監視保全が最適とされます。一方で、時間で一律に区切る時間計画保全や、壊れてから直す事後保全は適しません。初期の不安定な時期を、状態を見ながら丁寧にやり過ごすことが求められるからです。
このように、「型を見きわめてから方式を選ぶ」ことが、予防保全を効率よく回すための要になります。橋の劣化のしくみや、寿命をどう考えるかについては、こちらで掘り下げています。
【橋の寿命とは?|劣化のしくみと長寿命化の考え方】 https://hashiwatashi.com/bridge-service-life/
【橋の維持管理とは?|点検から補修までの全体像】 https://hashiwatashi.com/bridge-maintenance-basics/
予防保全を考えた鋼製橋脚の例
予防保全の考え方は、点検や補修のしかただけでなく、橋そのものの「つくり」にも取り込まれています。地震に強い鋼製橋脚(こうせいきょうきゃく)を例に、見てみましょう。
鋼製橋脚は、鋼板を箱状に組み上げた柱で、内部はダイアフラム(隔壁)や縦リブ(補剛材)で補強されています。地震時に大きな力を受けたとき、どこに、どのように力が集まるのか。それを見すえて、部位ごとに性質の違う鋼材や工夫が使い分けられています。耐震性を高めるための、いわば「先回りの設計」です。
隅角部(すみかくぶ:板と板が直角に交わる角の部分)は、力が集中しやすく、溶接の影響も受けやすい場所です。ここには、溶接性とじん性(粘り強さ)を高めた鋼材——高じん性鋼や予熱低減鋼——が使われます。もろく割れてしまうのではなく、粘って力を逃がせるようにするためです。
橋脚の本体には、降伏比(こうふくひ:降伏点と引張強さの比)を低くした鋼材、いわゆる低降伏比鋼を使うことが考えられます。降伏比を低くすると、鋼材が降伏してから壊れるまでに余裕が生まれ、地震のエネルギーを変形によって吸収しやすくなります。
さらに、橋脚の脚部にコンクリートを充填することで、座屈(ざくつ:圧縮を受けた部材が急に折れ曲がる現象)を抑え、粘り強さを高める工夫もあります。
こうした「壊れ方をあらかじめ設計しておく」発想は、予防保全と地続きです。被害が出てから対処するのではなく、どこがどう壊れるかを見通したうえで、その弱点を先に補強しておく。橋脚の耐震補強や、下部構造の守り方については、こちらで詳しく扱っています。
【下部構造の点検・補修・補強|基礎・橋台・橋脚の損傷と耐震補強の方法を解説】 https://hashiwatashi.com/substructure-maintenance/
【耐震設計の考え方|地震から橋を守る設計の基本】 https://hashiwatashi.com/bridge-seismic-design/
橋を守る人材をどう確保し、育てるか
予防保全への転換を進めるうえで、最大の課題の一つが「人」です。
いま、多くの地方自治体が、橋のことがわかる専門職員の不足を抱えています。専門職員が足りないと、橋の技術が次の世代へ受け継がれず、橋を点検し管理する体制そのものが手薄になっていきます。その先に待っているのは、自治体の技術力そのものの低下です。橋は地域に数多くあり、しかも年々歳を重ねていきますから、見る人がいなくなることの影響は、時間とともに大きくなっていきます。
この流れを食い止めるには、自治体の中で橋の整備に対応できる人材を育てること、そして、できるだけ多くの人に橋を「見て」もらうことが重要になります。専門家だけに任せるのではなく、橋に関心を持つ人の裾野を広げること。それが、点検管理の体制を地域全体で支える力になります。
橋に絞って言えば、防災・減災への対応として期待されているのは、予防保全への本格的な転換と、効率的な維持管理の実施です。この二つは、ここまで見てきた「対症療法型から予防保全型へ」「型に応じた保全方式の使い分け」と、まっすぐつながっています。
ここで特に注意したいのが、劣化による損傷が時間の経過とともに増えていく場合の進め方です。こうしたケースでは、「定期的な点検間隔」にこだわりすぎないことが大切になります。決まった周期が来たから点検する、というだけでなく、傷みの進み方という時間的な変化に基づいて、計画的な予防保全対策を施していく。傷みが加速しているのに周期だけを守っていては、対策が後手に回ってしまうからです。
周期に縛られず、傷みの実態に合わせて手を打つ。これは、人材という限られた資源を、本当に必要なところへ振り向けるための考え方でもあります。鋼橋の損傷と、その補修・補強の具体については、こちらで整理しています。
【鋼橋の点検・補修・補強|鋼材の損傷の種類と防食・補強の方法】 https://hashiwatashi.com/steel-bridge-maintenance/
まとめ
この記事では、橋の防災・減災への対応を、しくみと人の両面から整理しました。
防災は、公助を原則とした法定計画に基づく備えであり、減災は「防ぎきれない」という前提に立って被害を最小限にとどめる備えです。災害対策基本法は防災活動を予防・応急・復旧の三段階に分け、橋の維持管理は、その入り口にあたる「災害予防」の要を担います。
その維持管理は、傷んでから直す対症療法型から、傷む前に手を打つ予防保全型へと転換してきました。劣化の型を見きわめ、時間計画保全・状態監視保全・事後保全を使い分けること、そして鋼製橋脚のように「壊れ方を設計する」ことが、その実践です。
そして何より、これらすべてを支えるのは人です。橋がわかる人材を育て、多くの人に橋を見てもらうこと。決まった周期に縛られず、傷みの進み方に応じて計画的に手を打つこと。その積み重ねが、いざというときに橋を残し、地域の暮らしと命を守ることにつながります。


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