浸透探傷試験とは?|スプレー3本で亀裂をあぶり出すカラーチェックのしくみと手順を解説

浸透探傷試験とは? 橋梁

真っ白な粉の膜の上に、じわり——赤い線が浮かび上がってくる。さっきまで、どれだけ目を凝らしても見えなかった亀裂が、くっきりとした赤い模様になって姿を現す瞬間です。

非破壊検査の総論で「色で亀裂を拡大する方法」と紹介した、浸透探傷試験(しんとうたんしょうしけん)。英語のPenetrant Testingから、PT(ピーティー)と略され、現場では「カラーチェック」の通称でも親しまれています。ここでは、なぜ表面の小さな亀裂をそこまで探すのかという理由から、毛細管現象という物理の主役、5つのステップからなる手順とその勘どころ、利点と欠点、そして鋼橋での使いどころまでを、基礎から解説します。

なぜ、髪の毛ほどの亀裂を探すのか

そもそも、表面のごく細い亀裂を、なぜこれほど熱心に探すのでしょうか。

答えは、亀裂の先端に隠れています。亀裂(クラック)の先端は、半径がきわめて小さい、鋭い切れ込みです。部材に力がかかると、この鋭い先端に応力が集中します。集中した応力は亀裂を少しずつ押し広げ、亀裂は次第に成長していく。放置すれば、部材の強度低下、そして破壊へとつながりかねません。今日は髪の毛ほどでも、明日はもっと長い——亀裂とは、育つ欠陥なのです。

鋼橋でとくに警戒されるのが、溶接部の疲労亀裂です。車両が通るたびの繰り返しの力が、溶接部の細部に微細な亀裂を生み、育てていきます。ところがこの亀裂、幅は数マイクロメートル(1mmの千分の数)ということも珍しくなく、塗装の上から目視で見つけるのは、まず不可能です。見えないほど細いが、放ってはおけない——この難題に、化学の力で答えるのが浸透探傷試験です。

【鋼橋の点検・補修・補強|鋼材の損傷の種類と防食・補強の方法】 https://hashiwatashi.com/steel-bridge-maintenance/

浸透探傷試験とは——表面の「開いたきず」を可視化する

浸透探傷試験とは、表面に開口したきず——表面まで口を開いている亀裂やきず——に色の付いた液体を染み込ませ、それを白い現像剤の上に吸い出させることで、微細なきずを目に見える模様として検出する非破壊検査です。

対象は、表面の開口きず。表面に口を開けていないきず、つまり内部に隠れたきずは検出できません。また、素材そのものが液体を吸ってしまう多孔質材料は対象外です。

浸透液には、大きく2つのタイプがあります。一つは、赤色の浸透液を使う染色浸透探傷。白い現像剤の上に赤い模様が現れる、最も一般的なタイプで、明るい現場でそのまま観察できます。もう一つは、蛍光浸透探傷。蛍光を発する浸透液を使い、暗くしてブラックライトを当てて観察します。感度が高く、工場での製品検査などで活躍します。橋の現場で定番なのは前者の染色タイプで、試験の方法は、JIS(JIS Z 2343)に規格として定められています。

原理——行きも帰りも、毛細管現象

この試験の物理の主役は、毛細管現象(もうさいかんげんしょう)です。

毛細管現象とは、細い隙間や管に、液体がひとりでに吸い込まれていく現象のこと。ティッシュペーパーの端を水につけると水が繊維の隙間を這い上がってくる、あの現象です。植物が根から吸った水を高い枝先まで届けられるのも、この力の助けによります。隙間が細ければ細いほど、吸い込む力は強く働きます。

浸透探傷試験は、この毛細管現象を、行きと帰りの二度使います。

行き。表面に浸透液を塗ると、亀裂というきわめて細い隙間が、毛細管現象で液を奥へ奥へと吸い込みます。数マイクロメートルの隙間は、人の目には見えなくても、液体にとっては立派な「吸い込み口」なのです。

帰り。表面の余分な液を拭き取ったあと、白い微粉末の現像剤を吹き付けます。この微粉末の粒と粒の隙間もまた、無数の細い毛細管。今度は現像剤の側が、亀裂の中に残った浸透液を、毛細管現象で表面へと吸い出すのです。吸い出された赤い液は、白い膜の中でにじみ広がり、実際のきずの幅よりもずっと太い、くっきりした模様——指示模様(しじもよう)となって現れます。数マイクロメートルの亀裂が、数倍にも拡大されて可視化される。入るときも、出るときも、同じ物理。往復の毛細管現象が、この試験の心臓部です。

手順——5つのステップと、それぞれの勘どころ

手順は、5つのステップで進みます。順に見ると、一つひとつに明確な役割と勘どころがあることが分かります。

ステップやること勘どころ
①前処理試験面の油脂類・水分・錆・ほこりなどの汚れを除去するきずの口をふさぐ汚れがあると、浸透液がきずに入れない。すべてはここから
②浸透処理浸透液を塗布し、染み込ませる塗布後5〜10分置き、毛細管現象できずの奥まで行き渡らせる
③除去処理余分な浸透液を取り除く表面の液だけを拭う。きずの中の液まで洗い流さない力加減が命
④現像処理白い現像剤を塗布する微粉末がきずの中の液を吸い出す。厚すぎるとにじみが出ず、薄すぎると見えない
⑤観察現れた指示模様を観察する亀裂は線状の模様として、拡大されて浮かび上がる

とりわけ味わい深いのが、③の除去処理です。表面に広がった浸透液は拭き取れるのに、亀裂の中に入り込んだ液は、隙間が細すぎて拭き取れずに残る——この「拭き残し」こそが狙いです。表面をきれいに消してこそ、次の現像で、きずの中の液だけがあぶり出される。消すことが、見つけるための準備なのです。ただし力任せに洗いすぎれば、肝心のきずの中の液まで流してしまい、欠陥の見落としにつながります。この加減が、検査員の腕の見せどころです。

そして⑤で現れた指示模様は、写真に撮ればそのまま検査の記録になります。赤い線の一枚の写真が、「ここに、この長さの亀裂があった」という動かぬ証拠として残るのです。

利点——軽く、選ばず、写しやすい

浸透探傷試験の利点は、4つに整理できます。

第一に、溶接部・母材の表面欠陥(亀裂)を検出できること。鋼橋点検の主目的そのものです。第二に、材質を選ばないこと。磁石に付く鋼はもちろん、付かないステンレスやアルミ、さらには金属以外にも使えます。この汎用性は、磁性体にしか使えない磁粉探傷試験にはない持ち味です。第三に、使用材料が比較的少なく、軽いため持ち運びが容易なこと。現場の基本装備は、洗浄液・浸透液・現像剤のスプレー缶3本。カバンひとつで橋のどこへでも向かえる身軽さです。第四に、写真などによる記録が容易なこと。指示模様は視覚的な証拠として、報告書にそのまま載せられます。

セロファンテープ試験に続いて、ここでも「身近な道具立てと、確かな物理」の組み合わせです。特別な大型機器ではなく、スプレー3本と正しい作法。非破壊検査の面白さが、よく表れています。

欠点——表面しか見えない、素材を選ぶ場面もある

一方、欠点は原理に根ざしてはっきりしています。

第一に、内部の損傷は測定できないこと。浸透液は、表面に口を開けたきずにしか入れません。表面下に隠れた亀裂や、溶接内部の欠陥は、この試験では捉えられず、超音波探傷試験など内部を診る手法の出番になります。

第二に、多孔質材料や表面の粗い材料には使えないこと。素材全体が液を吸ってしまえば、きずとの区別がつかず、全面がにじんでしまいます。また、探傷剤や試験面の温度にも適した範囲(おおむね10〜50℃)があり、極端な寒暑の環境では標準の方法をそのまま使えません。

なお、この試験は手順こそシンプルですが、除去の力加減や指示模様の判読には訓練が要り、実務では非破壊試験の資格(JIS Z 2305に基づく技術者資格)を持つ技術者が実施・判定にあたります。スプレー3本の手軽さと、判定の専門性。その両方で成り立っている検査です。

鋼橋での使いどころ——探傷トリオの中で

鋼橋の点検における浸透探傷試験の立ち位置を、仲間たちとの関係で確かめておきましょう。

表面の亀裂を探す相棒が、磁粉探傷試験(MT)です。磁化した鋼の漏れ磁束に磁粉を集めて亀裂を描き出すMTは、表面直下のきずまで捉えられる強みがある一方、磁石に付く材料にしか使えません。PTは表面開口のきず限定ですが、材質を選ばず、装備も軽い。現場の条件や対象に応じて、この二つは使い分けられ、そして内部のきずは超音波探傷試験(UT)が受け持つ——表面のPT・MT、内部のUT。鋼橋の探傷トリオは、守備範囲を分け合う関係にあります。

定期点検の近接目視で溶接部に怪しい線を見つけたとき、それが塗膜の割れなのか、鋼材本体の亀裂なのか。その白黒をその場ではっきりさせられるPTは、点検から診断へ橋渡しをする、確認の切り札として働いています。

【非破壊検査とは?|壊さずに橋の中を診る11の方法を解説】 https://hashiwatashi.com/non-destructive-testing/

【橋の点検方法を解説|目視・打音・ドローンの活用】 https://hashiwatashi.com/bridge-inspection/

まとめ

この記事では、浸透探傷試験(PT)を解説しました。

浸透探傷試験とは、表面に開口したきずに浸透液を染み込ませ、白い現像剤の毛細管現象で吸い出させることで、微細な亀裂を拡大された指示模様として可視化する非破壊検査です。前処理・浸透・除去・現像・観察の5ステップ、とりわけ「表面は消し、きずの中は残す」除去処理の妙が、この試験の肝。材質を選ばず、スプレー3本で橋のどこへでも向かえる身軽さと、写真がそのまま証拠になる記録性で、鋼橋の溶接部を守る定番であり続けています。

見えない亀裂に、色を与えて語らせる。毛細管現象という、ティッシュが水を吸うのと同じ素朴な物理が、橋の安全を支える検査になる——浸透探傷試験は、身近な科学の底力を、赤い一本の線で見せてくれる試験なのです。

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